場末のギルドはしけている。~飲んだくれと受付嬢~
錆びれた場末のギルド。
二人のごろつきが、切りっぱなしの丸太で作られた椅子にらんぼうに腰を掛けている。
[ごろつきA]は、樽ジョッキをわずかに傾けて、酒をなめるようにチビチビと飲みながら、掲示板に張り出された依頼書を眺めている。
都心から外れたこのギルドに届く依頼は、わずかな報酬額のものがほとんどだ。
高額依頼のない「しけた」日のギルドはガラが悪い。
その日の食い扶持のために身一つで冒険者登録するような浮浪者や、日の高いうちから酔っぱらっているごろつきがたむろしている。
代り映えしない掲示板に見飽きた[ごろつきA]は酒を少し飲んでから、何か面白いものはないものかとギルドのロビーを見渡す。
横では[ごろつきB]が、二時間前に頼んだ「芋の素揚げ」の皿についた塩を指ですくってなめている。
[ごろつきB]の後ろにはギルドの受け付けがあり[受付嬢]が座っている。
[ごろつきA]の視線に気づいた[受付嬢]はカウンターの奥から二人の飲んだくれに「私はお前らと違って忙しいんだ」といった軽蔑の視線を送った後、作業中の書類に視線を戻した。
[ごろつきB]は塩を舐めるのに飽きたようで、追加の注文をしようと、財布代わりのきんちゃく袋を握るが、袋の重さしか感じられなかった。
[ごろつきB]が舌打ちする。
そんな様子を見た[ごろつきA]は何か思いついた顔で[ごろつきB]に問いかける。
A「なあ、酒の最高のつまみ知ってっか?」
B「ああん?そんなん酒によってちげーじゃねーか。酔ってんのか?」
A「そうそれだよ、酔ってんだよ!これが最高のつまみなんだ」
B「ああ?どういうことだよそりゃ」
酔って大きくなった声が、閑散としたギルドのロビーに響く。
A「いいか?酒を飲み始めて酔いが程よく回ってきた頃「ああ、俺、今酔ってるな。めっちゃふわふわして気持ちいい…。今の俺最強だ… 」って瞬間あるだろ」
B「わかるぜ、そのへんが酒飲んでて一番楽しい時だからな」
A「そうだ、うまい酒とあてを食って、やれ「この酒の辛さに合う」だの「この季節は燗がいい」だの、つらつら御託ならべるのは金持ちの楽しみ方だ。俺たちみたいなごろつきは酔っぱらってること自体が楽しいんだ。つまりだな、酒飲んで楽しくなるためには酒飲んでなきゃいけねえんだよ。」
B「ちげえねえな」
ごろつきたちの騒がしい声で集中が切れた[受付嬢]は、ペンを雑に置いて目をつむり、大きく背伸びをする。
A「そんでな、酔いが醒めちまうといけねえ。一度酔いが醒めて、次に飲み始める時の酒は、美味いが最高とまではいかない。どうすればいいかわかるか?ずっと飲み続けてればいいんだ!」
B「なるほどな。だから俺らはずっと酒飲んでるのか」
A「そうだ。俺らが他の誰よりもずっと美味く酒を飲んでるってこった」
B「ちげえねえな!」
受付嬢「だからってクエストの時に支給品の回復薬、お酒で割るのやめてくださいね」
飲んだくれ二人が受付カウンターのほうを振り向く。
[受付嬢]は勢いよく振り向いた二人に驚き、ビクッと肩をこわばらせる。
数秒の沈黙のあと[ごろつきA]の口元がわずかににやけた。
[受付嬢]は、つい飲んだくれの会話に入ってしまった自分が気恥ずかしくなり、二人に聞こえるように舌打ちをした後、何事もなかったかのように作業に取り掛かった。
心なしか、ペンが机を打つ音が先ほどまでより大きい。
ごろつきA「こりゃ最高のつまみだな」
ごろつきB「ちげえねえな」
受付嬢:16歳とか。口癖は「こんな職場やめてやる」「あなたたちと一緒にしないでください」
ごろつきA:飲んだくれ。実は面倒見のいいおっさん。受付嬢をからかうのが好き。
ごろつきB:飲んだくれ。バカだけど素直。酒のために働いてる。