サーシャとの10年間
美佳は新しい学校でも「風景」のことや「死」のことをずっと考えていた。そんなとき、ある女の子が話しかけてきた。「ねえ。一緒にご飯たべない?」
女の子は大人しそうで、ぼそぼそと話した。
「ええ。一緒に食べましょう。」
美佳は言った。その女の子の名前は詩織といった。
詩織は少しずつ、美佳に近付いていった。美佳は最初、心の中で抵抗したけれど、詩織なら、「風景」のことや「死」のことがわかってくれるような気がした。ある時、美佳は言った。
「ねえ。雨が降りそうよ。うちに来ない?」
「ええ。いいけど。雨が降りそうだから?」
「ええ。もちろんよ。」
詩織は不思議そうな顔をした。
詩織と別の中学校になって、美佳はまた一人ぼっちになった。サーシャだけが話し相手だった。
ある時、美佳は言った。
「ねえ。サーシャ。3年経ったわ。やっぱりこの世界にわたしの居場所は無かった。わたしはあの「風景」に行くことにしたの。もう戻れなくてもいいの。」
サーシャは悲しい顔をした。でも、美佳がもう意見を変えないことが顔を見てわかった。
サーシャは言った。
「わかったわ。美佳。もうお別れね。この10年間、楽しかったわ。」
美佳はサーシャを抱きしめた。でも、もうサーシャはただのぬいぐるみになっていた。サーシャは冷たく笑っていた。