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sideイクス 11回目の死


 ♦ ♦ ♦ 


 もう、疲れた……。


 何をしたって、ナナリーが死んでしまう。

 内政を頑張ってみた。城の中でのんびりさせてみた。他所の国に嫁がせてみようとした。国王の病を治そうとしてみた。王太子を暗殺しようとしてみた。部屋に引き籠っても、他者とふんだんに交流を持たせてみても。


 何をしても、ナナリーは死んでしまう。

 いや、違う――俺が殺しているんじゃないのか?


 ループが終わってしまえば、俺はナナリーのことを忘れてしまうんだから。

 俺の中から、ナナリーがいなくなる?

 そんなことありえない。俺の人生、ナナリーのためにあったようなものだ。好き好んで、ナナリーのために生きてきたんだ。


 それを今更やめろだなんて。

 彼女のいない俺なんて、果たしてそれは俺と言えるのか?




 あぁ、疲れた……。

 もう、何が何だかわからなくなって。

 何もかも、信じられなくなって。


「イクス……最近疲れてる? 明日はお休み――」


 その日の仕事を終えたタイミングで、ナナリーは気遣ってくれたのに。

 むしろ俺は憎々し気な視線すら向けてしまう。


「そんなこと言って、俺がいない間に何をするつもりなんだ? あの王太子と逢引きでもするのか?」

「……イクス?」


 最低だ……。

 眠れないのも。体中が痛いのも。

 全部、俺が望んでしていることなのに。


 ――本当に?


 だって、それが真であるとするならば。


 ――俺は、ナナリーに死んでもらいたいのか?

 ――俺が、ナナリーを殺しているのか?




 本当に、疲れた。

 ある日、ナナリーからバナナをもらった。

 バナナは希少性の高い果物だ。南国でしか採れない。そして栄養価がとても高い分、値段も高い。だから貴族たちの中では、お見舞いの品にバナナを持参することは、己の豊かさを見せしめることでもある。


 そんなバナナを、ナナリーは参拝者から貰ったという。


「私はもう三本も食べたから。イクスも食べて?」


 だけど、俺は知っている。

 食べたという三本は、私室の戸棚に隠してあるやつだろう?

 明日行く孤児院にでも持っていくつもりか? 三本持って行ったところで、ガキどもが喧嘩するだけだろうに……何回ループしたところで、その『甘さ』が抜けきらないのがナナリーだ。単純にバカなのか。それとも……敢えてずる賢さを身に着けないようにしているのか、俺にはわからないけれど。


「……ありがとうございます」


 そんな『優しい』ナナリーだから、俺は彼女から離れてやることができない。

 だから、また俺が――


「試すか」


 俺はナナリーと別れてから、三口でバナナを食い尽くす。

 そして――残った皮を、通路の真ん中に捨てた。このあたりの通路は若干幅が狭い。そのくせ等間隔で花瓶や壺などの美術品も飾られているから――落として割れたら大惨事になりそうな、壺の前に。


 ナナリーはすぐに、次の仕事で部屋を出るはずだ。明日の打ち合わせで宰相に王太子に呼ばれている。だから――結論まで、そう時間はかからないはずだ。



 バナナの皮を踏んで死んだら――俺はナナリーを殺したがっている。

 バナナの皮に気づいて拾ったら――俺はナナリーの『生』を望んでいる。


 

 後者なら、今度こそナナリーのことを守り切ろう。

 それこそ、俺から告白でもしてしまえばいい。……おそらく彼女は、俺が望む答えをくれるはずだ。そうしたら、この呪縛からナナリーは解き放たれ、彼女は幸せな人生を歩めるはず。今回の人生でも……そのような手筈は整っているはずなんだ。


 そうすれば、俺もラクに――


 案の定、ナナリーはすぐに部屋から出てきた。なんであいつは資料を読みながら歩いているんだ? そんな読み込まなくても、いつも通りのことしか書いてないだろう。常に時間に押された生活をしているとはいえ、歩きながら書類を読むのは危ない。


 もし、廊下にバナナの皮でも落ちていたなら――


「あっ」


 ナナリーはものの見事に足を滑らせた。書類が散らばり、バランスを崩した手が壺にぶつかり、飾り台から落ちて――ガツンッと鈍い音が響いた。仰向けに倒れたナナリーのまわりに散らばる破片。そして、彼女は頭部から赤い血を流していて。


「ははは……」


 そんな喜劇に、俺が笑いをこらえることができなかった。


「はは、はははははははは……」


 俺が殺した! 俺が! ナナリーを! 殺したっ‼


「ははははははははは!」


 さぁ、またナナリーを閉じ込めよう。

 俺が作った、俺だけが幸せな世界の檻へと。

 赤黒くなるまで血塗られた、棘だらけの檻の中で。

 ナナリーがずっと、俺だけのために泣いていればいい……。


 ――最低だ。


 すまない、ナナリー。


 ――最低な男で、すまない。


 俺は、ナナリーを幸せにしたかったはずなのに。

 俺は、ナナリーの笑顔を守りたかったはずなのに。



 俺は――ナナリーの死なんて望みたく――……。



 赤黒く染まった薔薇の檻が、俺らを覆っていく。

 俺から、棘が抜けることはない――


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― 新着の感想 ―
[一言] これは…ギャグ?(笑) な、なんて間抜けな…
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