大好き✕貴様は誰だ?
イクスのことが好きだと言葉にした時――パリンッと何かが弾けて、身体が軽くなったような気がした。
慌ててイクスはもう一度唇を合わせてくる。そして、目に涙を浮かべながら鼻で笑った。
「はっ……御冗談を」
「……ほんとだよ。私はイクスのことが好き」
「冗談をお続けになるのなら、もっともっとイケないこともしてしまいますよ?」
そう言いながら、彼は私の髪を持ち上げて、こみかみに唇を当ててきて。そのまま手が私の首へ、肩へとそって下りてくる。私はそれに為されるがままで、まっすぐ見上げていると。イクスは怒ったように顔をしかめた。
「からかうのも大概にしろ」
「だって、ほんとだもん」
「俺はお前のただの護衛で――」
「イクス」
私は彼の名前を呼んで、背伸びをした。イクスの頭を抱きかかえるように引き寄せて、私からキスをする。そして足を元に戻してから、私は微笑んだ。
「大好き」
途端、まるでステンドガラスが割れた時のような――大きな何かが壊れたような音が聴こえた気がした。
目を閉ざしたイクスが膝から崩れ落ちる。私の力では、彼が下手な所をぶつけないように支えるのが精一杯だった。そのままゆっくりとその場に座り込んで、私はまた彼の頭を撫でる。
「おやすみ、イクス」
イクスの健やかな寝顔に、ぽたりと水滴が落ちた。私の涙だ。
ごめんね、と頬に落ちたそれと、イクスの目からも流れた水滴を一緒に拭うと。後ろから声をかけられる。
「こういう時、ヒトは『おつかれさま』と言うんだったな」
振り返ると、やっぱりそれは魔王さんで。地面で悲しそうに丸くなっていたピースケくんをそっとすくい上げてくれていた。私は二人から視線を逸し、眠るイクスに私の肩にかかりっぱなしの毛布をかける。
「少しだけ、二人にしてもらっていいですか……?」
「うむ。風邪を引く前には迎えに来よう。お主が運ぶには無理があるじゃろう?」
「大丈夫ですよ――これでも私は、元国家聖女ですから」
白魔法で身体を強化すれば、自分ひとりでイクスを運ぶこともできる。
以前、酔っ払ったイクスを背負って城下町から脱走した時もあったね。あの時の宿代はちゃんと払っていたのかな……なんて、今更ながら思い出したりもして。
でももう――それをイクスに問いただすことも出来ないのだろう。
足音が去った後も、私はイクスの寝顔を見守り続ける。
大好きな、大好きな男の人に、心の中で色んな思い出話をしながら――
たまに見上げた星空が、ただただ綺麗で。
明けない夜はない。
朝になる前に、私はイクスをベッドへと運んでいた。そして村の中に少しずつ物音がし始めて。朝日が昇って。小さく呻くようにしながら、彼が身を起こす。
相変わらず精悍な顔立ちだった。灰色の短髪も、切れ長の目も。その中で花のように綺麗な菫色の瞳も、全部が私の好みの綺麗な男性。だけど身体は細身ながらも、鍛え抜かれたことがわかるカッコよさ。
そんな私の大好きな青年が開口一番、私に冷たい視線を向けていた。
「貴様は誰だ?」
《第二部 完》
これにて二部完結です!ここまでお読みいただきありがとうございました!ちょっぴり切ない締め方、いかがでしょうか?
もちろんお話はラストのハッピーエンドに向けて、あらすじの通り続くのですが……少し(1ヶ月半くらい?新生活が慣れるまで)お休みいただきたく思います。新年度の準備などで慣れないことが続くので。その間に最後のプロット固めたり、ストック作ったり、今までの投稿分微修正したりもできたらと思います。ご理解の程いただけましたら幸いです。
またそれらの作業の励みに感想やいいねなど、応援いただけるととても励みになります。
それではまた、そう遠くないうちに会えることを願って。最終幕は今まで出て来たキャラたち(王太子はもちろん、悪役令嬢ちゃんとか泥棒さんとか)がみんな再登場する予定です。引き続きナナリーたちの応援を宜しくお願いいたします。
ゆいレギナ