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共闘!土の神殿 第五話

 さらに戻って一方そのころ。

 セトとイフは石造りの神殿の中に不自然に立てられた看板を凝視していた。

「読めん」

 セトが一言。

「えっ……」

 一瞬たじろぐイフであったが、すぐさま表情を戻し、

「← ブラジル  宝玉 → って書いてある」

 と、教えてくれた。

「なんぞそれ」

「知るか。とりあえずこっちなんだろ」

 イフはなんの警戒も持たず、素直に看板に従う。

 その後ろを、セトがてこてこついていく。

「イフって魔法も使えるし剣も使えるし、すげーよなー」

「……」

「それってあのおっさんに教えてもらったの? あ、でもおっさんは剣使わないよな」

「……」

「おっさんはイフの教育係みたいな感じ?」

「そろそろ黙らないと斬り殺すぞ」

 イフは柄に手をかける。

「わーわー! 俺ばっかり喋ってごめんな! イフだって喋りたいよな!」

「……そういうことじゃない」

 呆れ果てたようにイフは殺気を失せ、また歩き出す。

 セトもそろそろとイフの後ろをついていく。

「そういえば、なんでさっき一緒に戦ってくれたんだ? 落ちるときだって、俺のこと庇ってくれたみたいだったし」

「……」

 それさえもイフは頑なに返事しなかった。

 実際、イフでさえも何故セトを助けてしまったのか分からなかった。火の神殿での時もそうだ。あの時、何故セトの怪我を癒したのか。シプレが悲しそうだったから、などと、その理由だけでは勇者を助ける理由に事足りない。ただ、いくら考えても、今でさえも分からない。

 ひとつーーセトが局面に立ったとき、あの少女ーーリムが傍にいることが気がかりだった。

 目の前で大事な人が冷たくなっていく、命が失われていく。

 それがどれほどの耐え難い痛みが続いていくのか、イフは知っていた。

(あの女にその気持ちを知ってほしくないから……? くだらない)

 イフは心中で思いながら、その考え方を切り捨てる。

 今度こそは必ず殺す。そう心に誓いながら。

「次に会うときは必ず殺す。だが、今はその時じゃないだけだ」

「物騒な言葉ばっかり言っちゃって、やだやあ……でも、その時じゃないって、なんで?」

「……二人でいたほうが脱出の確率が上がるからだ。分かっているか? この建造物は脆い。このまま歩いても道が塞がっている可能性がある」

「なるほど! 二人同時に押すスイッチとかあったら、イフ一人じゃ詰むもんな!」

「話は通じないようだな」

 イフは最早あきらめてしまったのか、理解してもらうことを放棄した。

「姉ちゃんがやってたあーるぴーじーでよく見るやつ!」

「あー、ぴ?」

 イフは得体の知れない単語に怪訝そうな顔をする。

「妖精の里にもそれっぽいやつあったんだよなー。久しぶりにやりたかったけど、あんま長く居ると嫌そうな顔するからなー」

「姉がいるのか」

 ぶつぶつ呟くセトに、イフは何気なく尋ねた。

「あぁ、うん。血は繋がってなくて、向こうは女神らしいけど」

「……複雑な家庭環境なんだな」

 イフはあまり深く聞くのは悪い気がして、それ以上は掘り下げなかった。

「でもずっと俺を見ててくれて、良い姉ちゃんだよ」

 怒ると怖いけど、というのもきちんと付け足す。

 明るく語るセトを見て、イフは後ろ暗い気持ちに囚われる。

「イフは一人っ子っぽいよな」

「……弟がいた」

「へー。イフみたいな怖い兄ちゃんがいて、弟かわいそー」

「……よく、泣いていた」

 イフは立ち止まる。砂上に立つ自分の足を見つめ、目をつむった。あの炎の光景を思い出す。闇の中で、燃える赤だけがごうごうとうねりをあげて。

 その中で、弟は泣いていた。

 イフはその瞳をゆっくりと開く。あの日に燃えて消え失せた琥珀色の瞳で、暗闇の先を見つめる。

「最後まで、泣いていた」

「イフがガミガミ怒るからじゃないか? いっつも不機嫌そうだし、怖いんだよ。弟となら、話が合いそうだな」

 うんうん、と頷くセト。

 イフは歩き出す。忘れかけていたあの炎を再びその身に燃やして。

「お前にも会わせてやるさ……もうすぐな」

 イフはそういって、前を歩くセトを追い越した。


「ここが最深部らしいな」

「砂が落ちてきてる……このままだと埋まっちゃうな」

 ほげーっと頭上を見上げながらセトがこぼした。

「アホ面に砂がかかるぞ」

 失礼なことを言いつつも注意を促すイフ。

「ん?」

 と、セトがある変化に気付く。それと同時に大きな振動と爆発のようなものが天井で起きた。咄嗟にセトはイフに飛びつき押し倒す。

「っつ」

 イフがセトに文句を言おうと口を開くが、目を開けると自分たちがいた場所には土の守護神が土煙をあげて降臨していた。

 口から突き出す二つの刃と、平らな体にいくつもある節。鋭い足が連なり、赤い瞳が二人を捉える。全長は視界に収まりきらないほどだ。大きな口を開き、その刃を広げた。

「守護神だ!」

 イフはセトの腕をつかみ立ち上がらせ、守護神から距離をとる。

「どうやらお仲間は来てないようだな」

「じゃあ、二人で倒すしかないな!」

 セトは意気込んで剣を抜く。

「お前に宝玉は渡さない」

 セトの言葉に頷きもせず、イフは軽蔑したように笑って先手をとる。

 守護神に向かいながら剣を抜き、脅威になりそうな刃を一つ攻撃してみる。しかし、案の定それは固く、手の痺れを返されただけであった。

「ッ、」

 忌々しそうに舌打ちをするイフ。守護神はむくりと顔をあげ、イフに向かって牙を広げた。

 イフは巨大な守護神に睨みつけられても動じることはなかった。

 右腕をあげて集中すると、守護神の頭上に冷気が集まる。す、と静かに腕を下げる。それにつられたように、生成された氷の刃が守護神の首元に降り注ぐ。

「ギィィィ」

 守護神は痛みに悶えた。

 皮膚は固いような印象を受けるが、、節部分は攻撃が通るらしい。

 首を落とせばなにもできないだろう。

 イフはそう考えつき、すぐさま首元を集中して攻撃しようとする。

 しかし、

「あぶねえ!」

 イフの傍らにセトが躍り出た。

「邪魔するな!」

 思わず悪態をつくイフであったが、セトが守護神の尾を自らの剣で受け止めているのに気付き、口をつぐんだ。

「っとりゃ!」

 セトが力業でそれを押し込み、振り払う。

 尾はするりするりと砂上を撫でて退避した。

「礼は言わないからな」

「そう言うと思った……」

 仕方がない、というように肩を竦めるセト。

 とん、とイフの背中に背中を合わせる。

「とりあえずはヤツの首を落とす。切り離せば胴体は動かない」

「なるなる。んじゃ、早速やってやろう。思い立つ鉄は熱いのが吉日、っていうしな!」

「言わない!」

 ツッコミを合図に二人は駆けだした。

 セトは尾に向かいながら剣を構える。首をもたげた状態では首元をねらうのは難しい。そちらは魔法が扱えるイフに任せて、自分は尾を始末しようと走っていく。

 二手に分かれた獲物に一瞬困惑する守護神だったが、そのどちらも相手しようと迎え撃つ。

「おっと!」

 セトめがけて払われた尾を、するりと避け、横をむなしく通るそれを剣でたたき落とす。土煙をあげてべしゃりと落ちた尾と胴体との節に、剣を思い切り突き立てる。

「ギィィ」

 悲鳴と、突き立てた箇所から砂埃が舞う。どうやら守護神は土の精霊と同じく、土で構成されているらしかった。

 しかし刺さった剣からは確かな肉の感触がする。手応えを感じたセトはその剣をがっしりと両手で掴む。

 尾を封印すればイフも戦いやすいだろう。

 そう思い、イフを振り返ろうとした。

 瞬間。

「ふへ?」

 セトの視界は暗闇に包まれた。

 ドドド、と大きな音を残しながら、いつの間にか何かに自身が覆われている。

 あたりに守護神のいくつもある手足があるらしいことを察知すると、セトは顔を青くした。

「巻き付かれてる!?」

 自分の状況を理解し、そう驚きの声をあげた。息を吸うと、肺の中に小さな砂が入り込むのを感じ、せき込んだ。暗くてよく分からないが、この狭い空間に砂埃が舞っている。地味な攻撃に、セトはうへえ、と喉の痛みに苦い顔をする。

 うぞうぞとしなやかな胴体が蠢く音だけは聞こえる。

 尾を突き刺したままの剣を強く握りしめ、セトは砂を吸い込まないように口を片手で覆った。

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