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悪党達が住まう村✕みんなでやれば怖くない

 そして、私は話した。

 ……そりゃあ、ループしているなんてことは言えないけどさ! だけど『聖女』というお仕事に疲れてしまったこと。そこで城から抜け出してきてしまったこと。そんな勝手な逃避行にイクスだけが着いてきてくれたということ。偽国家聖女として追われていること。


 私が話していくうちに、村人や盗賊さんたちからポツリ、ポツリと質問が飛んでくる。それにも答えられる範囲で答えて――そして、私は再び頭を下げた。


「この度はご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした。私たちはすぐに村を出ていきますので、どうか役人などが来ましたら正直に話していただければと――」

「それらの荷物は、どーするの?」


 お母さんが顎で差したのは、私たちの馬車より先行していた荷車の大荷物だ。食料や衣服医療品。使えそうなものはがっぽり遠慮なく貰ってきた。そーだよね、もちろん置いていくつもりだったけど、今の流れじゃ私が持っていっちゃうって思われても仕方ないよね。


「あ、もちろん全部置いていきますので、皆さんの生活の足しに……」

「それじゃあ、共犯じゃないか」


 その言葉に、私はぱちくり。

 共犯……? それって一緒に悪いことした仲間たちのことだよね、当たり前だけど。

 口早に話すお母さんは、少しむくれたような顔をしていた。


「それ、領主様から奪ってきたんだろう? すでにこの村に来た役人もとっちめちまってるし……罰としてこれからどんな目に遭うか――」

「すでに十分懲らしめてあり、過度な税の取り立てなどはしないよう誓約書は交わしてある。あと辞任表も書かせ、不正な取り立て記録も全て回収してきているから……これを次の領主との交渉材料にするなり、村の代表者が王城まで持っていけば何かしらの対処をしてくれるだろう」


 補足するような形で、イクスが説明してくれるも……そうだね。最善は尽くしたつもりだけど、やっぱり完璧とは言い難い。それこそ新しく配属された領主がまた悪徳だったら? そもそも誓約書をあの領主が守らなかったら? それこそ屋敷が盗賊に襲われたと国に被害報告を出し、この村を鎮圧しようと用兵を集めるかもしれない。


 だけど、お母さんは他のお母さんたちやご老人らと顔を見合わせてから、鼻で笑う。


「そんな難しいこと、わたしらができるはずないだろう」


 それに、今度は私とイクスは顔を見合わせた。

 え~。そこでそー言われましても。

 難しいのかな? 領主との交渉とか国王に拝謁も……ちゃんと必要書類用意して王都の管轄所に願い出でれば、平均三ヶ月くらいで拝謁できるはずなんだけど。


「……おそらく、俺らの常識と本当の平民の常識は違うのかと」


 それはなんやかんや私たちが貴族だから……ってことだとイクスは耳打ちしてくるけど。そんなこと言われちゃったらもう私たちはどーすりゃいいのかと……。


 私が返す言葉に迷っていると、お母さんらはますます笑った。


「だから、わたしらとあんたたちは共犯だ。ここは悪党に乗っ取られた村として、領主から食料や金品を奪い生活していくのさ……草鞋づくりがヘッタクソな偽物聖女様筆頭にね!」


 ……あれ? 私もここに居て、いいの……?

 めちゃくちゃ勝手をしてきたつもりだから、戸惑いしかない。


「いいん……ですか……?」

「こっちも、お嬢さんたちが一生懸命村のために頑張ってくれてるのは、見てきたから」


 勝手に私が住みやすいように、人手を集めて。村を綺麗にしようとして。役人や領主をぶっ飛ばして強奪してきたというのに。それを……受け入れてくれるというの? こんな怪しい小娘たちを?


 私が頭に疑問符をいっぱい浮かべている間に、村人たちとイクスが話し合いを進めている。


「徴兵された旦那たちも帰ってくるかねぇ」

「それは次の領主次第だな。なので申し訳ないが――」

「あ~。いいよいいよ、できることとできないことがあるのは、わかっているから」


 それにおずおずと割って入るのは、盗賊さんたちだ。


「あの……おれたちは……?」

「あんたたちがいないで、誰が力仕事すんのさぁ」


 厳つい男らの腰の引けた態度を、村人たちが陽気に笑い飛ばして。

 中には「旦那が帰ってこなけれや、あんたたちから新しい旦那見繕うかね」なんていう推定六十歳のお婆さんまで出てきて。それにはさすがにみんな苦笑いしか返せていなかったけど……。


 いつの間にかすっかり蚊帳の外になってしまった私は、イクスの袖を引く。


「これで……良かったのかな?」

「良かろうと悪かろうと、俺は貴女様に着いていくだけですから」

「それってちょっとズルくない?」


 ちょっぴり出そうになっていた涙を誤魔化すために、意地悪く口を尖らせてみれば。イクスは全て見透かしたように口角を上げた。


「お嫌ですか?」

「嫌って言ったらどうなるの?」

「別に。俺はどんなに拒絶されようと離れるつもりはございませんから――たとえ何度死んだとしても」


 冗談に聞こえない。だって冗談じゃないもんね。

 私は十二回目人生をやり直しても――イクスが隣にいなかったことなんて、一度もないんだから。


 そんなこんなしていると「聖女さまらもご飯食べるだろ~」と普通の村人たちと忠実な村人たちに……なんかややこしいね。もうみんな同じ悪党の集う村人なのに。とにかく、これからみんなで朝ごはんを作ることになったらしく――それに私らも手伝えと呼ばれて。


 私はポンッとイクスの背中を叩いて、足を進めた。


「それじゃあ、改めて悪党の党首、始めようか」

「えぇ、ご命令とあらば何なりとお申し付けください」



 逃亡生活はひとまず終了。

 今日からは悪党による悪党のためのスローライフの始まりだ。

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[一言] 雨降って地固まるですね!
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