最後の宝玉!水の神殿と兄妹の花 第三話
ロタローとミトカと別れ、一同は温泉が入れるという店の前に立つ。
しかしセトは気乗りしない顔である。
「俺、ラズロと一緒に入るのヤダァ」
率直な感想であった。
そんな彼の態度に、ラズロはさして気にしていない様子。
「まあ、理由はなんとなく察しますけど、では、セトだけ別行動致しますか?」
「フラムだって入れないだろ。一緒にそこらへん見てくよ」
いつもの定位置、リムの肩に座るフラム。彼女の長い髪に隠れて、フラムの存在に気付く者はいない。しかし、どうやら不機嫌そうにむすっとしている。
「そうじゃ。さっきの店でだって、マルグリットは堂々と食べていたのに、わしだけテーブルの下からこそこそ食べて……あれほど寂しい食事は無いぞ」
「申し訳ありません、ロタローさんたちは特にマルグリットに対して言及はしませんでしたが、流石にしゃべるトッカーゲとなると……」
「わしは火の守護神じゃぞ。水の守護神と同等なのじゃぞっ」
「はいはい、すまんって。ほら、色々見て回ってやるから、行くぞ」
ぶつくさ愚痴をたれるフラムをむんずとつかみ、自分のバッグに詰め込むセト。
「こういうのが粗雑だというのだっ」
バッグの中から不満がもれる。
ラズロはでは、と話を切り替える。
「一時間後にここで合流にしましょうか。落ちている食べ物は拾って食べてはいけませんよ、セト」
「一時間後ってわかる?」
「迷子にならないでくださいね。迷子になったら人に道を教えてもらうんですよ」
「俺は子供か!」
心配してくる仲間に対し、フラムそろって不機嫌になるセト。
「行くぞ、フラム!」
少し地団駄を踏むようにどかどかと三人に背を向け歩き出す。
残された三人は本気で言っていたようで、首を傾げながらお互いに顔を見合わせていた。
「みんな、俺のことめっちゃ子供に見てないか?」
「実際おぬしが一番年下なのではないか?」
バッグの中からもぞもぞと返事が返ってくる。
「そうなの?」
「ラズロはもちろん、マルグリットも容姿は人間族の13歳くらいに見えるが、妖精としてはもう20年くらい生きているじゃろう」
「え、そうなの!?」
彼女の無邪気さも相まって年下と思って接していたが、妖精族の外見成長は人間とは違うようだ。
「そうなのか、やいやいだなあ……いや、それにしたってもう俺だって15だぞ?」
「うむ? おぬし15だったのか。7歳くらいかと思ってたぞ」
「フラム、お前まで……!」
今すぐお前を置き去りにしてやろうか、と悔し紛れにそんな一案が浮かんだところで、セトの目の前を不思議な物体が横切った。
「ガガガ、ガガガ」
ピコピコと体内から音を鳴らし、車輪を回して動く物体。この旅の中で何度かお目にかかったことがある、メカメカした物。
「コレ、オ得。ゴ購入、スル、セヨ?」
セトの胴体あたりの身長のメカがセトを発見し、くるりと方向転換し立ち止まった。
そのロボが差し出してきたのは紫色の宝石がはめ込まれたネックレスだった。
「なんだ、こいつ」
「他ニモ、アル、セヨ」
がしょん、ネックレスを手の中に取り込み、またがしょん、と音を立てて現れたのは、紫色の宝石がはめこまれたブレスレットだ。
「それどうなってんだ!?」
ぐわし、とロボの手を掴んでセトはその手品めいた現象に夢中になった。
掴まれたロボは嫌がるようにガガガ、とその首をふる。
「セト、そもそもこのロボ、どこかで見覚えがないか?」
バッグから顔を出したフラムが警戒に満ちた顔で言った。
「どこかって?」
「ガガガ、離セ、離セヨセヨ」
セヨセヨ連呼するロボが可哀想なのでぱっと、手を離した。
すると、ロボは一目散に駆けだし逃げてしまった。
「何故離す! あやつ、アスフォデル製の機械ではないか!?」
フラムがセトを叱咤した。怒られたセトはハッと目を見開いてロボの去っていった先を見た。
「ほんとだ、あの変なしゃべり方、そうだセヨ!」
「ふざけている場合かっ、あやつがまた何か悪さしているかも知れんっ、追うのだ!」
「わかってる!」
セトはバッグを背負いなおし、ロボを追いかけて駆けだした。
「こっちのほうに逃げたなっ」
路地裏に駆け込み、その暗がりをくまなく探す。
すると、物陰にひとつ、あのロボの背中が見えた。
「いた、お前こんなとこで何するつもりだっ」
「あれ、こんなところにいたのか」
ロボの頭をむんずと掴むと、それと同時に先ほど聞いた声が飛んできた。
路地裏の入り口に、ロタローが目を丸くして立っている。
「って、セトさんまで。どうしてこんなところに?」
「兄ちゃんだって、なんでこんなとこに……」
「その行商人、まだこの町にいたんだな。セトさんも買い物か?」
「え? 兄ちゃん、このロボからなんか買ったのか?」
セトはロボを掴んだ手を緩めない。どうにも様子がおかしい状況に、ロタローは不審そうな目をセトに向けた。
「怯えているみたいだけど、手を離してやってくれないか?」
「いや、だってこいつは魔王の手下で……」
「え……?」
ロタローはその言葉を聞いて凍り付いたように固まってしまう。
「だって、その行商人が綺麗な宝石を売ってたから、それを結婚式の参加証として使って……」
わなわなと震えながら、右手をその口元に持って行く。震えが止まらず、左手でその手を支えた。
「なんだって……?」
セトにも彼の不安と緊迫が伝わり、ロボの頭を両手で掴んだ。
「おい、この宝石にはなんか悪いことしてるんだろ! どうなるんだ!?」
「セヨセヨ〜!」
と、突如ロボは首を高速で回転させる。自分の腕が持って行かれそうになり、セトは反射的に手を離した。
しめた、とロボはその一瞬を見逃さず、すたこらと逃げていく。
「あ、待て!」
セトがそのロボを再び追いかけようとすると、その足下にジリリ、と小さな稲光が走る。
「っ」
「セトさん!?」
それに制止され、セトは立ち止まった。
「また小賢しい勇者か。尽くワシの実験の邪魔をしおって」
頭上からしわがれた声が降ってきた。
セトとロタローが声の方を見上げると、白衣を着た魔物が建物の屋根に立ち、二人を見下ろしていた。
「アスフォデル! お前、今度は何するつもりだ!?」
「そうカッカするでない。実験は既に始まっているのだ。あとは高見の見物よ」
アスフォデルはセトをあざ笑うかのようにのんびりした様子を見せつける。
「うるせー! 教えろ!」
「こいつ、ふてぶてしい奴じゃのう」
下から喚く少年に迷惑そうに顔をしかめる。しかし、再びすぐに上機嫌そうな顔に戻った。
「長年の研究の成果がこの町で証明されるのだ。よく聞け。あの宝石を持った人間は肉体を、魂を魔王さまに支配され、やがて魔物に成るのだ」
「なんだと……!?」
「そこの愚かな人間が宝石をばら撒いてくれたおかげで、充分に種は行き渡った。さて、わしは実験の経過を記録しに戻るかの」
じゃあの、とアスフォデルは高笑いをしながら立ち去ろうとする。それをセトが追いかけようと壁に掴みかかるが、ロタローがセトの肩を掴んだ。
「ど、どうしよう、町のみんなが……!」
「大丈夫、俺が宝石を壊してまわる。ロタローも協力してーー」
言い掛けたとき、セトははた、と気付く。
あのロボを止めなければ、と。
振り返ると、ロボはすたこらと路地裏を抜けて大通りにいた。
「あ、あいつ!」
セトが追いかけようとするが、ロタローはセトの腕を掴んだ。
「あいつは俺が掴まえる。セトさんは他の宝石を頼む!」
ロタローはそう言って、ロボを追いかけて駆けだした。
「一人だけ行かせるわけには……っ」
「わしがあやつに同行する! おぬしはリムたちのもとへ向かえ!」
フラムが高く舞い上がり、ロタローを追いかけた。
セトはフラムの陰を一瞬見たが、すぐに振り返り駆けだした。




