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交わる剣戟✕無駄にやり直してると思うなよ


「ナナリーっ!」


 切羽詰まった彼は、呼び捨てで。

 私の目の前に、見慣れた腕が滑り込んでくる。その腱がナイフを受け止め。奥歯で噛み殺した小さなうめき声を、私は聞き逃さない。


「イクス……」

「まったく、どれだけモテれば気が済むんですか。本当に監禁してれば良かった」


 ピンチの時だからこそ強者にのみ許される冗談……ですよね?

 だけど私が苦笑するよりも早く、急いで剣を抜いたイクスともう一度ガキンッと強く剣が打ち合わされた。さすがに目の前でそんなことされれば、少しは目が覚める。だけどどうしても腰を上げられない。浄化するほど……集中するのも厳しいかな……。


「ナナリー様は、どうぞごゆるり見学を」


 私に背を向けて、剣を構え直すイクス。

 その向こうで、一歩距離を置いたセタローさんがナイフを弄んでいた。


「随分と余裕だな。利き手に力入らないんじゃないのか?」

「これでフェアになったくらいなモンだが……その前に、一応所属を確認しておこうか。その方が後の処理がラクになる」


 それに、セタローさんは小さく笑い。


「……アルザーク王国暗部隠密所属。ちなみに今回の依頼主は王太子じゃない。王太子を傀儡(かいらい)の王にしたい奴らからのものだ。エラドンナ侯爵やタンビュランス男爵から恨まれている覚えは?」

「ふっ、大いにあるな」


 思わず吹き出しちゃうくらいに聞き覚えのある名前は――砦を観光地化していた侯爵(兵のふりしたイクスが何度も踏んでいた人)とこの村に重税を強いて私腹を肥やしていた領主(みんなでイジメすぎて粗相してた人)のお名前だ。そっか、あの人達……そりゃあ私たちを恨んでいるだろうな。


「どのみち無断で城を出たお前たちには、内密に暗殺指令が下ろうとしていた。お前達の家族や王太子らが誤魔化していたようだが……こうして王太子が何度も出入りしてくれたおかげで、こうして聖女の結界の穴も付けたわけだ。皮肉だな」


 固い口調ながらも流暢に話すセタローさんに、イクスが返すのは嫌味。


「その皮肉の代わりに、こうして色々教えてくれると。お優しい暗殺者様だ」

「死人に口なし。冥土の土産。どちらか好きな言葉の意味を教えてやる」

「あいにく、両方とも婆様から教わっているから不必要だ」


 だけどその会話も、すぐに終わる。


「じゃあ――死ね」


 そして、セタローさんが消えた(・・・)

 何の比喩でもなく、本当に言葉の通り音もなくその場から消えて。だけどイクスは即座にその場を飛び退く。そのまま剣を斜め下に構えたかと思えば、ガキンッと金属が打ち合わさる音が響いた。


「くっ」


 だけど、小さく呻くのはイクスの方。やはり私を庇った腕に力が入らないのだろう。剣を取りこぼそうとしたところに、セタローさんの黒い足が迫る。それをイクスは慌てて持ち直した剣でかろうじて弾いて……て、靴にも刃が仕込まれているの⁉


「イクス⁉」


 思い出した――こないだイクスが『八回目の屈辱』と言っていたこと。

 あれはミーチェン王太子を暗殺しようとした私たちが、近衛に返り討ちになった時だ。今は近衛ではなく、私たちの暗殺が担当のようだが……その時の近衛が、セタローさんだとするならば。


 ――このままじゃ、イクスが負ける……!


 眠いとか言ってられない。目の前でイクスを殺されてなるものか!

 私は無理やり、聖力(マナ)を紡ぐ。


「ナナリ=ガードナーを害する者に――」

「馬鹿が! 手を出すなあっ‼」


 ……へ?

 もしかして私、イクスに『馬鹿』呼ばわりされた……?


 あんなに大声で『馬鹿』と叱られたのは初めてです。

 思わずシュンとする私をよそに、イクスは剣を不思議な体制で持ち直した。そのまま両手でグルっと剣を回すようにして――その剣がセタローさんの投げたナイフを撃ち落とし、そのまま柄底でセタローさんが突き刺そうとするナイフを突く。


「なっ」


 さすがに動じたセタローさんにイクスはそのまま詰め寄って――鳩尾に折った膝を突き刺して。そのまま、セタローさんが膝をつき、悶絶した。


「っしゃあああああああああああああ!」


 イクスの咆哮が夜空に響き渡る。

 そういえば、今日はあの夜と似た星が明るい夜だったようだ。

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