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最終決戦!愛に広がる空 第三話

「さて、彼は一体どうしましょう?」

 アスフォデルを捕まえ、ラズロがずい、と彼を突き出す。

「魔王の居場所を吐かせようよ、こちょこちょ〜」

「これ、妖精の小娘ごときが! 触るでない!!」

 アスフォデルがじたばたと足をばたつかせて抵抗する。

 ムキーッとマルグリットに威嚇するアスフォデルを、イフが乱暴に引き寄せた。

「こいつはオレが始末する。魔王は上にいる」

「……イフ、本当に大丈夫ですか?」

 リムが心配そうに声をかけた。

 しかし、イフはいつもの皮肉そうな顔で、彼女に微笑んだ。

「あのボケ脳天気野郎に説教されたんだ。意地でも生き残ってやるさ」

「……そうですか」

 ほっと、安堵の微笑みをイフに向けた。

「そうだ、これをお前にやる」

 イフはそう言って、青い宝玉をセトに差し出した。

 あのとき黒く染まっていたはずの宝玉は、本来の輝きを取り戻し、美しい色を放っていた。

「……頼んだ」

 小さく言った彼の言葉を、セトは確かに受け取った。

「わかった」

 セトも短く応えると、宝玉を剣に収めた。

 やっと、四つの宝玉が揃ったのだ。リムとラズロからほっとした視線を受ける。

 しかし、喜ぶのも束の間、各方面からドドド……と何かが近づいてくる音がした。

「なになにっ!?」

 マルグリットが不安げな声をあげ、リムに抱きついた。

 大広間に現れたのは大量の機械たち。魔物も混じっている。

 イフは視界の隅でくつくつと笑う男を見た。

「てめえ、何しやがった!?」

 アスフォデルを持ち上げて、問いつめる。

「我が最高傑作が果てた時、すべての作品がわしの元に集まるようになっておる。暴走状態でな」

「厄介なことをしやがる……ッ!」

 イフが殴りかかろうとすると、その手をめがけて刃物が飛んできた。

 ぱっと手を引っ込めてそれを回避する。すると、またすかさず刃物が飛んできて、アスフォデルを掴む手めがけて飛んできた。

「クソッ」

 イフは悪態をつきながらそれも回避。しかし、アスフォデルが手元から離れてしまった。

 とてとてと機械の群衆の元へ逃げおおせるアスフォデル。そして振り返り、不敵に笑った。

「最早わしの命などどこで尽きても同じこと。すべては魔王さまさえ生き残ればよいのだ……!」

 身を捨てる発言に、一同がたじろいだ。

 しかし、その中で一人、群衆の目前に立ち向かう男がいた。

「ここはオレに任せて、お前らはとっとと魔王を倒してこい」

 イフが黒い剣を抜き、アスフォデルに向けた。

「イフ、この数じゃお前でも……!」

 セトが止めようとするが、その背中は物語っている。

「大丈夫だからさっさと行けよ」

「……」

 セトは決心し、上へと繋がる階段へ駆けだした。

「イフ、絶対に負けるんじゃねえぞ!」

 振り返り、イフにはっぱをかける。

「お前こそ、約束破るんじゃねえぞ、セト!」

 すかさず返ってくる、威勢の良い言葉。

 セトはニッ、と笑い、彼らは魔王のいる屋上へと向かった。

 セトたちがいなくなったのを気配で感じながら、イフは切っ先をアスフォデルに向けた。

「今まで散々地味な嫌がらせをしてきたよな? 倍にして返してやるよ」

「ふん、あの筋肉バカに甘やかされて育った小僧が! わしの作品で葬られることを光栄に思うがいい」

 にたにたと笑っていたアスフォデルだったが、二人の足音を聞いて嫌悪感丸出しの顔になった。

「やはり貴方だけでは不安なので、お供させていただきますね」

 飄々とした口調の麗しき騎士、ラズロがイフの傍らにいた。

「また暴走したら止めなきゃだもんねっ!」

 たんっ、とさらに隣に飛んでくるマルグリット。

 表情を伺えば、イフもアスフォデルと似たような顔で出迎えている。

「えーっ、折角加勢しにきたのにその顔!?」

「オレ一人でも十分だっつっただろ」

「貴方に説教をした者として、責任がありますから。これは私のわがままですよ」

「それに、イフを一人にしないって、約束したもんね!」

「……」

 彼らの屈託ない言葉に押し黙る。

 一瞬訪れた沈黙を引き裂いたのはアスフォデルだった。

「仲良しごっこなぞ面白くもない! 三人まとめて片づけてくれるわ! まずはこの作品ナンバー16のスペシャルユニコーン。白銀の装甲が美しい、芸術点の結晶じゃ。それからこのナンバー22はハイパーゼータ(Z)。そしてこっちが魔王軍の白い悪魔と呼ばれるーー」

「お前のデザインにしてはあんまり禍々しい感じがしないな」

 長々説明を垂れるアスフォデルに対し、イフは全うに感想を述べた。

「イフ……そういうのは聞き流して良いんだよ?」

「貴方、うまく乗せられて変な契約とかしてないでしょうね?」

 さすがのお人好しさに、思わずマルグリットとラズロが心配そうな目で見つめた。

「ーーっ、契約もしてねえし、変な勧誘にも引っかかってねえよ! そんな目で見るな!」

 顔を赤くして言い返す。

 その姿に、けれど二人は嬉しそうに笑っていた。

 彼の優しさは、シプレが残しておいてくれて、大切に守ってくれていた心だと知っているから。

「それでは、参りましょうか」

「余計な話ばっかしやがるな、脳天気野郎の仲間は……」

「楽しいのが一番じゃんっ」

 三人は機械の群衆を目前に、表情は晴れやかだった。


 暗雲が手を広げる頭上。風が吹きすさぶ、城の頂。

 そこに、黒い靄を周囲にまとった魔王が佇んでいた。

 禍々しい仮面をかぶり、セトたちを見据えた。

「遂に此処までやってきたか」

 重圧のある声色。その重みに、一瞬リムはたじろいだ。

「あぁ、やっとここまで来れた……!」

 セトは勇気の剣を抜き、魔王に向けた。

「お前、かつての勇者によく似ているな」

「あぁ、そうだよ。お前を封印した勇者は俺の父さんだ!」

 そう告げると、魔王は至極愉快そうに、高らかに笑った。

「そうかそうか、では、親子ともども殺せるというわけか。これは面白いストーリーだな」

「はあ!? 誰がお前に殺されてやるって言ったんだ!?」

 むきーっと、魔王の態度が気にくわないセトが食ってかかる。

「のう、本当に二人だけで大丈夫なのか……?」

 リムの傍らに羽ばたくフラムが小声で不安を漏らした。

「大丈夫、大丈夫です」

 そういいながらも、リムの表情は険しい。

「さあ、御託もそろそろ終いにいよう。世界が滅びる時を、おまえたちに特別に見せてやろうか」

 そういって魔王は両腕を広げた。

 すると、黒い靄の中から二冊の本が現れた。それは魔王に従うかのように宙を浮遊し、傍らで止まった。

「魔法の書、やはり、貴方が持っていたのですね……!」

「この本は魔法の力を最大限に増幅させる。貴様らを絶望の底へたたき落としてやろう!」

 魔法の書から禍々しい黒い手が伸びてくる。

 セトとリムは別方向に回避した。

「この世界は暗雲に包まれ、我が支配するのだ! 人間どもも妖精どもも死に絶え、我が一族の世界となる!!」

「うるせえ! そんなことさせるかよ!」

 延びてきた手を剣で切り落とす。しかし、手は無数に発生するようだった。

「わたしは民と約束したのです! 必ず魔王を封印すると!!」

 リムが片方の魔法の書に手をかざした。

 氷の結晶が集まり、魔法の書を包み込む。キィン、と甲高い音を立てて、魔法の書が凍り付いた。

「ふん、その程度造作もない!」

 魔王が手を払うと、氷は音を立てて割れ果てた。

「あれをどうにかしないと魔王に近づけねえ!」

 いくつもの手を振り払いながら、苦い顔をするセト。

「セト、後ろ!」

 フラムが叫んだかと思うと、セトの背中に激痛が走る。

 背後に差し迫った手が彼の背を通り過ぎたかと思うと、大きく裂けて血が流れ出す。

「いっ」

 鋭い痛みに目をつむり、すぐさま後退して距離をとる。

「セト!」

 駆け寄ろうとするリムを手を広げて制止した。

「大丈夫!」

 フラムが声をかけてくれたおかげで傷は浅く済んだ。

 しかし、このままでは魔王に傷一つ付けられないままだ。

「父親と比べてまったく話にならんな。未熟さ、脆弱さ! 弱い、弱い!」

 魔王が手を広げると、両側の魔法の書から無数の手が出現した。

 間髪入れずに、一瞬にして手たちがセトめがけて降りかかる。

 完全に反応に遅れたセトが、黒い手に包まれた。

 あたりがしん、と静まりかえった。

「セト!?」

 フラムが叫び、彼の声を待った。

 しかし、返事がない。

 そこに響いたのは魔王の笑い声だった。

「お前はなにもできない! 我が絶望に染まり、慟哭に響く世界をそこで見ているがいい!」

 魔王が暗雲に手をかざしたとき。

 黒い塊にひびが入った。

「セトは弱くありません……わたしをここまで連れてきてくれて、わたしをずっと守ってきてくれた、わたしの勇者です!!」

 黒い手が弾き飛ばされ、霧散する。

 中から現れたのは光の結晶。温かな光の粒に包まれて、リムがセトを庇うように寄り添っている。

「守り守られるなど弱い生き物がすること!」

 魔王は空にかざした手を二人めがけて振り下ろした。

「お前はそう思っていればいいさ!」

 セトが降りかかってきた黒い刃をすべて切り落とした。

「弱くても、怖くても! 守りたいと思うから強くなるんだ、誰よりも、何よりも!」

 彼が叫ぶと、呼応するように勇気の剣が眩く光り出す。周囲に漂っていた光の粒子が、やさしく剣を包み込んでいた。

 忌々しそうに魔王が剣を睨みつけた。しかし、さらに両脇にある魔法の書が清廉な光を放ち、視界を純白で埋め尽くした。

「なにっ!?」

 苛立ちも含めた声色で、魔王は手で視界を覆う。

「こんなところまでいきなり出張だなんて、人使いが荒いこと」

「今までのんびりとした農村でピコピコし放題だったんだから、たまには過酷な仕事しなさいな」

 美しい竪琴を奏でるような声が響いた。内容はまったく清純さが見受けられないものの、その声は彼らには馴染みのある声だった。

 光のまばゆさが収まると、セトとリムを守るように、セトの姉、アウラと、丘の女神が傍らに控えていた。

「姉ちゃん!?」

「女神さま……! なぜここに……?」

「言ったでしょう、わたしたち女神はあなたたちの希望とともにある、って」

「久しぶりね、セト。少し体格が良くなったんじゃないかしら?」

 相変わらずの姉の態度に、セトは表現しきれない安心感と不思議さを感じていた。

「女神が現れるだと……!? こんな、こんなことがあってたまるか……!」

 困惑し、焦燥を映す魔王に、アウラが腕を組んで胸を張った。

「よくもわたしたちの可愛い世界を汚してくれたわねっ」

「民を導く者、そして勇者よ、さあ、勇気と愛をもって、この暗雲を晴らしてください!」

 アウラと丘の女神がそれぞれ手を結び、祈りを捧げる。

 勇者の剣がいっそう眩く光り輝いた。

 四つの宝玉がそれぞれに光り出す。

「セト!」

 リムも胸の前で手を合わせ、やわらかく結び、胸に広がり続ける温かな気持ちを込めた。

 セトは魔王の目前に差し迫る。

 光に怯えた魔王を横に一閃。さらに勢いを利用しくるりと一回転。下段に構えて振り上げる。その畳みかけられた攻撃は、闘牛を思わせる熾烈さに映える。それは、イフが魅せたかつての剣技。

 勇者の剣は光に軌跡をひく。光の線が流れるように、断ち切るように、魔王の体に刻まれていく。

 続いて、右からの下段付き。セトは大きく息を吐いた。

 魔王は体勢を崩し、けれど力の限り叫ぶ。

「この、このおおオォォオ!!」

 咆哮をあげ、魔王の手がセトの肩を掴んだ。それさえも厭わず、セトは魔王に光彩を放ち、突き刺された剣を大きく振り上げた。

 放たれた光の線は魔王を裂き、天空へと突き進んでいく。

 暗雲を貫き、しん、と静まりかえった後。

 雲の中心から光がさし、瞬く間に暗雲を払いのけていく。

 そこからのぞく、待ちこがれた青い空。

 天藍はどこまでも澄み渡り、優しく世界を抱きしめていいく。

「あぁ、なんと、なんと空しい……」

 魔王はかすかな呻きを残し、黒い塵屑となって風に吹かれ、やがて消え失せた。

 べしゃり、と音がした。

 リムが青空から視線を落とすと、そこにはセトがへたり込んでいた。

 へにゃへにゃと疲れたような、けれど嬉しそうな彼の表情に、少女はたまらなくなって彼に駆け寄り、勢いのまま飛びついた。

「うわっとと、びっくりするぞ、リム!」

「セト、あぁ、セト!!」

 しっかりと受け止めたセトが驚きの声をあげるが、リムは彼を抱きしめ、瞳に涙を浮かべて頭をすり寄せた。

 喜びに震える彼女をしっかりと抱きしめ、セトは愛しそうに彼女をみた。

「これで終わったんだ」

「えぇ、えぇ……! ほんとうに、ありがとう、セト……!」

 ぼろぼろと流れ出る涙をセトが拭った。

 リムはその手をとり、額に引き寄せた。

「ありがとう……! わたしに勇気をくれて……! わたしの、そばにいてくれて……!」

 セトは優しい瞳で頷き、彼女を抱きしめた。

 女神二人は遠目でそれを眺め、ふふふ、と肩を竦めていた。


 最後の一体が機能停止したのを確認し、ラズロは振り返った。

 そこに、アスフォデルの姿はない。ただ、薄汚れた白い白衣だけが取り残されていた。

「ねえ、あれ……!」

 マルグリットが希望に満ちた声をあげた。

 三人は大広間の窓から外を見た。

「成し遂げたのですね、リム様……」

「セトたち、やったんだ!」

 マルグリットがはしゃいだ様子で窓に駆け寄り、広がる青空を仰いだ。

 イフは剣を納め、深く息を吐き、眩しそうに微笑んだ。

「あいつに似て、ずいぶん脳天気な空だな」

 そう、皮肉を呟きながら。


 

 そして、彼らの旅は終わりを告げた。



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