表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美佳の風景  作者: 中井田知久
2/5

サーシャと風景

美佳の父親はある有名な電気会社の社長で、国内のみならず海外をも飛び回っていて、ほとんど家に帰ってこなかった。帰ってきても、美佳の母親との喧嘩は絶えなかった。美佳はいつも一人、部屋でこもって両親の大きな罵りあう声を聞いた。サーシャは言った。

「耳を塞ぐのよ。美佳。あの声を聞くとあなたは磨り減ってしまうのよ。」

美佳はサーシャの言った意味が分からなかったが大人しく両手で耳を塞いだ。すると、何も聞こえなくなった。静寂は美佳を落ち着かせた。それから美佳は両親が喧嘩するたびに、耳を塞ぐことを覚えた。小学校に上がる頃には、両手で耳を塞がなくても、自分で耳を聞こえなくすることが出来るようになっていた。


美佳は小学校になって、自分が生きている世界とは別の世界があることに気付いた。それがあることに気付いたのは算数の授業中だった。先生が言っていることがどんどん遠ざかり、何か「風景」のようなものが見え出した。それは美佳の見たこともない「風景」だった。きらきらとまばゆく、木々はいつも緑で、心地よい風が吹き、黄金の草原が広がっていた。美佳はその草原でいつまでも寝ていられるのだった。寝ているのを起こすのは、先生だった。

「上原さん。先生の話、聞いていた?」

「いいえ。聞いていませんでした。」

先生はいつも怒った。周りのみんなはいつも笑っていた。美佳は耳を閉ざした。


美佳はサーシャに「風景」の話をした。どんなに綺麗な場所なのか。わたしはいつまでもそこで寝ていられるのよ。わたしはそこにいきたいの。サーシャは顔を曇らせた。

「ねえ。美佳。そこは安全であり危険な場所なの。そこは「生」も「死」もないの。永遠なのよ。でも、「永遠」はこの世界にはないの。行ったら、もう戻れないわよ。」

「いいわよ。わたし、戻れなくても。この世界はわたしのいる場所ではないのよ。」

「でも、わたしとは会えなくなるわよ。」

美佳は口をつぐんだ。サーシャと会えなくなるのは悲しかった。

「あと、3年頑張ってみるわ。でも、我慢できなくなったらわたしはそこに行くわ。」

美佳は力強く言った。サーシャは何も言わず、首を振った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ