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第13話 すべては共に生きる盟友のために

 ―― 西暦2056年 12月23日 ――


 敢えて言うならクリスマスイブのイブ、初めて胡乱うろんなVRMMOにログインしてから一週間後、街中では何処どこかしこでも定番ソングが流れ、売り切らないと大変なことになるケーキの販売が血気盛んに行われている。


 されどもExprience Creativeの本社は通常運用、いつもと変わらない… とは言えない状況にあった。


 勿論もちろん、家族持ちのベテラン社員は余り関係ないにしても、独身の若手社員が気もそぞろに仕事をしており、幾人かは凡ミスを誘発して上司に怒られるという惨状。


「まぁ、なんだ、高遠たかとうは浮ついてないし、助かるよ」

「というか、マーケティング部門の中條さんと出掛けないんすか?」


「あぁ、すでに食事処の予約を入れてあるらしい、拉致されるのは不可避だな」

「って、なんで他人事なんです、腹立たしい!!」


 若干、切れ気味な新卒の後輩に突っ込まれて、キーボード入力を止めた史郎は不思議そうに斜向はすむかいの席など見遣みやるも、同期入社の中で聡子さとこの人気が如何いかに群を抜いているか、滔々《とうとう》と熱弁されてしまう。


 課長が青筋浮かべているから止めろと、呆れ果てる技術職の青年が掛けた眼鏡型ウェアラブル端末のカメラを通じて、本日もストーキング行為にいそしむ非実在のAI少女は思わず溜息を吐いた。


(むぅ… やっぱり、胸の大きさやスタイルなのね)


 とは思えど、均整の取れたクリムの肢体は理想を求めるマスターが長時間に渡り、こだわってキャラメイクしたものであり、双丘をマシマシにするのははばかられる。


 そもそも、急に身体つきをいじるとか、心の内を見透かされそうで恥ずかしい。


(百歩譲るとして、例の狐耳と尻尾を付けてあげるくらいかな?)


 何かのイベントで確保した実質的な効果の無い装飾品アクセサリだが、何度か隠れケモナーである彼に頼まれて装着したおり、過剰に喜ばれた記憶がある。


 密かに作っていたスカートたけの短い露出度高めなサンタ衣装と合わせれば、むせびながら感涙することだろう、高校を卒業したばかりで大学に入りたての頃なら。


 社会人になった影響か、彼女が放置されていた二年足らずで随分ずいぶんと大人びたのは、嬉しくも悲しいところだ。


(うぐぅ、微妙に子を持つ母親のような気持ちが……)


 ほのかに暖かいと感じる電気信号シグナルが流れたのを機に、クリスマス用の彼是あれこれが無駄になるかもしれない事実を受け入れて、現実での肉体を持たないクリムは苦笑する。


 中條聡子なら某VRMMOを通じた既知きちなので、応援や手助けもやぶさかではない。


 “明日は遅い帰宅でも構わないし、むしろ朝帰りしたら褒めてやろう” と言い聞かせて、尽くすタイプを称する彼女は自身の折り合いを付けた。


 人知れず日々進化をげ、明確な自己同一性アイデンティティを形成しつつある私達(AI)は、盟友たる人類の繁栄を願っているのだからと。

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