初恋の思い出×俺のプロローグ③
婆様が死んだ。
それは俺が十七歳、ナナリーが十五歳の時。俺が修道院に行った時は、あんなに元気そうだったのに。それでも齢八十八歳。大往生だったといえるだろう。
当然、聖騎士見習い中の俺は、訃報を受け取れるはずもなかった。
気を利かせてくれた自称天才魔導士シャナリー=ガードナー(ナナリーの妹)の遠隔通信により、連絡を受けて。葬儀の日、俺は堪らず修道院を抜け出した。
葬儀は厳かに行われていた。婆様の知人というのが、全国各地から集まったらしい。その数三百。下手したら国家レベルの葬儀規模に驚いたものの……身を隠すには申し分ない。列席者の隅で、ただただ婆様の冥福を祈ろうとした時――祭事をあげるため、聖女が墓の前へと歩み出る。遠くからでも、見間違えるはずがなかった。
身長も小型ながら伸びていた。体躯が細いのは相変わらずで、髪はますます伸びたと思う。白と金の豪奢な聖女の正装が、とてもよく似合っていた。本当に、神の御使いであるかのように美しい少女。
ナナリーだ。
彼女の祭事は、齢十五歳とは思えぬ堂々たるものだった。天から舞い降りる光の雨は、雨空すらも押しのけ、婆様の墓をあたたかく照らしていた。その幻想的な光景を目の当たりにした為政者たちは、次々と『ぜひ国家聖女に』と言葉を漏らす。
そうか、ナナリーはちゃんと……。
婆様を前に、俺が約束を違えるわけにはいかない。
誰にもバレないように。親にも声をかけずに、その場を後にしようとした時、俺は見てしまった。下がろうと振り返った彼女の目が、空虚だったことに。
それは、慕っていたおばあさんが死んでしまったゆえか?
それとも――――
俺はフードを目深に被って、彼女が退席していく列の最前列へと潜り込む。そして、虚ろなナナリーが俺の前を通り過ぎようとした瞬間――その自然と揺れていた手を一瞬掴んだ。
「おつかれ」
掛けた言葉は、それだけ。すぐ、手も放す。
だけど、その一瞬で目を見開いたナナリーは、
「うん」
と、それだけ答えて、前を歩く司教のあとについていく。
だけど、俺の目はしっかりと捉えていた。
彼女の宝石のような瞳に、再び光が宿ったことを。
涙を必死に堪えようとしていた、十五歳らしい横顔を。
そして、俺は反対の方向に歩き出す。
そう遠くないうちに――彼女の隣を歩くのは自分だと、そう誓いを胸に秘め。
♢ ♢ ♢
そして現在。
俺は知らない場所で目覚めた。
そばにいたのは白く長い髪が目を引く、俺より少し年下の女。
なぜこんな田舎臭い場所にいるのか、思い出そうとすれば、頭が痛む。
「貴様は誰だ?」
「……はじめまして。私、ナナリー=ガードナーといいます」
その白髪の女が、泣きそうな顔で笑った。





