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第17話 類は友を呼んで少女を呆れさせる

 先に仕掛けたのは白銀の械人カイジンであり、まだ届かない距離で振るわれた両拳より、左右の腕に宿っていた燐光を球状へ変えて撃ち放つも、黒鉄の械人は身体を丸めながら前方への回転跳躍でかわす。


 円運動の軸を斜めにかたむけている状態なのもあって、そこから繰り出された蹴撃しゅうげきは綺麗な弧を描き、敵手の首元へ吸い込まれていった。


『ッ、弾抜たまぬけ!?』


 某格闘ゲームの界隈かいわいで使われる用語を叫んだ本人の意志に関係なく、自動防御の特技によって左腕がかざされ、銀色の手甲が必殺の一撃を受け止める。


 ただ、それは黒犬ブラックドッグに転じたマスターに向け、的確な助言などげるクリムの予想範囲内であり、着地とほぼ同時に上半身のひねりも加えた左ボディフックが銀拳シルバーフィストへ叩き込まれ、下げられた右腕の防御越しに脇腹へ多大な衝撃を与えた。


『うぐ…ッ、あぁ……』

『ふふっ、力こそ正義ジャスティス膂力りょりょくはこちら側にあり!!』


 たからかに史郎の脳内へ響いた融合状態にある彼女の言葉通り、特技の自動防御からも察せられるように同じインファイター型だが、敵械人の特性は護りにある。


 それと対照的な黒犬ブラックドッグは攻めに重きがあるので、攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの手数で削れば、ぎょし切れると金髪緋眼の少女は判断したのだ。


 何やら脳筋なAIの宣言を聞くかたわら、すくい上げるように撃ち込んだ右ボディアッパーが防ごうと動かされた両腕の隙間を押し広げ、銀拳シルバーフィストの腹部装甲を砕いて鳩尾みぞおちに喰い込み、筋肉質な身体をくの字に曲げさせて突き飛ばす。


 さらに低くなった頭を狙い、適度な間合いから繰り出された黒犬ブラックドッグの踵落としは、又しても自動で掲げられた両腕の交差防御にはばまれるが、もう力など入っていない。


『うがッ!!』


 しのぎ切れず、後頭部に渾身の一撃をもらった白銀の械人は短く呻き、顔面から荒地に倒れていく。


 累積されたダメージにより、個々の生物的な生命力を可視化したHPが尽き掛けているため、ここから趨勢すうせいくつがえることはないだろう。


『さて、勝負ありだ』


 若干、疲れた様子で呟き、黒鉄の械人が大爪付きの右腕を構えて、敗者に止めを刺そうとするものの……


 その動きは中途半端に終わり、五感の一部を共有するクリムや、遠巻きに観戦する野次馬らに疑問を与えた。


『金に困ってる訳でもなし、いい格闘戦を楽しませてもらったからな』

『うぐッ、負けたのは腹立たしいが、嫌いじゃないぜ、そういうの』


 差し出された手を掴み、引き上げられるままに満身創痍の銀拳シルバーフィストが身を起こして、網膜投射された本人しか見えないウィンドウをタップすれば、何やらフレンド申請のようなものが送られてくる。


 それに反応するように黒犬ブラックドッグの追加装甲が現化量子の燐光となってほどけ、隣に蜂蜜色の髪(ハニーブロンド)なびかせながら、見目秀麗な電子の妖精が顕現けんげんした。


 “補助AI、融合してたのか?” などと驚く白銀の械人を余所よそに、やや呆れ顔のクリムは可愛らしく小首をかしげるのみ。


「どうするの、受け入れる?」

『あぁ、そうしてやってくれ』


 照れ隠しなのか、半ば投げやりな態度で応じるマスターに内心で微笑みつつ、彼女が応じれば “UnderWorld” で最初の友が史郎にできる。


 仮想世界の無銘むめい都市で酒を飲む口約束をした後、お互いの同意で交戦状態を解除して… 今日も彼はプレイヤー達の拠点まで辿り着けず、待機時間で現身アバターのHPを回復させるためにログアウトしていくのだった。

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