第14話 リア充は爆発不可避
―― 西暦2056年 12月25日 ――
朝鳥の声で中條聡子が目を覚ました直後、視界に飛び込んできたのは知らなくも無いが、あまり意識したことのない天井だった。
(うん、先輩の部屋は学生時代に数回ほど来たけど、仰向けに寝転がることは一度も無かったなぁ…って、頭痛い!?)
ぎぎっと油の切れたような動きで首を横に向けると、小さめな円卓にコンビニで買い込んだ沢山のビール缶が並んでいる。
どうやら、完璧に二日酔いのようだが、現実を直視すると今日は月曜日だ。
「うぐっ、詰んでる、寝る、以上」
ぼそりと駄目ダメな台詞を吐いた新卒社会人であり、社内の各部署で可愛いと評判の聡子は湯たんぽ代わりの史郎に縋りつき、ぐりぐりとラフなTシャツ姿の胸元に顔を擦り付ける。
傍から見れば、貴様はネコかと突っ込まれそうな状況に身動ぎ、部屋の主が床面に敷かれた絨毯より上半身を起こしても、その行為は留まるところを知らない。
「………… 何故、此処にいる、没入用のベッドは譲ったはずだが?」
「ん~、深夜に目覚めた時、先輩が寒そうだったので、温めてあげちゃいました」
悪びれなく宣う聡子の指摘はさもありなん、誰かを泊めることなど想定してないため、毛布や掛布団などの寝具が一人分しかなく、肌寒かったのは確かである。
ただ、着飾った服を脱ぎ、男物の白シャツを勝手に羽織っただけの下着姿で密着されると、何かの弾みで間違いが起きそうだと史郎は溜息した。
心頭滅却とばかりに仕事で取り組んでいる開発案件を思い浮かべ、様々なアプローチを検討し始めた途端、ぎゅっと枕のように抱き締められてしまう。
「今日はもう、一緒に休んじゃいましょうよ~、先輩ぃ~」
「ぐっ、やめろ、胸の駄肉を押し付けるな、俺のSAN値を削るんじゃない!」
「むぅ、そんな言葉で誤魔化さず、あたしに悩殺されてるの、素直に認めるっす」
「というか、昨日の今日で二人とも休めば、要らぬ誤解が立つだろう!!」
同じ寝具にくるまりながら、半裸に近い男女が “じゃれあう” こと暫し、 電源が点いたまま卓上に置かれた眼鏡型ウェアラブル端末のカメラで、仲睦まじい様子を窺っていたクリムの我慢が限界に達する。
自身の現状を聡子に説明するのは面倒なのだが、ちくりと心を刺す電気信号に突き動かされて、彼女は量子計算機と繋がる音響機器のスピーカーに干渉した。
『そこっ、朝からいちゃつくな、リア充爆発しろ!!』
「うきゃあ!?」「ッ!?」
突然の声に揃って驚くも、ここ最近の事情など知らない聡子は上半身を起こして、挙動不審に室内を見廻してから、俄かに俯いて考え込む。
何かしらの琴線に触れるものがあり、微かな記憶を呼び起こされたのだろう。
「なんか、聞いたことのある声だけど… クリーム、ヒルト?」
某VRMMOに於けるAI搭載型のNPC群は自社サーバのハッキングにより、外部流出させられた情報資産の一部であるため、驚愕の表情となった後輩女子が瞳を丸くした矢先、その耳に眼鏡型である端末のフレームが掛けられた。