共闘!土の神殿 第四話
口の中がじゃりじゃりした。
セトはもぐもぐしながら思った。噛んでみると不快な感触があり、セトはうげえ、と苦い顔をして瞳を開く。
頭上からは砂が流れるように落ちて一つ、二つと線をひいている。
後頭部の痛みを感じながら、その砂の落ちる様をのんびりと見ていると、
「てめえ、早く剣を抜け!」
と、怒号が飛んできた。
「んん!?」
セトはその切羽詰まったような声に飛び上がった。
すると、自分の周りには砂の人形のようなものがわらわらと集まってきている。
「わああ、なんじゃこりゃ!」
「神殿を守ってる奴らだ! 早く蹴散らせ!」
イフはすでに戦闘を開始していた。砂人形を剣でなぎ払うと、形を失って床に散らばり、それ以上は復活する様子はない。
「急になんなんだ!? 口の中はじゃりじゃりするし!」
言いながらぺっぺ、と口の中の砂を吐き出す。剣を抜き、膝程度の大きさの砂人形たちを倒していく。
個々にたいした強さはないが、数が多い。
「お前を置いて先に進めば良かった!」
「ひどい! でも置いてかないでくれてサンキュー!」
セトは背後にいるらしいイフにお礼を言うと、どん、と背中に衝撃が走る。
「ぐへえ」
再び潰れたような声を出すセト。
「ボーッと突っ立ってんな!」
間髪入れずにイフの怒号が飛んできた。どうやら戦闘中のイフとタイミングが合わずぶつかってしまったらしかった。
「ぶつかってきたのはそっちだろ!」
「避ければぶつからないだろ!」
「おま……っ、なんかこう、もっとあれだ、気遣いとか足りないよ!」
「お前の方こそノロマなのが悪い!」
「また酷い言葉覚えちゃって! 誰なのイフに言葉教えた人!?」
土の精霊たちそっちのけで口喧嘩を始める二人。それをチャンスと見たか、精霊たちがそろりそろりと距離を詰める。
二人は同時にそれに気付き、蹴散らそうと剣を振り上げようとする。
と。
ガキィィイン……
と、お互いの刃がぶつかりあって停止した。
「……」
「……」
両者沈黙。
土の精霊たちも、険悪な空気が流れ出ている二人をはらはらとしながら見守った。
「てめえ……!」
地に這うような声を振り絞り、イフはセトをにらみつけた。
「いやいやいや、確かに俺も悪いけども! 今のはイフだって……!」
そこでセトははっとする。
ラズロに稽古をつけてもらった最初の日のこと。ラズロはセトと共闘がやりづらいと言っていた。
「もう一人いて、しかもリム様を守りながら戦うことをしなければなりません。あなたは一人でなんでもつっこんでいく習性がありますね。それは捨てましょう。何故ならあなたは一人ではないからです。これからはリム様も、私も傍で一緒に戦うのですから」
なので、やたら剣を振り回すのはやめてくださいね、と、あの整った顔でにこりと微笑まれたことを思い出す。
(あの時ラズロが言ってたのはこういうことかー……)
イフに睨みつけられた状態で、セトは思う。
(ラズロ、すまんな……)
一方そのころ、へくち、とくしゃみが響く。
ラズロが手を押さえてリムたちがいる逆方向を向いていた。
「うわ、かわいい」
最大限に引いたようにマルグリットが低く言った。
「失礼……」
ラズロが何ともいえぬ顔で正面を向き直る。
マルグリットは美人は割と何をしても許せるな、とは思ったものの、成人男性の可愛らしいくしゃみ、というジャッジは有罪へと傾いたのであった。
「埃っぽいですものね」
リムがそうフォローするが、その声には覇気がない。
セトとはぐれてしまい、リムは心ここにあらずといった様子だ。ラズロとマルグリットは顔を見合わせる。お互い心配そうな表情だ。
「セトでしたら大丈夫ですよ。気絶はしていましたが、イフがセトを抱えて落ちていったのを確認しました」
「そうだよ。大丈夫だよ。イフってのと、なんだかんだ仲良さそうだったしさ」
「仲が良いかは頷けませんが」
「ちょっと、ラズロ!」
ラズロの横腹を肘でつつく。
「話合わせてよ。リムが落ち込んじゃうじゃん」
「いや……イフは四天王の一人のようですから……彼にも事情があるにせよ、仲良くという表現はどうかと……」
二人でひそひそ作戦会議をする。
「イフ……彼も土の宝玉を狙ってここに来たんですものね……」
リムの声は一層沈んでいる。
「そ、そうだね! てことは、みんな集まるところは一緒だよね!」
「そうですよね……」
リムは深刻そうな顔のまま沈黙する。
マルグリットはどうしよう、と万策尽きたようにラズロに助けを求めるため視線を送った。
ラズロは思い詰めたようなリムを黙ってみていた。
「セトがいなくても、わたしが大丈夫だということを証明したい」
リムは一人、そう呟いた。
しかし、静かな神殿の中ではそのつぶやきも二人の耳にしっかりと届いていた。
はっとしたようにリムは我に返り、
「あ、いえ、セトが必要ないわけではないのですっ。セトはもちろん傍にいてほしいんですけれど、でも、セトに頼りっきりというわけにはいかない、という話でして……」
まだ何も言っていない二人に対して、何故か言い訳のようにまくし立てるリム。
そんなリムの動揺具合にマルグリットはにやにやと笑っている。
「な、なんですかその笑顔は」
「いいや? リムとセトの関係って面白いなーって」
「面白い、ですか?」
「個人的に興味ある、的な?」
「良いと思いますよ。お互いが切磋琢磨するようで、私も少し安心致しました」
「……わたしは、」
リムは胸のブローチをそっと包む。ラズロは気付いていた。それは、セトが贈ったものだということを。
「一人でも大丈夫だということをセトに知ってもらいたい。でも、それと同じくらい、わたしはセトのそばに居たい」
その言葉は、何よりも真っ直ぐで、何よりもかけがえのない思いだった。
ラズロは優しく微笑み、ずっと付き従ってきた少女を見つめる。
彼女の強さに己を省みる。
もう、自分の場所はここではないのだと、思い知るのだった。




