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【コミカライズ】おつかれ聖女は護衛騎士と逃亡生活を満喫する ~今度は聖女をやめてみます!~  作者: ゆいレギナ
老人湖の怨念編

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老人しかいない湖✕やる気に満ちた旦那様(仮)

 神妙な話を聞いてみれば、単純な話だった。

 若者が次々と出ていってしまい、老人しかいなくなってしまった村。だけど“ダイオウウリドナマズ”を釣るためには一本釣りしかないらしい。網漁をしようにも、あまりの大きさと重さで耐えられる網が作れず、少しでも肌を傷つければそこから毒気を出してしまい、人間が食べることができなくなってしまうという。しかし、一本釣りで釣り上げるには体力や腕力――つまりは若い男性の力が必須。


「ワシも二十年前に腰をぽっきりやらなければ……まだ現役で行けたんじゃが……」


 うん、おじいちゃん(推定八十歳)。無理しないで。

 そんな最後の勇者(?)が身体を壊してしまって以来、誰も“ダイオウウリドナマズ”を釣り上げることは出来ず。だんだんと珍味目当てのお客さんも減って、村はこのようにどんどん寂れてきたと。


「そもそも……どうして若い人が村にいないんですか?」


 私が根本を尋ねてみると、二人の老人は「はあ」とため息を吐く。


「こんな辺境ですし……まあ、若者はみんな都会に行きたがる者ですよ。我々の息子夫婦も……まぁ、似たような……ねぇ?」


 ……なんだろう? 的を得たありきたりの話だと思うんだけど、どうも歯切れが悪いような?

 だけど、私の専属護衛もとい旦那様(仮)は袖を捲る。


「ようはあれだ。ダイオウウリドナマズを釣り上げることさえできれば、調理は出来るんだな?」

「そ、それは勿論……まさか――⁉」

「あぁ。これでも腕っぷしには少々自信がある。任せておけ!」




 ――と、いうわけで。


「ではナナリー、ここは俺に任せてゆっくりと休んでいろ。俺が! 愛すべき妻である! お前の! ために! ダイオウウリドナマズを釣り上げてやるっ‼」

「あ、はい。お願いします」


 ……まぁね。イクスがとても楽しそうだから。いいのかなぁって。ははは。

 伝説の釣具(ようは、あのおじいさんのお下がり)を借りたイクスは、「はあああああっ!」とまるで魔王に斬りかかるように気合を入れて釣り竿を振る。そしてポタンと針が水面に沈み、イクスは息を潜めていた。細い呼吸。それは瘴気を浴びて凶暴化した魔物を討伐する時のように、こちらの気配を隠し、獲物の隙を伺うかの如く――。


 まぁ、とにかくイクスが真剣に釣りをしているわけだが。

 ぶっちゃけその間、私は暇である。


「ねぇ、イクス――」

「今は話しかけるな。気が削がれる」

「じゃあ……お昼寝でもしてるね?」

「好きにしろ」


 こう……ね。今も『新婚いちゃラブ夫婦設定』は継続しているわけだから。別に敬語がなくても問題ないんだけど。タメ口のイクスもまたカッコ良しだし。でも、こないだは同じ設定でも普通に敬語だったじゃん? だから私も完全に油断していたというか、ちょっぴりショックだというか。

 一抹の寂しさを抱えながら宿兼食堂へ戻り、「おや奥さん。旦那さんの応援はいいのかい?」などというおばあさんのにこやかすぎる笑顔に愛想笑いを返して。私は借りた二階の客室へ。一番いい部屋を貸してくれたようで、この部屋の窓からも湖(そして格闘するイクスの背中)が見える。

 田舎風景のわりには空気が澄んでいない気がするけど、ご老人が多いからかな? ちょっと失礼か。それでもループして始めての特にすることがない時間。私はベッドにゴロンを寝転ぶ。


「あ~~疲れた~~~~!」


 いや、疲れたよ! めっちゃ疲れた!

 これでもさぁ、私国一番の『国家聖女』様だったからね! けっこうチヤホヤされていたわけで! 巡回で出かけるときも、馬車に乗るのが当たり前だったから。それにそもそも生まれが高貴なる十七歳の公爵令嬢ですから。そりゃあ、お嬢様なわけですよ。何回もループしているせいか元からか、中味はこんなんだけど。


 それが人目に付かないように(努力はしている。一応。)日々野宿で徒歩で旅するなんて……そりゃあ、無茶なもんですって旦那。イクスのサポートがあるから何とかこうしてお城の隣の領の隅っこまでは来れましたが……ちょっと一息つかせてください。


 そうして目を閉じようとするも――、


「ここに、本当に若者が?」

「あぁ、本当じゃ。ぴっちぴちのオナゴでのう。胸はないが尻は立派だった。ありゃあ、間違いなく安産型じゃな!」

「ふうっ。旦那の方もあの体格じゃ大層立派な――」


 ……ん。扉の向こうから聞こえるコソコソ話に、私は閉じようとしていた瞼を開ける。特等の客間だといっても、言っちゃ悪いがボロ宿だからさ。建て付け悪くて、扉と壁の隙間も無視できない感じなんだよね。だから――こう、合っちゃうわけですよ。扉の隙間から覗いてくるいくつもの視線と。


 私は「はあ~~っ」と深い溜め息を吐いて、ベッドから下りる。

 そして容赦なく扉を開けた。慌てて逃げようとしている六人のご老人方に、私はにっこり微笑んだ。


「お散歩行ってきますね」




 若者がいなくなるのも仕方ないデリカシーの無さなのではなかろうか。

 内心ぷんすかしながら、私は再び林を抜けて湖へ。いや……残念ながら、ここらで他に見る所ないんだよね。さっきの場所では今もイクスが「おおおおおおおっ!」と何かを頑張っているようだから、それを尻目に少し離れた場所へ。水面に手を付けてみると、ひんやり気持ちいい。足を付けるのもいいかもな、とブーツを脱ごうとした時だった。


 突如。大人しかった水面が大きく揺らめき出す。ダイオウウリドナマズ? もしそうなら――物理的攻撃をしては毒気が出るという話だけど、白魔法なら無傷で捕まえることが出来るのでは? と、私が身構えようとした時だった。水面が眩しく光ったと思いきや、静まったそこに見覚えのある少女が映る。


『やっほ~! お姉ちゃん、元気~?』


 そう能天気に手を振ってくる少女は、私と同じ真っ白のたおやか髪を持ち、鮮やかな碧眼が可愛らしい十五歳の美少女――そう、私の妹シャナリーだった。

 

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[一言] お。愛しの妹君登場(笑)
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