諸悪の根源✕子供の涙にたじろぐ
「この姿で会うのは久しいだろう?」
そう――こんな禍々しい姿で会うのは一度目の時以来。
純粋な魔王討伐に駆り出されて、返り討ちにされた時ぶりだ。あと魔王とは手紙のやり取りを一回と、今回の旅の途中に他のひとの姿を借りて何回か……だよね。面識があるとはいえ、親しいとはとても言えない。だけど十分因縁のある相手が、突如こうしてやってきた。
それなのに、今の私はイクスに支えられて立っているのがやっとの状態なんて。
はは……まったく。どーしたもんかな。
私がちらりとイクスを見上げれば、彼は前を向いたまま固唾を呑んでいた。
「引きましょう――ナナリー様」
「二人だけで?」
「……はい」
返事が遅い。つまり、イクスもわかっているのだ。私がその提案を受け入れるはずがないということを。私は苦笑してから、魔王に話しかける。
「ご用件は私たちで宜しいでしょうか?」
「あぁ、勿論だ」
「なら、村の外でお話ししてもいいですか?」
にっこりと愛想笑いを浮かべるも、魔王はどことなく思案顔(目以外は見えないんだけどね)。
「我はそれでもいいのだが……汝らは村の中の方がいいのではないか? あまり遠出に耐えうる体調とは思えんが」
「あら、バレてますか」
まぁ、聖力切れがバレないわけがないですよね。イクスの体調のことも、私よりご存知のようだし。……イクスって、今どのくらい全力を出せる状態なのかな。いつまでも誤魔化さず、しっかりと聞いておけばよかった。
――そう後悔してももう遅い。どうやらまた、私たちはどこかで失敗したようだから。きっとここが、私が再び死ぬ時なのだろう。いつもより断然早いけどね。
「でも、黙って死んではやらないよ――イクス!」
「御意」
と、戦闘態勢に入ろうとした時だった。
「おねえちゃん……そのひと……」
幼子の声に、ハッと振り返る。そこには家から出てきてしまったのか、それとも逃げそびれていたのか。その事情はわからないけれど、村の女の子が恐る恐る魔王を指差していて。
「誰か、この子を――」
連れて逃げて、と叫ぶより前に、その子は「わああああんっ、こわいよおおおおお!」と泣き出してしまう。あーもうっ、シリアス決め込んでいる場合じゃない! どうせやり直すとはいえ、目の前で子供を八つ裂きにされるとかまっぴらごめんだ! 絶対に守りきってやる――と覚悟を決めて、残り少ない聖力を絞り出そうと構える……も。
「そうか……怖いか……」
なぜか、魔王はしょんぼりとしていて。意を決したように頷いてから「暫し待て」とパチンと指を鳴らした。途端、たちまち黒い靄に包まれたかと思ったが数秒。靄が晴れると、そこには育ちの良さそうな黒髪の少年が現れる。白いおみ足が短パンに映えてるなぁ、なんて感想を抱いている間にも、彼はてくてくと私たちの横を通り過ぎ、その泣きじゃくる女の子の頭を撫でていた。
「驚かせてすまなかったな。これなら怖くないか?」
「……おめめ赤いけど、泣いたの?」
「くはは、これは元からだ。汝は優しいな。気遣い感謝する」
そして少年(魔王?)は、「ほら、母君の元へお戻り」と少女の背中を優しく押して。「あとで遊ぼうね~」と手を振る女の子に手を振り返してから、また私たちのそばへと戻ってきた。
「すまん。待たせたな」
「え~と……いいお兄ちゃんぶりでしたね?」
さっきの女の子が五歳くらい。そして今の魔王の姿が十歳くらいで。ほんとにいい感じのお兄ちゃんでした……なんて。少しズレた感想を返すも、魔王はなぜか嬉しそうに笑っていて。
「見たか? 我もヒトの子に懐かれたぞっ‼」
「あの魔王さん、ご用件は?」
笑顔が可愛いショタな魔王とか聞いたことも見たこともありませんので、思わずもう一度尋ねると。魔王はヒョイヒョイと屈むよう手で合図をしてくる。
「ん?」
「ナ、ナナリー様⁉」
思わずイクスから離れて指示通り膝に手をつこうとする私を、慌ててイクスが引き戻そうとするも――魔王の方が早かった。
「それでは、早速チューするぞ」
あっという間に、魔王の冷たい手が私の頬を包み込み。あ、まつげ長いな、なんて感想を抱いたその時には。その薄い唇に、私の口が食べられていた。





