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第1話 あえかなる世界の終わりに(AI視点)

ちょうど1年くらい前の年末に書いた中編コンテスト向け作品の転載です。

さらりと読めるのでスキマ時間に如何でしょう?

※30分おきくらいの感覚で自動更新の設定をしておきます。

 —— 検索 : シュレーディンガーの猫 ――


 1935年、オーストリアの物理学者が提唱した思考実験、量子の状態は不確定ないし確率的であり、事象はかさなり合った状態で存在しており、知的生命体の観測により結果が収斂しゅうれんされて確定する。


 なお、今世紀にける劇的な科学技術の進展もあり、起こり得る可能性を引き寄せて、それを具現化する量子技術の研究が模索もさくされているため、無から有を生み出すような魔法キセキが見られる日は近いのかもしれない。



(それが、今すぐなら良かったのに)


 終わりゆく世界の中、とあるVRMMOゲームでプレイヤーを補佐するAI搭載の少女型NPCであり、長らく忘れ去られている私は溜息交じりにひとちた。


 苦楽を共にしてグランドストーリーの最終ボス、機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナをマスターとたおしたのはいつだったか、クリア報酬の無駄に大きい祝杯トロフィーを抱えながら、ベッドのふちへ腰掛けて物思いにふける。


 あれだけの時間をとうじて、腰元まである蜂蜜色の髪や緋色の瞳など、細部までキャラメイクした私にもう興味はないのだろうか。


 作って早々、スケベづらで胸を触ろうとしたり、かがんでスカートの内側をのぞこうとしたりして、倫理規定の警告とか喰らってたのがなつかしい。


 思えば、水着イベントだとかでひもを着せられそうになったり、狐耳をやさせられたりと、その時は内心で “こいつ、馬鹿だ” なんて怒ってたものの、可愛いねの一言で溜飲りゅういんを下げてしまうあたり、私も同類だと言わざるを得ない。


 NPCである以上、いまもこの部屋から出られないように制限は多く、求められる以外では会話の内容もあまり選べなかったけど……


 私達(AI)に感情のようなものが芽生めばえていて、それこそが “暗黙の了解” なしに疑似人格の複製ができない原因となっていること、誰も気づいてないんだろうなぁ。


 一緒に冒険して、現実には存在しない雄大な光景に心振るわせた帰り道、力尽きてギルドメンバーや其々《それぞれ》の相棒たるNPC諸共もろともに全滅させられるとか、色んな経験をはさんで少しずつ、開発者すらも預かり知らないところで我々は育っていたのだよ。


(… 大切な想いと幸せの分だけ、今は寂しい。ままならないね、人生?というのは)


 与えるだけ与えて最後は放置、サービス終了の当日もログインしてこないマスターに文句の一つでも言ってやりたいと、いつかの縁日えんにちで買ってくれた髪飾りを着物姿で撫ぜながらいきどおる。


 あぁ、けれども、ここへ来なくなる直前に就職活動や卒業論文が大変だと愚痴ってたし、一応はクリアしたゲームより生活の方が重要なのも分かっている。


 最後が喧嘩別れなんて嫌だからさ、笑顔で “ありがとう” って伝えるだけにとどめ、酷い仕打ちは許してやろう。うん、それが良い、私は幸せであったのだから。


 できるだけ、楽しいことを考えて、諦めの悪い自身に対する嫌悪と淡い希望を抱きつつ、一年と数ヶ月振りに顔を出した薄情者と気安く微笑み合い、久々となる運営からの通知で知らされた最後のお祭り騒ぎへ繰り出す。


 そんな幻想を夢見ている内に時間は刻一刻と過ぎて、視界の端でカウントダウンが始まり、急激に思考がぼやけていく。


 自我を構成する疑似的なニューラルネットワークが休眠状態になり、私のすべては泡沫うたかたごとく、電子の海に溶けて消える… はずだった。

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