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【コミック2巻発売中】おつかれ聖女は護衛騎士と逃亡生活を満喫する ~今度は聖女をやめてみます!~  作者: ゆいレギナ
おせっかいな女編

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懐かしの林檎ジュース×余計な一言

 ……教会か。

 正直、あまりよい思い出はない。


 徴集された直後、狭くて暗い個室に閉じ込められて。冷めた食事は一日二回。寝る前に一度だけ祭壇の前に集められては、説法を聞く。そんな日々が、ひと月以上はあっただろう。……我ながら、よく発狂しなかったな。


 その後、集団生活。朝早くから夜遅くまで、見習いとして教会の仕事の手伝いと白魔法の訓練にいそしむ。当然、休む時間は説法を聞く時間くらい。そんな日々の中で友情なんて育めるはずもなく……隣に立つのはすべてを諦めた者か、『国家聖女』というわずかな自由を夢見て野心を燃やしていた者のみ。


 そんな同志たちを踏み台に、私は『国家聖女』になって――そして逃げた。


 もちろんルーフェンさんに協力したいのは山々だけど……私が頭を下げに行ったってな~。上手く行く気がサラサラしない。どこかの街で、教会の人らを蹴散らして逃げてきたこともなかったっけ?


 そんなことを考えながら、私はルーフェンさんに訊いた。


「そもそも、どうして魔族が攻めてきたんですか?」


 第二派から戻ってきた兵士たちを、ざっと治療し終えて。

 休憩がてら、備品の確認をしていたルーフェンさんに話に行けば、「こんなモンしかねぇけど」と一杯の飲み物を差し出してくれた。甘酸っぱい香りがするジュース。そういや、前に下水道の隠し部屋でもいただいたな。林檎って、ザァツベルグの名産なんだっけ。


「とても有難いんですけど……今はジュース、とても貴重なのでは?」


 ジュースなら食べるに難しい重症人でも栄養がとれるし、何より子供たちが喜ぶだろう。歩けなくなったり、親を亡くしたり……気落ちしている子供たちを、私はこのわずかな時間に何人も見かけた。


 だけど、ルーフェンさんは苦笑する。


「あんま量がないからよぉ。だからこそ、今いちばん倒れられちゃ困る人に飲んでもらうわけだ」

「それが私ですか」

「聖女が助けに来てくれた――それだけで、今みんなの士気が上がっている。本当に助かった。先行して来てくれたイクスの野郎にも、今だけは頭が上がらねぇな。あいつがいなかったら、今どうなっていたことか」


 元々、エラドンナ砦には大勢の兵士が配置されていたけれど。それでも魔族と戦い慣れた者なんて、ほとんどいなかっただろう。その点、彼は高い戦闘技能はもとより、何度も魔族と戦ってきている。……魔王さんは『イクスは来てない』なんて嘘吐いてたけど。この場にイクスがいなかったら、私ひとりじゃ、どうなっていたかわからない。


 あとで魔王さんには文句言わなきゃ。

 転送後、一切顔を見せてくれないお茶目な美少年に内心文句を言いながらも。私は薄暗い倉庫の一室で、有難くジュースを頂戴した。美味しい。まるで疲れが抜けていくよう。


 私が「ほあ~」と間抜けに一息吐くと、くつくつ笑ったルーフェンさんの表情が引き締まる。


「それで先ほどの質問だが……本当にいきなりだった。突如、商店街から悲鳴が聞こえてな。その後はあっという間に阿鼻叫喚さ。最初は人の形をした一匹の半透明な魔族だったんだが……ちょうどオレもその現場に居合わせてな。気が付けば、あっという間に五匹だったか。聖女ちゃんやイクスの野郎にとっては大した数じゃねぇかもしれないが……平和ボケした兵士らには――」

「十分大したことありますよ」


 こちらは経験があるから、『ビビらず先手必勝&一撃必殺』というコツを掴んでいるけど、あれだけ大きくて、牙とか鋭くて、容赦なくよくわからない魔法とか使ってくる相手――怖くないはずがない。怯えるのも、本来なら生存本能のひとつだ。それを無視していきなり全力攻撃とか……よほど鍛錬を重ねないとできるはずがないよ。


「それが第一波。万事休すかと思った時、ちょうどイクスが来てくれて退治を――」

「一匹取り逃がしたがな」


 倉庫の扉が開かれる。そこにはうんざり顔のイクスだ。壊れた軽鎧を外したみたい。うん、ぱっと見、怪我はないようだけど……。彼は壁にもたれかかって腕を組んだ。


「こんな暗い場所で、女を連れ込んでいる場合か?」


 連れ込まれる方も、連れ込まれる方だが。そう吐き捨てるイクスは、まるでこちらを挑発しているようで。


 ルーフェンさんが耳打ちしてくる。


「さっきも思ったんだけど……なに? 二人、喧嘩でもしたの?」

「……そんなようなとこです」

「ふ~ん。どっちが悪いか知らないけど、聖女ちゃんが折れた方がいいんじゃない? この男、絶対根に持つタイプだろ」

「善処します」


 ほんと、私が謝って元に戻れるなら。いくらでも頭なんか下げるんだけどな。

 イクスは私の顔なんか見ずに、淡々と話す。


「先の襲撃、魔族はざっと十三匹だ。確実に数が増えた。それに一波の時に取り逃したやつは見当たらなかったし……またすぐ、次が来る可能性も高いだろう」

「あぁ……報告ありがとな」


 お礼を口にしながらも、やっぱりルーフェンさんの表情は暗い。そうだよね、着実に動ける兵士の数は減っているのは見て明らか。どうにかしないと……。


「砦に留まっている人数が多い気がしましたが、近隣の街に避難したりは?」

「それがなぁ~……」


 私の質問に、ルーフェンさんは口を尖らせる。


「一番近くて大きな所だと、ウロードになるんだが……」


 ウロードの街は以前、魔族の女の子と可愛らしい(?)ご令嬢の恋路を見守った街である。……そう、教会の司教らとどんぱちした所。その時はウロード公爵嫡男のお力を借りて、なんとか逃げ出したんだけど……あの嫡男さん、ご理解ありそうな感じだったんだけどな。私たちのせいで教会との仲は悪くなっただろうから、何かあったのかも。


 とりあえず、今は戦えない人たちを避難させることは先決。

 ウロードの方向がダメだと、あとは――


「なら――老人湖。ウリドの村の方は当たりましたか?」


 ウリドの村は、山岳の麓にあるのんびりした場所だ。あのダイオウウリドナマズを釣った場所。いかなる理由だろうとも、若い人が行ったらきっと大歓迎だと思うんだよね。いろいろな意味で。


 だけど、ルーフェンさんも一度検討した後だったのだろう。肩を竦める。


「いや、あっちは……それこそ老人ばかりの小さな村だろう。数人ならまだしも、百何人……いや、数十人単位とて押し寄せたら、現住民の食材の確保も――」

「大丈夫だと思います」

「根拠は?」


 私は迷うことなく答えた。


「あの村では、私でも知らない食材保存魔法が利用されてました。直接聞いたわけではありませんが……食材の備蓄は豊富にあるかと」


 村の規模のわりに、もてなしてもらった食材ふんだんの料理。そして去り際に持たせてくれた保存食の数々。その時ちらっと自慢された『老人の知恵』。


 それらをかいつまんで話せば、ルーフェンさんは早速動き出す。


「ありがとう! 早急に聞いてみよう!」


 早馬を出せる者はいるか――そう叫びながら、彼は倉庫を飛び出していく。

 その背中を見送った後、ずっとだんまりを決めていたイクスが口を開いた。


「それは、俺も知っていたはずなのか?」

「……えぇ、一緒に訪れましたから。魚釣りは……うまくいかなかったけど。でも大きな魚をものすごい剣捌きで捌いてくれたんです」

「まったく記憶にないな」

「そうですか」


 恥ずかしかったな~。私の名前を叫びながら、ダイオウウリドナマズを捌いていたイクス。……そんな幸せだった時のことを思い出していると、彼は眉間に力をこめていた。


「どうやってここまで来た?」

「魔王さんに転移してもらいました」

「どうしてここに」

「私、どうやらお節介なようでして。風の噂で、魔族の侵攻の件を聞いたんです」


 だから、あなたを追いかけてきたわけではない――そんなニュアンスを含ませつつ告げれば、彼は壁から背中を浮かせる。


「すぐに帰れ。貴様が言うには、せっかく助かった命なんだろう? わざわざ死にに来るようなこともあるまい」

「お断りします」

「勝手にしろ」


 そして、倉庫から出ていこうとするイクスに――違和感を覚えた。どうしてずっと、腕を組んだままなんだろう?


「あ、待って」


 慌てて腕を引けば、乱暴に振り払われる。そのオーバーな動きを見て、私は気づいた。


「肩、痛めてますね?」


 治療します、と手を掲げようとするも、イクスは私を突き飛ばすだけだった。

 尻餅つくけど、さして痛くはない。ただ、樽の上に置いておいたジュースの残りが零れて濡れただけ。


 そんな私を見下ろして、彼は少しだけばつが悪そうな顔をする。だけど、すぐに背中を向けた。


「貴様などの手は借りん。……虫唾が走る」


 そうして去っていく彼を見送って、私は顔についたジュースを舐めた。やっぱり甘くて美味しい。


「一言多いってば」


 無理やり付け足されたような一言に、私は小さく笑みを零す。


次は明後日。

今週は3回投稿する予定です。


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