悪徳領主の館×善良な極悪人ども
そもそも、この村がこんなに病気が蔓延し寂れているかというと。
根本的に、領主が悪い。
だって病が流行ったとしても、こんなに隔離するのではなく早期に医術師なり役人を派遣して手をかけていれば、こんな悪化することはなかったわけで。しかもこの領主、手をかけるどころか有力な働き手である若い男性は役人や兵士として徴収。その上地図からも抹消したくせに税金はしっかりと回収しているというロクでもなさ。税金って、困ったときは助けてくれるから払うものなのでは?
そのくせ、税金を徴収しにきたお役人さんはかなり高圧的だったから(たちの悪いことに、お役人さんは情けなどかけないために、あえて故郷と違う場所に派遣しているらしい。もちろん、その集団のトップは元からそれなりのお金持ちの次男とか三男で、似たような故郷を持つ人はその人の言うことを聞くしかできない感じ……そんな人材配置する人、ぜったい性格悪いよね!)
だから詳細は割愛するけど(イクスや私だけじゃなく、善良な村人さんたちも武力行使は得意だからね)……そんなお役人さんをちょーっと懲らしめても、罰は当たらないだろう。てか、当たってたまるか。神の御子である元国家聖女が許可してやるっ‼
なので、とりあえずその一陣を始末しても、諸悪の根源をどーにかしないと埒が明かないので。我々はガタガタと荷馬車に揺られているわけでございます。
「でもナナリー様。のんびり隠居生活はよろしかったのですか?」
「どうして?」
「権力者に殴り込みは隠居生活に程遠いかと思いまして」
その道中、イクスが御者する荷馬車の隣で、私は鼻で笑い飛ばす。
「いまさらっ」
だって今も、村に税金を回収しにきたお役人さんを全員ぶっ飛ばして荷馬車を強奪し、こうして夜道を走らせているんだもの。あ、当然お馬さんが足を踏み外さないように、明かりは十分確保しているからご安心を。
こうして夜だけど堂々と――私たちは諸悪の根源に殴り込みにきたわけで。
いやぁ、村を勝手に改革するだけに飽き足らず、こうもお仕事中のお役人さんを気絶させちゃって荷物として運んでいるわけですから。今更ご隠居生活とか言われましても。でもほんと、今回の人生はのんびりするつもりだったのに……どうしてこうなってしまったのか。
付き合わせてしまっているイクスには申し訳ないなぁ、と思いながらも、闇夜に浮かぶ好みの横顔が、とても優しいことを言う。
「これが一段落したら、本当にゆっくりしましょうね。実は山の上で温泉を見つけておりまして」
「本当っ⁉」
温泉……‼
噂には聞いたことあったけど、一度も見たことがなかった伝説の湯。なんか人工的に温めなくても、温かいお湯が自然と湧いているんでしょ? しかも肌が綺麗になるとか、魔力が増えるとか、若返るとか、医術師も匙を投げた持病が一発で治るだとか。そんな伝説の温泉があれば、国王陛下もお病気治るかなぁ……そろそろ容態が急変して危ない頃合いなんだよなぁ、などと喜んでいると、イクスがうっとりと笑う。
「えぇ、一緒に疲れを癒やしましょう♡」
「…………」
……一緒に裸の付き合いをしようと言われている気がするのは、気のせいかな?
私が言葉を返せないでいると、イクスはそのまま後ろへと声をかけていた。後ろに乗っているのは気絶してぐるぐる巻きにしたお役人さんたち五人と、馴染みのある善良な村人だ。
「さて、貴様ら。人数が少ないからと怖気付いてるじゃないだろうな?」
彼らは今までで一番の笑顔を向けてくる。
「へっへっへっ、むしろ唆るぜ」
「むしろおれらを選んでくれたことに感謝します」
「オレが石投げられた分……あの子の分も倍返ししてやる……!」
そんなやる気満々の仲間草鞋担当三人組を引き連れて。
そんな感じで乗り込んだあとも、詳細は割愛してもいいと思う。だって門を見張る兵士さんたちを容赦なく「こんばんはーっ‼」とぶっ飛ばして、固く閉ざされた門構えも重圧でぶっ飛ばし、そのまま瓦礫を踏みしめて荷馬車ごとガタガタ突入。
もちろん兵士さんたちが集まってくるけど、斧や棍棒の扱いが異様に得意な善良な村人が「ひさびさの本業きたあああああああ‼」と野太い歓喜をあげながら突入。
ちなみに「まず女を狙えっ!」と兵士さんたちが私を狙おうものなら、まぁ残念。嬉々としたイクスが「貴様ら如き雑魚が触れられる相手と思うなよ」とぶっ飛ばしていきます。
……まぁ、中には嫌々働いている人もいるらしいから、その人たちには申し訳ないけど。そこはあとで事情聴取だね。それぞれの希望を聞いて、それなりの取り計らいで勘弁してもらおう。私もひとりを魔法で眠らせつつ、今は肩を竦めることしかできない。
「あはは~……ごめんね?」
やっぱりさ、私一人にできることなんか、限度があるわけで。それをここ数日つくづく実感しながらも、私は今でできる最善として、再び魔法をぶっ放す。
でもなんか……こんな夜の殴り込み、ついこないだもした気がするな?
あれだ! 大砦を奪還する時! あれから二週間くらい経ったけど、ルーフェンさん元気かなぁ? 無事に後処理進んでいるのかな?
そんなことを考えながら、あっという間に領主の寝室にたどり着き。
「な、なんだキサマらはあああああああああ⁉」
と、つるつる頭にナイトキャップを被った中年おじさんが阿鼻叫喚なので、私はにっこりスマイルを向けてあげました。
「新しくここらを縄張りにすることにした、善良な極悪人でございます♪」







