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共闘!土の神殿 第三話

 王都からも見えるこの砂漠は砂埃が舞い、非常に視界が悪い。フラムが高く飛び上がって道を示そうにも、どこもかしこも砂である。

「何も見えんわい」

 ぺっぺ、と口に入った砂を吐き出しながらフラムはセトの肩に舞い戻る。

「本当にここで合ってるのか?」

「お母さんの手帳には砂漠の真ん中あたり、って書いてあるけど……そもそもお母さん、なんで土の神殿に行ったんだろ……」

 マルグリットは砂に足をとられながらも手帳を読み返してみる。しかし風も強く砂が視界を塞いで読む集中力も損なわせるほどの煩わしさだ。

「むおー、なんかこう、バーッとこの風を止める方法はないのかね」

 セトは苛々しながら不満を漏らす。

「広範囲すぎて魔法で止めても一瞬止めれるくらいかなあ。セトこそ、勇者なんだからすごい力でブワーッて止められないの?」

「俺は勇者の息子だけど、勇者ではないぞ」

「え、じゃあなんなの?」

「リムを守る人だ」

「……」

 はっきりと言い放つセトに、マルグリットはぽかんとし、リムは顔を赤く染めた。

「さらっとかっこいいこと言うんだねえ。でも、その役目はラズロなんじゃないの? ラズロはリムを守る騎士さまなんでしょ?」

「リムさまを守る人間は多くても問題ありません」

 きっぱりと断言するラズロ。

「ふーん、べつに取り合ってるわけじゃないのね」

 ふむふむ、と一人頷きながら、このメンバーの人間関係を把握する。

「リムは物じゃないから分けるとか取り合うとか出来ないぞ」

 至極まっとうに反応を返されてしまう。ラズロに言われれば素直にときめくのだが、がさつなイメージのセトに言われてしまうとちょっと悔しさも感じるのであった。

「なんだよ、その不満そうなーー」

 と、セトが言い掛け、身が沈む。

「セト!?」

 ラズロが手を伸ばし、砂に埋もれるセトを止めようとするが(フラムもセトの肩を掴んで戻そうと翼を動かしているが、全く効果はない)、セトはフラム共々、すぽんっ、と姿を消してしまった。

 そして、セトに気を取られているうちに、自分たちの足下も沈んでいることに気付く。

「ちょちょちょ、どうすんのこれ!?」

「リムさま、手を!」

「マルグリットも、はぐれないでーー」

 みるみるうちに、三人の姿は砂の中へと消え去ったのであった。


 砂とともに流れていく感覚が止まると、マルグリットはガバッと起きあがった。

「ここどこ!?」

 あたりを見回すと、石造りの建物の中のようだ。どことなく風の神殿と雰囲気が似ている。上を見上げると、ぱらぱらと砂粒が落ちてくる。外からの明かりも漏れていることから、落ちてきたのだと推測した。

「ん?」

 次に視線を落とし、クッションとなってくれた砂を見ると、傍らでもぞもぞと蠢いている。

「な、なに!?」

 何かしらいるらしい不気味な挙動に、マルグリットは立ち上がりすぐさま距離をとった。

 すると。

「ぷはー!!」

 と、セトが砂の中から登場。 

「ここは一体……?」

「リムさま、お怪我はありませんか?」

 さらにリムとラズロももそもそ出てきた。

「上から落ちてきたみたい。みんな大丈夫?」

 マルグリットがセトに手をさしのべる。

「どうやらここは土の神殿のようじゃな」

 砂をぶるぶると振り払いながら、周囲を確認しフラムは断言した。

 崩れかけの建物のようで、隙間から砂が流れ出ている。

「砂の中に埋まってる、といったような状況でしょうか。奥に進んでも問題ないでしょうか……?」

「埋もれる可能性はあるが、戻る方法もなさそうじゃ」

 上を見上げて、フラムは諦めたように一息ついた。

「目的の場所にはたどり着けたんだし、ずんずん進もうぜ!」

 相変わらずなんの懸念もしないセトが、奥の道へ進んでいく。

 リムは砂を払い、セトについていった。

 進むしか選択肢がない現状では、彼のような気持ちでいたほうが得だろう。マルグリットは気持ちを切り替え、彼らに続く。ラズロは一番後ろについた。

「魔王側にはさ、人間がいるって、ほんと?」

 歩き出したところで、マルグリットはセトたちに聞いた。リムはそれが自分の責任でもあるかのように重く受け止め、深刻そうに頷く。

「えぇ……確かに、魔王側には人間がいます。イフという青年なのですが……」

「なるほどね。人間が仲間にいれば、封印だって解けるわけか。あれは魔族だけを封じ込めてたんだもんね」

「はい。おそらく、彼が封印を解いたのでしょう」

「じゃあ、小さい頃から魔族に育てられてた、ってこと? 五年前に封印されたんだよね」

「親代わりがあのシプレのおっさん、ってことか。確かに、親子みたいだったもんな」

「シプレ?」

「ウッシーナ頭のおっさんでな。筋肉がすげえの。でもイフのことなんだかんだ気にかけてるし、悪いやつではない感じなんだけどなー」

「でも魔王軍なんでしょ……まあ、いろいろ事情はあるか」

 四人でふうむ、と思案していると、そこに一つの足音が聞こえてきた。

「人のことを知りもしないで勝手に妄想をするな。育ちが悪いぞ」

 それは噂の主、イフだった。

 禍々しい意匠を施し、黒く染め上げられた装束をなびかせ、砂上をゆっくりと歩いてきた。暗がりに浮かぶ琥珀色の瞳が、一行を射止める。

 ラズロとリムはすぐに警戒態勢に入る。

 マルグリットはきょとんとしていた。

 そしてセトは。

「マルグリット、こいつこいつ! こいつがイフっていう奴! 目つきは悪いけど絵が上手いらしいし、なんだかんだ付き合い良いんだぞ」

 我が勇者は無謀にイフに近づき、マルグリットにみてみてと紹介をする。

「友達みたいに紹介するな」

 横に並ぶセトを振り払い、イフは距離を空けた。

「今日はシプレのおっさんは?」

「いつも一緒にいるわけじゃない」

「へー。じゃあちょっと寂しいな」

「どういう心境で言ってるんだ……?」

 セトの暢気さに、イフでさえも不安になってきた。

「なんだかんだ受け答えしてくれるし、ふつうに良い人じゃん」

「そうですね。以前初めてお会いしましたが、確かに魔王軍というには物腰が柔らかいかと……」

 女子たちにひそひそされるイフ。

 それに羞恥心を芽生えさせたのか、顔を赤くしてそっぽを向いた。

「本人がいる前で内緒話とは、育ちが悪いなっ」

「好印象ですよ、という話でしたよ?」

「そういう問題じゃない!」

 リムが純粋に首を傾げても、イフはすかさずつっこみを入れる。

(なんなんだこの緩い空気は……)

 一人困惑するラズロ。

「あなたの目的は土の宝玉ですよね。私たちとは現在も敵対関係にあります」

 いつ寝首をかかれるか分からないこの状況に危機感を持っているのは自分だけだと思い、この場に冷や水をかける。

「あぁ。以前言ったな。次に会ったときは必ずお前を殺す、と」

 隣に立つセトを睨みつけた。

「え、あれお前なりのまた会おうね、みたいな挨拶じゃなかったのか!?」

「シプレの言ったことを真に受けるな……!」

 そこで怒りに触れたのか、ついにイフが剣に手をかける。

「セト、離れなさい!」

 ラズロが大声で指示すると、それに呼応するかのように神殿が大きく揺れた。

「!?」

 セトは体勢を崩しかけ、身を低くした。

「きゃっ」

 リムが転びそうになるのをラズロが受け止める。

 頭上から天井の破片がぱらぱらと落ちてくる。ここは地下だ。この神殿が崩れると、ここは砂に埋もれてしまう。

 セトがとにかくリムたちの方へ戻ろうとすると、けたたましい音を立てて天井が割れた。崩れた一部がイフの頭上へ落下してくる。

 セトは反射的にイフのそばに躍り出て、それを剣で砕く。

「ぐぇっ」

 しかし割れた破片がセトの頭に直撃し、潰れたような声を出してふらりとよろけた。

「何しやがる!」

 イフは庇われたことが気に食わず、思わず悪態をつくが、セトは脳震盪を起こして気絶していた。そのまま倒れてくるセトを避けようとするが、次には自分の足下に変化があることに気付く。

 石の床が割れ、そこから砂が膨れ上がってくる。その砂に足をとられ、ずぶずぶと引き込まれていた。

 おそらく下の階か、それ以上に深い穴ができている。砂の重圧に身動きがとれなくなる前にイフは脱出しようと試みるが、セトが覆い被さってきてそれも叶わない。

「くそっ!」

 暢気に気絶しているセトの首根っこを掴み、そのまま二人もろとも砂に埋もれていった。

「セト……!」

 右手で掴んだ男の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 あの時、必死で叫んだ弟の名前を思い出す。

 イフの視界は真っ暗になった。

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