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【コミック2巻発売中】おつかれ聖女は護衛騎士と逃亡生活を満喫する ~今度は聖女をやめてみます!~  作者: ゆいレギナ
吼える騎士編

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お茶と馴れ初め✕光るナイフ

 

 セタローさんは広場から少し森に入る手前の位置で、簡易テントを張っていた。

 手慣れた様子で焚き火を起こし、お茶を沸かしてくれる。


「寒いのでこちらをどうぞ」


 セオさんが淹れてくれたお茶は、香ばしい匂いがした。

 暗くて色はわからないけれど、紅茶よりも匂いが浅く、ハーブティーなどよりも癖がない。ゆっくりと舐めるように口にしてみれば、お砂糖などは入ってないみたい。苦味はあまりないのに口の中がスッキリするような、そんな味。……昔飲んだことある気がする。


「これ、東方の“センチャ”ってやつですか?」

「よくご存知ですね! 東方に行かれたことが?」

「いえ……彼の祖母が、東方出身の方でしたので」

「彼……先程の護衛の方ですか?」


 ……我ながら『彼』とか。知人とか友人とかはしっくり来ないから、そんな三人称を使ってしまったけど。少し恥ずかしく気持ちを隠しながらこくりと頷くと、セタローさん小さく笑いながら私の隣に座る。そしてお茶をズズズッと音を立てて飲んで(へぇ~)から質問を重ねてきた。


「随分のわりに距離が近いような気がしましたが……そういう仲なんですよね?」

「はは……どうなんでしょう?」


 そうハッキリとどんな仲が聞かれてしまうと……困るよなぁ。少なくとも私はイクスのことを男性として好いているつもりではあるし、イクスも……まぁ、そうなんだろうとは思うけれど。でも、それをお互い認めてしまったら……。


 でも少なくとも、出会ったばかりのほぼ初対面の人に話すことではないよね。

 私が笑って誤魔化しながら真似してお茶を飲もうとした時、セタローさんの顔がグイッと近くなる。


「じゃあ、おれが入り込む隙もあるんですか?」

「えっ?」


 とっさに私がセタローさんから距離を取るも、そのまま腰を引き寄せられて。

 うぅ、気まずい。そういうつもりで着いてきたわけじゃないのに……さすがにこれは後で大人しくイクスに怒られようかなぁ、と大声を出そうとした時、ふと気づく。なんかこの人、変な臭いがする……?


「すみません、セタローさん。どこか具合が悪いとか……お怪我しているとかありませんか?」

「え?」


 色気も素っ気もない私の質問に、今度はセタローさんが目を丸くして。

 そして暫くしてから「くくっ」と笑った。


「ショックだな~。おれ、そんな魅力ありませんか。こう見えて、けっこう経験ある方なんですけどね」

「あ、いや……その件に関しては申し訳ありませんが――」

「いえいえ、気になさないでください。ちなみにどこも具合悪くないですし、怪我もないのでご安心を。ご心配ありがとうございます」


 そうか……まぁ怪我してたらこんなにスムーズに焚き火付けたりできないよね。

 なら気のせいだろう。体調も……魔王からの『治療』が続いている以上、万全ではないんだろうし。などと自分を納得させていると、さらにセタローさんが食らいついてくる。

 

「で、あの護衛のどこが好きなんです?」

「えぇっ⁉」


 いやあの、どうしてそんなお話に……⁉

 私はたじろぐ口を懸命に動かす。


「あの、野菜の保存食は……?」

「まぁいいじゃないですか。馴れ初めとか聞かせてくださいよ~。どこで出会ったんですか?」


 最初のイメージとは違って、良くも悪くも人懐っこいひとだなぁ。

 仕方無しに、最低限付き合うしかない。


「出会いは……ほんと生まれてすぐです。彼の両親とうちの両親が仲良くて、私が物心つくまで、幼馴染みたいに育ちました」

「それじゃあ初恋なんですね! 恋に落ちるきっかけは何だったんですか?」

「きっかけ、ですか……」


 なんかこの話、めちゃくちゃ恥ずかしいのですが⁉

 それでもグイグイ質問されるから……うーん、これから保存食を教わる手前、拒絶するのもあれだし。


「私に聖力(マナ)があると発覚して、聖女の訓練を受けに家を出ることになった時……彼も着いてきてくれたんです。正確に言えば教会所属の騎士になるために、彼は数年は孤児院に行ってたんですけど。だけど私が国家聖女になったあかつきには、彼が近衛になれるように、と。彼も家族を捨てて、私の傍にいることを選んでくれて……」

「へぇ……それは情熱的ですね。でも聖女さまがどうしてこのような場所に? 護衛付きとはいえ、さすがの二人きりでは危ないのでは?」


 それは、まぁ、そうなんですけど……。ど、どう返答しよう?

 頭がぼんやりするけど、上手く誤魔化さないと……。


「えぇ~と、これでも私も彼もそれなりに腕に覚えが……」

「そうだとしても、やはり物騒ですよ。しかも先程、王太子にそっくりな方に花を渡してましたよね? 大層大事そうに持って帰ったようですが、本当にあんな花が秘薬の原料になるんですか? それに先月には王太子を何度も何度もぶっ飛ばして、王太子自身に止められたので看過しておきましたけど、本来ならミノムシ状に吊るし上げただけでもこんな村人全員処刑されてもおかしくないのはご理解されてましたかね?」


 あ、このひと、ダメなやつ……。

 そう理解しても、口も、身体も動かない。目がすごく重たい。

 しまったな……多分、お茶に何か……。


「はい、少々強めの睡眠薬を仕込ませていただきました。なかなか効果が出ず、少々焦ってしまいましたね。あと、おれの“血の臭い”を看破したのはお見事でした。勿論、身体は綺麗にしてきたつもりですが……長年染み付いた臭いというのは取れぬものか」


 そう自嘲するセタローさんは口調すら変えながら、懐からナイフを取り出す。


「では反逆者ナナリー=ガードナー。謀反と王太子籠絡の疑いありとして、この場で処分させていただく」


 そのナイフの切っ先は、焚き火の明かりでオレンジに煌めいて。

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