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共闘!土の神殿 第六話

 セトが剣を突き刺した瞬間、守護神はけたたましい叫び声をあげて身をくねらせ、セトを中心にしてとぐろを巻いた。

 少しずつその胴体を締め上げていくのを見るに、中のセトはこのままだと圧死するだろう。

 取り残されたイフは右手を守護神へと向け、集中する。先ほどよりも鋭く、強く。

(あのアホを焼き殺さない、しかし、守護神にだけ通る攻撃……!)

 一つのイメージに向かって、具体的に、強く想像する。

 あの巨体を焼き尽くす炎。その、輝きを。

 脳裏に一つの灯火を見た。

 それを掴むように、右手を瞬時に閉じる。

「グ、ギ、ギギ」

 内側から膨れ上がる何かに、守護神は身を固めて耐えようとした。しかし、それは大きな爆発音を立ててとぐろの中心から爆ぜる。

 炎が噴き出し、その身を烈火が駆けていく。火を消そうと、守護神は長い胴体をばたばたと砂に擦り付けた。

「アッチッチ……! って、熱くない?」

 ぽつりと立っているセトは首を傾げた。

「伏せろ!」

 ぽかんと立っているセトに向かって、イフは怒号を飛ばした。

 セトは反射的にしゃがむと、頭上でガキン、と剣と何かがぶつかる音がした。傍らを確認すると、守護神がはじき返されたように仰け反っている。

 イフが攻撃を防いでくれたらしかった。

 剣を握りなおし、セトも加勢しようとした。が、ぐん、と体全体に何か重いものがのしかかる。

「ぐへあ」

 つぶれたような声を出すセト。

 イフはセトの背中を土台にして守護神めがけて飛び上がっていた。

 崩れ落ちるセトを完全に無視し、落下とともに横に一閃。全体重をかけて払われた剣は守護神の固い頭を揺らした。さらに攻撃を畳みかける。

 勢いを利用しくるりと一回転。下段に構え容赦なく振り上げる。顎に食らった一撃に、守護神は仰け反った。固い皮膚に一瞬体勢を崩すが、流れを殺さず、右から下段突き。守護神の赤い眼を射抜く。

 膝をついて見上げたセトの瞳には、闘牛を思わせる熾烈が映る。

「ギィィィイイ!」

 剣を支えに、暴れ狂う守護神の顔面を踏みつけ、その場に踏みとどまる。重心を低くし、引き抜かれる黒い剣。砂が吹き出すが、イフはただ一点を見つめる。鋭利に光る琥珀色を細め、黒い一閃が守護神の首元を通り過ぎる。

 そして。

 ぐしゃり、と音を立てて守護神の首と胴体とが分かたれ伏す。

 地面に飛び降りたイフは、しかし自分を支える力すらなく、その場に膝をついた。

「イフ!?」

 セトは剣を納め、青年の元へと駆け寄った。

 イフは剣を支えにしながらうなだれている。顔をのぞき込むと、苦しそうに眉をひそめていた。

「大丈夫か!? どっか怪我したのか!?」

 あわあわするセトを、煩わしそうな表情で睨みつけた。

「心配されるほどじゃない。うるさい奴だな……」

 悪態をついているが、その声色には普段の鋭さは失われている。

「ほんとに大丈夫か!? 俺が誰だかわかるか!?」

「だから喧しいって言ってるだろ。しばらく休んでいれば問題ない」

「そっかぁ、なあんだ、良かったあ」

 心の底からほっとしたような表情の少年に、イフは何とも言い返せない口を一つに結び、その場にぐしゃりと座り込んだ。

「おまえは本当に、ボケ脳天気野郎だな……」

 出てきたのはそんな言葉だけだった。

 しかし、セトはそれを放った彼の表情に、目を丸くした。

 憎らしく悪態をつきながらも、穏やかそうに微笑む彼。

 セトはやっぱり、と心の中で思った。

 出会ったときから、そして、こうして行動をともにしていてじんわりと広がる温かさ。彼の、心の奥底にある、揺るぎない優しさ。

 その存在に確信を持ち、セトはへへ、と嬉しそうに笑った。

「なんだよ、気味悪いな」

「いいや、やっぱイフって優しいんだな、と思って」

「平和ボケの危機感ないのはお前の方だろ。あいつと戦うふりして、オレを殺すことだってできただろ」

「なんでそんなおっかないこと言うだかなあ。そんなこと言ったら、お前だってそうだろ」

 当たり前のように返してきたセトに、今度はイフが黙ってしまう。

 そうだ。セトが守護神に囲まれたとき、そのままにしておけばよかったのだ。それどころか、セトに一切怪我なく助けたのは自分の方だった。

「……利害の一致、だ。まだここから出られてないからな」

 苦し紛れにそう言い訳をする。

 しかし、セトにはその言い訳すら心地良いようで、にまにまと笑みが隠し切れていない。

「やっぱり今ここで殺してやろうか……!」

 地を這う声色で脅しながら剣を握り直す。

「うわうわ、ごめんって。イフは冗談が通じないなあ」

 やいやい、と付け足すセト。

 そんな二人の会話を遮るように、まばゆい光が守護神の亡骸から放たれる。

 亡骸は少しずつ砂になって崩れていき、その中から、輝きを放つ丸い玉が現れた。

「土の宝玉だ!」

 セトは嬉々としてその光の中へ進み、宝玉を両手で受け取る。

「ほら、イフ」

「……?」

 差し出された宝玉を見て、イフは首を傾げた。

「なんだ」

「守護神を倒したのはお前だろ。あの攻撃、めっちゃかっこよかったじゃん! 必殺技、みたいな感じでさ! イフってやっぱ強いんだな」

「……」

 嫉妬心の欠片もない、純粋な褒め言葉にイフはまた黙ってしまう。

「だから、これはイフのものだ」

 全く迷いもなく宝玉を明け渡そうとするセトに、イフは己の心が試されているような気がした。

 そして、自身の優しさが覆せない青年は、その宝玉をずい、と突き返す。

「それはお前が持っていろ」

「え、これが欲しいんじゃないのか?」

「……」

 イフがなんと言い返そうか言いあぐねていると、人の気配に気付き、視線を向けた。

 そこには少年の仲間たちがいた。

 少女がセトを確認すると、その瞳をうるませて迷わず駆け寄ってきた。

「セト!」

 リムは自分の感情を表すようにセトに飛びついた。それを受け止めたセトは一、二歩後退する。

「無事だったのですね、良かった、良かった……!」

「リムも大丈夫そうで良かった、心配してたんだ」

「心配したのはこちらの方です! もう、本当に……っ」

「仲良しなことだな」

 イフは目の前で二人のやりとりを見せつけられて、不機嫌な感想を吐きながら立ち上がった。

 イフの存在に今気付いたリムは顔を赤くして咄嗟にセトから離れた。

「イフ……あの」

 けれど、彼には言いたいことがあった。

 敵ではあるものの、セトもラズロも、リムもそう認識していない。

「セトを助けて下さってありがとうございます」

 リムは彼に優しい微笑みを向ける。

 感謝の言葉を渡されたイフは一瞬目を丸くし、しかしすぐにいつもの鋭い眼光を彼女に向ける。

「お人好しにもほどがあるな。オレはあんたたちの敵だ」

「それ、お前にそっくりそのまま返ってくるんじゃないか?」

 緊迫させる台詞を吐いたイフであったが、その空気が受け取れない我らが勇者セトはすかさずツッコミを入れてしまう。

「むぐッ……うるさい黙れッ」

 言い返すこともできず、イフは精一杯の抵抗という風にぺっとセトの足に砂を蹴る。

「うあ、地味に嫌な攻撃してきやがって! 子供か!」

「ふんっ」

 完全にすねてしまったようで、イフはそっぽを向いた。

 リムは二人のやりとりに、つい声を抑えて笑う。イフはもはやそれを完全無視した。

「なんなの、あのやりとり」

 取り残されたマルグリットは、同じく取り残されたラズロに思わず投げかける。

「イフは確かに魔王側の人間だとは思いますが、どうにも彼の行動は目的とすれ違っている点がありますね」

「ふーん、確かに、そんなに害があるやつじゃないかも? 個人的な意見として」

「セトに毒気を抜かれている、というのもあるのでしょうけど、そもそも、イフ本人の性格の問題ではないのでしょうか」

「そこの取り巻きもうるさいぞ」

 聞こえていたのか、これ以上自分を分析されるのが恥ずかしすぎるイフは鋭い眼光を二人に向けた。

 それを機会と思い、マルグリットがにまにまを抑えられないままに近寄ってくる。

「イフって言うんだっけ。妖精の里ではよくもやってくれたよね。ま、おじいちゃんが死にかけてたらしいけど、それであたしは里を出られたし、なんかありがとね」

「軽くないか?」

 やけに馴れ馴れしいパーティメンバーにあまり関わりたくないと思いながらも、ついつい気になるところはつっこんでしまう彼であった。

「なんだ、いいやつじゃん」

「いいやつじゃない」

「こいつ、色々助けてくれたんだぞ。めっちゃいいやつだぞ」

「めっちゃいいやつじゃない」

「セトが本当にお世話になったみたいで、ありがとうございます、イフ」

「あんたはこいつの母親か何かか?」

 イフのツッコミを意に介さず、各々好き勝手言いまくる。

 このままだとほんとにブチ切れて殺傷沙汰になりかねないと懸念したラズロが、割って入ってきた。

「あなたが私たちに敵意がないことは十分わかりました。けれど、立場上、これ以上仲良くもできないでしょう」

「いや、敵意はあるんだが」

 残念なことに、この場には天然しかいないのであった。

「この神殿は非常に脆く、道中崩れているところもありました。私たちもいつ下敷きされるか分かりません。早くここを脱出致しましょう」

「そうだな、宝玉も手に入れたことだし、次に行くぞ! イフも一緒に!」

「オレはお前たちの仲間になってないからな!?」

 最後まで律儀に申し立ててくれるイフに、マルグリットはやっぱいいやつじゃん、と確信した。

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