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【コミック2巻発売中】おつかれ聖女は護衛騎士と逃亡生活を満喫する ~今度は聖女をやめてみます!~  作者: ゆいレギナ
高山のもふもふ編

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高山の夜✕夜這いに来た男①

 その後も私たちは丁重にもてなされた。

 村長さん家の離れ小屋のベッドをお借りできるらしい。そのお家は集落の上の方にあって――私はまたアルバさんに担がれて移動した。勿論イクスは怒ってたんだけど……案の定酔いつぶれていたので、むしろイクスもアルバさんに運ばれる結果に。その光景は正直画家に描いて貰いたかったくらい面白くて、面白くて……。ケラケラ笑っていたら、イクスに「ふーんだ」と本当に言葉どおり拗ねられて、可愛さがやばかったです。


 まぁ、そんなこんなで夜を明かすことになり。日中の山登りで疲れていた私はすでにヘトヘト。せっかくお湯を用意してもらったというのに身体を拭くのもそこそこ、すぐに座古布団に倒れ込む。正直固くて寝心地が悪いけど、そんなのもどうでも良くなるくらい、すぐに夢へ旅立とうとした時だった。


「少シ、イイか?」


 部屋の外から声がかかる。この声はアルバさんかな……。訛りの強い精悍な声に、私は目を擦りながらも身体を起こす。その扉は私が「はい……」と答えてから開かれた。


 そんな私を見てか、大きな布らしきものを二つ持ったアルバさんは開口一番頭を下げる。


「ス、スマナイ! モウ寝支度も終ワッテいるとは……」

「大丈夫ですよ。どうなさいました?」

「イヤ……少シ、話ガ出来タラ……と」


 扉の隙間から、満点の星空が見えた。空が近いからだろう。普段より星がたくさん見える気がする。隙間から吹く風が少し冷たく、それがまた心地良い。みんな寝静まっているのか、とても静かだ。


「いいですよ。ただ、外でもいいですか?」

「あ、あぁ! モチロンだ!」


 私が立ち上がって外に出るまで、アルバさんはずっと扉を押さえててくれた。そして私が夜風の冷たさに少しだけ肩を震わすと、すぐに持っていた布のうちの一つ、大判のストールを掛けてくれる。思った以上に柔らかい生地だった。民族の入れ墨と同様に派手な入れ墨が色彩豊かに描かれたストールに触れながら、私は聞いてみる。


「これは、ここの民芸品ですか?」

「あ、あぁ……年に一度総出で山を下りて買い出しをする際に、これを売っている。集落のはずれにこの山にしかいない蚕を繁殖させていて……糸からみんなで作っているんだ」

「なるほど……」


 たまに城の中に来る商人がこんな柄の布も持っていた気がする。私はあくまで世俗に触れない聖女だったから、こういう派手な物とは無縁だったんだけどね。

 だから城や教会から逃げて――こうして目にするもの、手にするものの全てが新鮮で。「ありがとうございます」とそのストールに包まっていると、アルバさんがそっぽを向いた。


「ヤル」

「……いいんですか?」


 多分、こういう民芸特産品って、けっこうお値段すると思うんですけど……。

 それでもアルバさんは再び「ヤル」と言ってくれるので、私は苦笑して再び「ありがとう」と告げた。


 そうこうしていると、アルバさんが崖のスレスレに茣蓙(ござ)を敷いてくれる。再びお礼を言っても、アルバさんはこちらを見ずに「あぁ」と空返事するだけだけど。星あかりがあるとはいえ、暗いからアルバさんの顔色まではわからない。


 まぁ、それでもここまで準備してくれたのなら。私が茣蓙に座って……足を垂らすかどうか悩んでいると、アルバさんがそっと身体を支えてくれる。


「ラクな体勢で大丈夫ダ。絶対に聖女、落トサナイ」

「ずっと不思議だったんですけど……みんな怖くないんですかね?」


 だって崖。足を滑らせたら川へぼっちゃん……じゃ済まない高さだもん。さっきおじいさんもあのロープを渡って生活している的なこと言ってたけど……。そんな疑問に、アルバさんはあっけらかんと応える。


「コノ集落では、ミンナ歩キ出スのと同時に綱渡リスル。ソウシナイと生キテイケナイ。ダカラ、高イの怖イと思ウヤツ、ココでは一人もイナイ」

「そこまでして、この場所にこだわる理由は?」


 民族の伝統……と言われたらそれまでだけど。

 それでもさっき話を聞いていた所、この集落は総勢でも五十人くらいらしい。それくらいなら、移民も難しくないんだろうなぁ、とも思うんだけど。


 すると、アルバさんは嫌な顔ひとつせず山頂を指差した。


「オレラは、カラドリウスを守ッテイル」

「聖鳥ですか?」

「あぁ、ココに来ルまでに見タか?」

「はい! とても綺麗でした!」


 イクスも興奮していたくらいの聖鳥だ。ちょっと他のこと考えちゃって感動薄れちゃってたけど……人生で一度見ることができたらラッキーくらいのレア体験だもの。できることなら、もう一度見てみたい。


 夜なのに、山の上がぼんやり光っているのは卵を守って眠る聖鳥なのだろう。

 アルバさんは言う。


「オレらは代々カラドリウスを守ッテる。その役目、誇リを投ゲ出ソウとスルヤツ、ココには一人もイナイ」

「……立派ですね」

「聖女ダッテ立派だ。常に人々のタメに祈リを捧ゲテイルのダロウ?」


 ……うーん。世間一般からそんなイメージ持たれているのは知ってるけど……。実際の教会は資本主義だし、利権や何かで板挟みで、実際にする聖女の仕事だってもっと現金だしなぁ。だけど、


「カラドリウスは聖女の中で最も尊キ者が転生した姿ダト言ワレている。きっと、オマエもいつかカラドリウスになる」

「ナナリーです」


 私が名乗ると、アルバさんは目を丸くして。こうやって見ると、この人結構童顔かもね。


「私の名前、ナナリーと言います」

「本当にオレと結婚シてくれるのか!」

「いや、なんで急にそうなるの⁉」


 嬉しそうに両手掴んでくれちゃってるけど、そういうわけじゃないから! ただ『聖女』呼ばれるのが恥ずかしくなっただけだから! ……だって、私は『聖女』から逃げちゃっているわけだしさ。


 なので私が即座に否定すると、アルバさんはあからさまに肩を落とした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。 [気になる点] ゆいレギナさんのお住まいの地域の名称だったらすみません。 座古ってどんなものなのでしょうか?ググっても出てこなかったので。 茣蓙(ゴザ)っぽいものなの…
[一言] 名前を教えたらプロポーズ受けた事になるのか?(笑) そう言う風習が有っても可笑しくないから怖いよね〜(笑)
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