いじめ
美佳の成績は、いつも美術以外は散々なものだった美術に関してだけ先生はいつも褒めてくれた。先生は母親を呼び出した。美佳は先生と母親が教室で話している間、廊下で椅子に座ってぼんやり外を眺めていた。
美佳の母親は美佳をカウンセラーに連れて行くことにした。美佳は毎週一回、カウンセラーに会った。カウンセラーは40歳くらいの女性でいつもにこにこしていた。美佳は思っていることを少しずつ話すようになった。父親のこと。母親のこと。サーシャのこと。「死」のこと。「風景」のこと。カウンセラーはにこにこしながら、「うんうん。それで。」と言った。そして、最後にはいつも絵を描いた。カウンセラーは絵をいつも褒めてくれた。でもカウンセラーの言うことは美佳には分からなかった。
学校では、女の子からはノートに「気持ち悪い。死ね。」と書かれた。男の子からは後ろから蹴られたりした。美佳はいつもそんなとき感覚を消した。そうすれば楽だった。
美佳は自分の部屋から雷をみるのが好きだった。学校では雷が鳴るとみんな怖がるのに、美佳だけは目を輝かせていた。美佳が光る雲間を眺めていると影が見え出した。するとサーシャはそれが雷神だと教えてくれた。雷神はゆらゆら揺らめきながら雷を落としていた。美佳はいつまでもそれを見ていた。
いじめがひどくなりだしたころ、美佳の母親は見るに見かねて美佳を転校させることにした。美佳はなにも言わず、遠く離れた学校に通うことになった。