最後の宝玉!水の神殿と兄妹の花 第四話
「宝石って言ったって、誰が持ってるかって一人一人に聞くの?」
事情を飲み込んだ一同だったが、皆がよぎったことを発言するマルグリット。
「何か、手がかりになるものはないのでしょうか」
「ロタローにこっちに来てもらえばよかったな……」
「過ぎたことを言っても仕方ありません。我々で宝石の回収か、可能なら破壊をしましょう」
「そうだな」
「嫌悪感、発生」
と、そこに聞き慣れない声が一つ。
声は四人が囲んだ中央からした。
同時にぱっと視線をおろすと、そこには一人の子供がぽつりと立っていた。
「うわ、なんだ、こいつ!?」
セトが驚いて仰け反った。
子供は少女とも少年とも判断しがたい容姿をしていた。袖の長い服をまとい、どことなく神秘的な印象を放っている。
「水流を伝播、魔王眷属の気配」
「もしかして、宝石の場所が分かる感じ?」
マルグリットが自分より少し背の低いその子に尋ねると、子供はこくりと頷いた。
「案内を頼みましょう」
リムが提案すると、一同は頷き同意する。
「魔法使える、二手に分断、英断」
「韻を踏み始めましたよ」
「もう、ラズロ、余計なツッコミしないで! あたしも言おうとしたけどっ」
「私とマルグリットが分かれて行動するべき、ということでしょうか? でも、案内できるのは貴方だけでーー」
「後方、注意」
同じ声色がもう一つ届く。セトの後ろに、同じ顔の同じ衣装の子供がいた。
「どうわっ!」
セトが再び吃驚して今度はラズロにしがみついた。
「双子?」
「早急、私の楽園、危機」
「わわわっ」
それぞれの子供がリムとマルグリットの腕を掴み、引っ張っていく。
セトはラズロの腕を離し、リムについていく。
「俺はリムと一緒に行く! ラズロはマルグリットを頼む!」
「分かりました」
ラズロも頷き、マルグリットを追いかけた。
「これで五個目か?」
「魔法で浄化ができるのは理解しましたが、この子はどうしてそれを知って……?」
「早急、楽園の危機、防衛を依頼」
また子供はリムの腕を引っ張る。
「わ、分かりました。行きます、行きます」
子供に手をひかれ、走り出すリムに続くセト。
「なんか、その子フラムと似た感じするな」
「フラムと……?」
美しい水色の髪を揺らしながら、子供は黙って目的地へ進んでいる。
通行人の一人を指さし、ぴたりと止まる。
「魔王眷属、気配察知」
「わかりました、あの人ですね」
リムは通行人に話しかけ、事情を説明する。
待っている間、セトは子供を見下ろし観察した。
その子は基本無表情でありながら、心なしか不安げな雰囲気があった。それを察知し、セトは頭にぽん、と手をのせてなでた。
「?」
撫でられた子供は首を傾げながら、固まった表情をセトに向けた。
「大丈夫だ、俺らが何とかするから」
「……」
返事はなかったが、不安が少しはとれたような気がした。
「終わりました」
リムが戻ってくると、子供はリムの手をそっととり、自分の額につけた。
「楽園の救済、感謝」
「い、いえ……あなたは一体、何者なのですか……?」
子供とは言い難い不思議な雰囲気のその子に、リムは戸惑いの視線を向ける。
しかし、その子は何か言い掛け、すぐに険しい顔になり振り返った。
「どうしましたか?」
「火の友人、悲鳴」
「悲鳴?」
「至急、至急」
また子供はリムの腕をそのままひく。
しかし、二人には火の友人、に心当たりがあった。
それをお互いに思い、セトとリムの視線がばちりと交わる。
「行きましょう」
「おう……!」
小さな翼を羽ばたかせ、フラムはロタローを空から追いかけていた。
(確かに嫌な感じがする……が、この不浄の気配はあのロボからではない……?)
うまく的が絞れていないような感覚に、もどかしさを感じる。
ロタローはついにロボを掴まえ、その体に飛びついた。
「ガガ、離セ、セヨセヨ」
ぐるぐる頭を回して抵抗するが、ロタローは意地でも離さない。
「こんな、こんなことになって、俺は、ミトカに会わせる顔が……!」
聞こえてきたのは小さな嗚咽だった。
フラムがその痛ましい声に寄り添おうと、ふわりと舞い降りた。
そのとき。
「ぐえっ」
フラムの視界は一転、何かに体を強く掴まれてしまう。
「これはこれは、火の守護神サマじゃあないかね? ふむふむ、なんとも不思議な形態! ふにふにしておるの」
大きな手に掴まれて、にぎにぎされるフラム。苦しみに顔をゆがめ、声の主の方を振り返る。
「貴様、アスフォデル……!」
「あの勇者一行は随分よいものを連れているようじゃが、なんとも不甲斐ない使用方法じゃのう。もっと解剖して研究して、自分たちがうまく利用できるよう改造してしまえばよいのに!」
まあ、そんな技術も頭もないでしょうけど、と蠍の老人はにたりと笑う。アスフォデルは家ほど大きな機械に乗り、それを操作しているようだった。人型の機械はフラムを右手で握りしめている。
「ぐぬ、離せ、離せ!」
身悶えして訴えるが、その手の力を強められてしまう。
「人間、そいつと戯れるのも良いが、自分の持っているものだって例外ではないのじゃぞ?」
ワタシって親切! と自分を褒めるアスフォデル。ロタローは一瞬なんのことか検討がつかない様子だったが、すぐに自分の首もとにさげたネックレスを取り出した。
「な、なんだ……!?」
そのネックレスにつけられた宝石は漆黒を称え、光を反射せず、異様な美しさを放っていた。
「さっきまではこんな色じゃ……うぐっ」
突然うずくまるロタロー。
ロタローに掴まっていたロボは好機と見逃さず、また素早く逃げる。
しかし、それをアスフォデルに制止された。
自分よりも遙かに大きい機械に踏みつぶされて。
「な、そいつ、貴様の仲間ではないのかっ」
あまりに無情な行動に、思わずフラムが反感を訴える。
つまらない抗議を受けたアスフォデルは、心底迷惑と言ったような目をロボの残骸に向けた。
「勇者に見つかり、人間ごときに掴まるとは、失敗作だ。ワタシが作ったのだから、ワタシがどうと扱っても良いのだ」
「うぅ……」
ロタローのうめき声に、フラムは彼に振り向く。すると、ロタローはぎりぎりと地面を掴み、何かに耐えているようだった。
「まさか、その宝石……」
「うまく回っているようだな……貴様がこの町の魔物化第一号だ! 素晴らしいぞ……!」
興奮したように身を乗り出すアスフォデル。
(なんとか、なんとかせねば……!)
フラムはじたばたと暴れるが、豪腕には今の姿では敵わない。
悔しさに顔を歪めると、アスフォデルが嬉しそうににたりと笑う。
「いやいや、様々なサンプルがとれて今日はなんて良い日だ! 美しい一日! 素晴らしい!」
喜び賛美していると、ロタローが突然駆けだした。
「ロタロー、待て!」
町の外へと駆けだしていく青年に、フラムが声をかけるが、その声は全く届いていないようだった。小さくなっていく彼を、フラムは見ていることしかできなかった。
「ふむ、錯乱してしまったのじゃろうか。まあ、すぐにまた戻ってくるであろう。もちろん、今度は魔物になって!」
アスフォデルはるんるんと鼻歌を歌いながら、フラムを自分の目の前に持ってくる。
その好奇心と嗜虐性に満ちた瞳に映され、フラムは顔に噛みついてやりたい気持ちになった。
「今はあんなのよりも貴方! なんて不思議! なんて幸運! こんなに素敵な贈り物、一生にない!」
「貴様なぞ、すぐにセトたちが倒してくれるわ!」
精一杯の抵抗を吐き捨てるフラム。
アスフォデルがそんな言葉も興味なさそうに鼻で笑ったとき。
「そうだ、お前なんか俺たちが倒してやる!!」
威勢の良い少年の声が飛んできた。
それは、自分の名前をはじめて呼んでくれた声。
どこまでもまっすぐで、光が射すようにフラムの耳にしっかりと届いた。
フラムが少年の方を省みる。
そして、少年と目があった。
「セト!」
「フラムをとっつかまえてどうする気だ!」
「所詮今は何もできない抜け殻でしょう。体は丈夫そうですから、いろいろ実験体には良いかと思いまして」
「確かにでっけえ時と比べたら何にもできないし、言ってること小難しくてよく分かんねえけど!」
「そんな風に思っておったのか!?」
「でも!!」
セトは剣を抜く。その白銀のまばゆさに、一瞬目を細めるフラムとアスフォデル。
「そいつは俺の大事な友達だ! 返してもらうぞ!!」




