表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/116

大好き✕貴様は誰だ?

 イクスのことが好きだと言葉にした時――パリンッと何かが弾けて、身体が軽くなったような気がした。


 慌ててイクスはもう一度唇を合わせてくる。そして、目に涙を浮かべながら鼻で笑った。


「はっ……御冗談を」

「……ほんとだよ。私はイクスのことが好き」

「冗談をお続けになるのなら、もっともっとイケないこともしてしまいますよ?」


 そう言いながら、彼は私の髪を持ち上げて、こみかみに唇を当ててきて。そのまま手が私の首へ、肩へとそって下りてくる。私はそれに為されるがままで、まっすぐ見上げていると。イクスは怒ったように顔をしかめた。


「からかうのも大概にしろ」

「だって、ほんとだもん」

「俺はお前のただの護衛で――」

「イクス」


 私は彼の名前を呼んで、背伸びをした。イクスの頭を抱きかかえるように引き寄せて、私からキスをする。そして足を元に戻してから、私は微笑んだ。


「大好き」


 途端、まるでステンドガラスが割れた時のような――大きな何かが壊れたような音が聴こえた気がした。


 目を閉ざしたイクスが膝から崩れ落ちる。私の力では、彼が下手な所をぶつけないように支えるのが精一杯だった。そのままゆっくりとその場に座り込んで、私はまた彼の頭を撫でる。


「おやすみ、イクス」


 イクスの健やかな寝顔に、ぽたりと水滴が落ちた。私の涙だ。

 ごめんね、と頬に落ちたそれと、イクスの目からも流れた水滴を一緒に拭うと。後ろから声をかけられる。


「こういう時、ヒトは『おつかれさま』と言うんだったな」


 振り返ると、やっぱりそれは魔王さんで。地面で悲しそうに丸くなっていたピースケくんをそっとすくい上げてくれていた。私は二人から視線を逸し、眠るイクスに私の肩にかかりっぱなしの毛布をかける。


「少しだけ、二人にしてもらっていいですか……?」

「うむ。風邪を引く前には迎えに来よう。お主が運ぶには無理があるじゃろう?」

「大丈夫ですよ――これでも私は、元国家聖女ですから」


 白魔法で身体を強化すれば、自分ひとりでイクスを運ぶこともできる。

 以前、酔っ払ったイクスを背負って城下町から脱走した時もあったね。あの時の宿代はちゃんと払っていたのかな……なんて、今更ながら思い出したりもして。


 でももう――それをイクスに問いただすことも出来ないのだろう。

 足音が去った後も、私はイクスの寝顔を見守り続ける。


 大好きな、大好きな男の人に、心の中で色んな思い出話をしながら――

 たまに見上げた星空が、ただただ綺麗で。




 明けない夜はない。

 朝になる前に、私はイクスをベッドへと運んでいた。そして村の中に少しずつ物音がし始めて。朝日が昇って。小さく呻くようにしながら、彼が身を起こす。


 相変わらず精悍な顔立ちだった。灰色の短髪も、切れ長の目も。その中で花のように綺麗な菫色の瞳も、全部が私の好みの綺麗な男性。だけど身体は細身ながらも、鍛え抜かれたことがわかるカッコよさ。


 そんな私の大好きな青年が開口一番、私に冷たい視線を向けていた。



「貴様は誰だ?」





《第二部 完》


これにて二部完結です!ここまでお読みいただきありがとうございました!ちょっぴり切ない締め方、いかがでしょうか?


もちろんお話はラストのハッピーエンドに向けて、あらすじの通り続くのですが……少し(1ヶ月半くらい?新生活が慣れるまで)お休みいただきたく思います。新年度の準備などで慣れないことが続くので。その間に最後のプロット固めたり、ストック作ったり、今までの投稿分微修正したりもできたらと思います。ご理解の程いただけましたら幸いです。


またそれらの作業の励みに感想やいいねなど、応援いただけるととても励みになります。

それではまた、そう遠くないうちに会えることを願って。最終幕は今まで出て来たキャラたち(王太子はもちろん、悪役令嬢ちゃんとか泥棒さんとか)がみんな再登場する予定です。引き続きナナリーたちの応援を宜しくお願いいたします。


ゆいレギナ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あーとうとうスローライフもおしまいか… 結構この章好きでしたよ〜(笑)
[一言] ゆいレギナ先生、こんにちは。 今冬はコロナ禍に加えて、雪が多く、寒い日が続き、なかなか大変ですね。 先生や先生の周囲の皆様が大過なくあられることを願っております。 『おつかれ聖女』の第2部…
[一言] お疲れ様でした。 新生活応援!!します。新しい風と共にお待ちしてます♪ 最後悲しい言葉でしたが、前に伏せんがあったので、 ショックは緩和出来ました。 ナナリーさん達も新生活ですね。 イ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ