歓迎される新人✕恥ずかしい聖女
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! 名前なんて言うの?」
「そうさな~。色々略して、マオくんなんてどうだ?」
少年になった魔王……略してマオくん?
そんな疑問符を浮かべながらも、魔王少年マオくんは村のこどもたちと遊んでいた。大縄跳びだ。片方を木に結びつけて、マオくんが縄を回してあげている。だけど……聖女は気づいております。小さい子が突っかかりそうになると、そのときだけ縄が消えてますね? だから何事もなく、飛んだ回数が百回を超えてみんな大興奮です。……平和だね?
「お芋蒸したよ~! 食べる人~!」
お芋はみんなのご飯でもあり、おやつだ。蒸して、お塩を少しかけるだけで美味しいもんね。なので私もご相伴にあずかりながら、魔王少年の様子を見ている。だって魔王にはこんな質素な村の食事なんか……。
「ほう! 美味だな‼ こんな美味いものは初めて食べた!」
誰よりも幸せそうにお芋を頬張っていた。
あまりに目をキラキラさせるものだから、その赤さなんて誰も気にならないみたい。むしろ小さな子からも「ぼくのも食べなよ~」て分けてもらっている始末。おませな女の子に「もうっ、しかたないわね~」とお口を拭かれて、とてもご満悦な様子だ。
その時、
「痛っ!」
どうやら夕食(炊き出し)の用意を始めていたお母さんが、包丁で指を切ってしまったらしい。私が声を掛けるよりも先に、魔王少年マオくんが駆け寄り、
「そこの貴婦人よ、大丈夫か?」
「きふじん⁉」
などと驚いている間に、マオくんは貴婦人の手を取って傷口を舐めた。
「これで良い。ヒトの間では『唾でも付けときゃ治る』が定石なのだろう?」
「あ……ふふ、ありが――本当に治ってる⁉」
と、再び驚いている間に、マオくんは他に移動。どうやら隣のお家の窓が外れてしまっているらしく、おじいさんが四苦八苦しているところで、マオくんは指をパッチン。するとたちまち窓が直っただけではなく、ガラスの透明度が暴上がりしては、腰を抜かすおじいさん。だけどそんなおじいさんに対しても、
「なぁ~に、これでちょっとでも長生きしてくれりゃあ御の字だ」
と、おじいさんまでウインクで口説いている始末。
えーと……魔王さん、めちゃくちゃスローライフ(?)を満喫してますね?
「ねぇねぇ、ナナリーちゃん。あのイケてる男の子どこで知り合ったんだい?」
「都会じゃああんな男の子ばかりいるって本当?」
目をキラッキラさせた年頃の女の子たちにそう聞かれても、私は「ご想像にお任せします」としか答えられなくて。やだよぉ、イキイキとした魔王ばかりが暮らす街なんて色々と怖すぎるよぉ~。
そんなこんなで、あっという間に村の人気者になった魔王少年マオくん。
夜になると、みんなこぞって家に招待しようとしたが――彼が選んだのは、私だった。
「皆の申し出は大変有り難いが……我は此奴としなくてはならないことがあるのでな。夜ばかりは邪魔せんでくれるか?」
そうして私は魔王少年と腕を組み、お家へと帰宅したわけですが。
え~、今更ではありますが、私は新しく建ててもらった小屋を与えられてございます。特に部屋の区切りもない家です。置いてある家具は、椅子が二脚あるテーブルセット。ベッドがひとつ。クローゼット代わりの大きめの棚。とってもシンプルながらも、新しい木の匂いが気持ちいいお気に入りの棲家でございます。
そんな棲家を生活の拠点にしているのは、当然私だけではございません。
最近は常に私の頭の上に乗っているピースケくんはもちろん、あと――
「残念ながら、ベッドはナナリー様の分しか用意がございません。差し出がましい助言ではございますが、別の家に厄介になった方が宜しいかと」
一応丁寧な口調ながらも、その菫色の目に殺気を込めまくっている我が護衛イクスさんも、一つ屋根の下で暮らしています。……なぜベッドが一つしかないかって? そんなの決まっているじゃん。彼が『俺には不要なものですから』と拒絶したからだよ。『もし情けをかけてくださるのなら、貴女様のベッドで共寝させていただいても?』という冗談付きで。
「俺はこんな屈辱……八度目の死に際以来感じたことがございません……」
えーと、八回目というと……? などと私が思い出す暇もなく。
そんなイクスからの威嚇など、魔王少年マオくんはどこ吹く風。
「しかし当面は一日三度は我が力を分け与えんと、聖女もツライと思うからの~。特に寝ている間は聖力が体内に馴染みやすいから、夜こそしっかりと補給すべきかと思うが?」
栄養と一緒だな、と雄弁に語る魔王に、さすがのイクスも悔しそうに言葉を詰まらせる。
「それ、今晩の分だ」
ベッドに座らされた私に迫るように、微笑を浮かべた魔王が顔を近づけてきた。
あ~、やだな。毎回それをジト目のイクスに見られながらするのが……恥ずかしくて嫌でしょうがない。







