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楽しい一夜✕拗ねた聖女

 イクスが何を考えているか……わかりやすいようで、私はあまりわかっていない。だけど、今回ばかりはわかるよ。きっとあの時、負けて悔しかったのだろう。ずっと鍛錬は重ねてたもんね。嬉しそうなイクスを見ると、私も嬉しい。


 その時、「ぴぃ」と私の頭の上に何かが乗る。ピースケ君だ。彼を連れてきてくれたであろう……黒髪の美少年は、少し離れた場所から口元で指を立てていて。


 ……なるほど? イクスをギリギリで寄越してくれたのも、あなたですか。

 私がペコリと頭を下げると、ピースケくんが「ぴぃ!」と慌てた声を出す。あ、ごめん。落ちちゃうよね。私が胸元に抱き直すと、なんだか頭がスッキリしてきた。ピースケくんの癒やし効果?


「ありがと」

「ぴ」


 そうして肩とか首とか動かしていると、落ち着いたイクスと目が合う。大丈夫だよ、そう視線で伝えると、イクスは安心したように頬を緩めて。だけどすぐに表情を引き締めて、倒れているセタローさんへと向かった。


 イクスが持ち上げようとした時、掠れた声が聞こえる。


「……殺さないのか?」

「俺は無駄な殺生はしない主義だ」

「自分への皮肉か?」

「あぁ――また手合わせしよう」

「それはお断りだ……最後に聖女よ」

「ん?」


 いきなり話を振られて、小首を傾げると。

 セタローさんは「個人的な興味なのですが」と、あの柔和な顔で訊いてくる。


「城を出た本当の理由は何だったんですか?」


 あ~、たしかに城の方だと、未だにその理由が謎なことになっているのかな。

 ミーチェン王太子に振られた失意ゆえ……てのが語り継がれてたら、それはちょっと嫌かも?


 だから私は一瞬イクスを見てから、にっこり微笑んだ。


「大好きな人と、駆け落ちしただけですよ」

「……あいわかった。では騎士よ、早く自分を殺すなりなんなりしろ。職務放棄はそれこそ本当に首が飛ぶ」

「ハッ、おつかれさんっ!」 


 その語尾と同時に、イクスは再びお腹にこぶしを打ち付けて。

 今度こそぐったりしたセタローさんを肩に担ぎ直して、近づいてくる。


「おい、魔王。こいつを王都まで跳ばすことはできるか?」

「やってできないことはないが……あの王子の所へ跳ばせばいいのかの?」

「あぁ。ナナリー様も動けるようでしたら、一筆だけお願いできますか? こんな暗殺者、大人しく貴様の近衛にでもしとけと」

「やんわり文中に含めておくことにしましょう」


 まぁ、エラドンナ侯爵やタンビュランス男爵の告げ口はしておきたいしね。王太子を傀儡にしようという魂胆もあるらしいし。それにミーチェン王太子の元へ届けられるなら……リアルにセタローさんの首が飛ぶこともないでしょう。穏便に解決したことで、報酬交渉もしたいな。漬物の作り方、まだ訊いてないもん。


 じゃあ、お家に帰ろ~。そう提案しようとした時、イクスが「ナナリー様」と声を掛けてくる。


「先程の言葉の真意をお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「ん?」

「俺のこと大好きだから駆け落ちしたと仰っておりましたが……ついに真のイチャイチャらぶらぶ新婚夫婦になる覚悟をお決めになられたのですね!」


 彼を見上げれば、イクスは目元を恍惚に蕩けさせて。

 ……いや、たしかに言葉の弾みでそう言ってしまいましたが。改めて追求されると恥ずかしいというか。そもそも私、さっきイクスに言われたこと、根に持ってるぞ?


「知らな~いっ!」

「そう恥ずかしがらないでも……ご期待ください。この不肖イクス、貴女様のご期待は裏切りません!」

「だから私『馬鹿』だから知らないも~んっ‼ え~駆け落ちってなぁに~? 私『馬鹿』だからわかんな~いっ‼」

「なっ……あれは言葉の綾というもので……!」


 魔王少年がお腹を抱えて笑っているけど、知ったこっちゃありません。

 ほぼ初対面で信用しようとした私も悪いけど、これでもセタローさんに裏切られたのはそれなりにショックだったりしたのだ。まぁ、それに輪をかけて――すごく嬉しそうなイクスが見れたのは嬉しかったんだけど。


 だから、今日は楽しい夜で終わりたいから。

 私はこのまま縋ってくる可愛いイクスを満喫するのだ。

『吼える騎士編』本編はこれにて完結。

明日はsideイクスなので夜に更新します。個人的にお気に入りの9回目の死です(内容は察してください笑)

そして次章が2部ラストの章『初恋さよなら編』です。どうぞ宜しくお願いいたします!

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