表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/60

咲き乱れ!風の神殿と真実の愛 第五話

「まぁた、あいつ逃げやがったのか!」

 一件落着と息をついたところで、周囲を確認したがアスフォデルの姿がないことに気付いた。セトが悪態をつきながら、ふんむ、と腕を組んで怒る。

「とりあえず魔王の手からは宝玉が守れたのですし、一安心ですね」

 と、リムが言うが。

 はて、とラズロは首を傾げた。

「セト、風の宝玉を受け取りましたか?」

「……ほんとだ!」

 セトが一瞬ぽかんと口を開き、自分が宝玉を貰っていないことに気付く。

「ちょちょちょ、寝てねえで宝玉をくれよ!」

「ちょっと、守護神さまに触らないで! お休みになられてるんだからっ」

 守護神をばしばし叩くセトの間に入り、制止するマルグリット。意思のはっきりした印象を与える眉をキッとつり上げて、セトを睨んだ。

 ふんわりとした衣装に長い髪をなびかせているから、一見リムのように大人しく淑やかな外見であるが、中身は非常に厳しそうだ。

(まあ、一族の反対を押し切って里を抜け出した過去がありますからね……)

 ラズロはやれやれと肩をすくめた。

「って、お前まだ手を縛られてるじゃんか、解いてやるよ」

「これ……魔法でもとれないし、貴方に解けるの?」

 不審そうなまなざしを向けるマルグリットの後ろにまわり、セトが縄のようなものを解こうとする。

「ふぎぎぎ」

 しかし、固く結んであるようにも見えないのに、なかなか解けない。

「不可思議なものじゃの、あのアスフォデルというやつが作ったものか? 何やら邪悪な気配がするのう」

 興味深げにフラムは縄を観察した。

「手で駄目なら切っちまおう!」

 鞘から剣を取り出し、ばさり、と刃を通した。

「ちょっと、急に変なことーー」

 マルグリットはどんどん話を進めるセトを止めようとするが、足下にはらりと落ちた縄を見て口をつぐんだ。

「あ、切れた」

「……」

 マルグリットは悔しいのか、しばらく黙った後非常に不服そうな顔で、

「ありがとうございます」

 と低く唸った。

「他に怪我はありませんか?」

「大丈夫です。そういえば、どうして人間が此処に……?」

 すっかり説明するタイミングを逃してしまっていた。

 そして、フラムの存在も不思議そうに思っているようで、ちらちらとセトの頭に乗っかっている彼を盗み見ている。

「こいつは火の守護神のフラムだ。で、俺がセト」

「セト……その剣って、もしかして勇気の剣ですか?」

 鞘に収まった剣を見つめる。

「そうそう、村長から貰ったんだ」

「あの伝説の勇者が使った……勇気の剣だったから、あの縄を切れたのでしょうか」

「さあ?」

「さあ、って……」

 終わったことを気にしないセトには響かない疑問だった。

「貴方がマルグリット様ですね」

「え、えぇ……」

 ラズロが近づき、彼女に話しかける。すると、セトとは違ってラズロには非常に距離をとったような雰囲気で曖昧に頷いた。

「妖精族の長老のお孫さんだとお聞きしました。まずは、無事でなによりです。妹さまがご心配なさっていましたよ」

「そ、そうです、それに、イディカさんも!」

「イディカ……?」

 彼女に早く伝えたくて、前のめりになったリムを、丸い瞳で見つめ返した。

「イディカ、って、貴方たちは」

「ガルデ村の隅っこに住んでるイディカ、っていう医者が妖精のこと教えてくれたんだ。マルグリットとブルーベルの話をしてくれたぞ」

「そ、そうなの……イディカが……」

 しかしマルグリットには喜んだ表情はなく、どこか後ろ暗いような顔で俯いた。

「村のやつらはイディカのこと魔法が使えるやつだって言ってた」

 セトがマルグリットに止めを刺すように、無遠慮に言い放った。

「ちょっと、セトーー」

「病気を治せるイディカは魔法が使えるんだって、嬉しそうに村の子供に言われてたぞ」

「……」

 マルグリットは少し潤んだ瞳で何か言い掛け、しかし、柔らかくほほえみ口を閉ざした。

「いろいろもっと前情報で子細があるでしょう。そのような急な話では全く安心できませんよ」

「えぇ!? 話すときは簡潔にってよく言うだろ!?」

「突拍子もなく、とは言っていません」

 ラズロがぴしゃりというと、マルグリットはぶふ、と笑い声が堪えきれずに吹き出す。

「やっぱり人間って面白いなあ、個人的に好き!」

 淑やかな印象とは打って変わって、本来の少女らしい表情と言葉に、三人と一匹は顔を見合わせた。

「巫女って言ってたよな。風の守護神の世話係みたいなもんなのか?」

 傍らで未だぐっすり眠る守護神を見上げる。マルグリットもその無機質な顔を見つめ、愛しそうに目を細めた。

「そ。代々あたしの家系は神殿の巫女をしてるんだよ。おばあちゃんの時は守護神さまは今の感じじゃなかったみたい。お母さんがね、この機械を作って、それを守護神さまの体にしたの」

「お前の母ちゃんが作ったのか!?」

「イディカのお母さんも関与してるみたいだよ」

「イディカのお母さまが交流していた妖精族、とは、貴方のお母さまだったのですか?」

「そうみたい。人間族に病気を治せる人がいるって話も、お母さんの日記で見つけたの」

「貴方の破天荒な性格はお母さま譲りでしたか」

「なんて?」

 ラズロの呟きに、じと、と目を細めるマルグリット。

「それより、勇気の剣を持ってるってことは魔王を封印する旅をしてるんだよね? 宝玉がほしいならあげるよ」

 と、マルグリットは軽く言って手を空にかざす。天井の隙間からのぞく暗雲を眺め、その手に光を宿した。

 光が淡く散り、彼女の両手には深緑の宝玉があった。

「守護神が持ってるんじゃなかったのか!?」

 突如現れた宝玉に驚きの声をあげる。

「うん。なんか嫌な予感がしたから守護神さまから一時的に預かってたの。その直後にあの変なおじさんが来てさ」

 大して気にした様子もなく、つらつらと経緯を説明する。

 宝玉をあっけなく渡され、セトはうむむ、と思いながらも剣のくぼみに取り入れた。

 残りはあと二つである。

「グググ、宝玉、無事?」

 幼い少年のような声が頭上から降ってきた。なんとなく人の声帯からは感じられない雑音のようなものも混じっている。

 守護神が起きたようだ。

「おはよう、風の友よ」

 最初に挨拶をしたのはフラムだった。セトの頭の上に乗っかるフラムは、優しく慈しみを込めた音色を発した。

「そノ声は、火の友。友達。ググウ……くらくらすル」

「大丈夫ですか?」

 マルグリットが心配そうに体に触れると、くすぐったそうに守護神は身をよじった。

「マルグリット、無事で良かっタ。おりは、嬉しイ」

「わたしもです。守護神さまが無事で良かった……よく耐えてくださいましたね」

「マルグリットの声が聞こえた。優しイ、先代の強い気持チ、思い出しタ。おりは、何も、傷つけなイ」

「守護神さま……」

「では、長老さまに報告を致しましょう。マルグリットさんも、一緒に戻りますか?」

「うん。守護神さまの無事も確認できたし、何よりお腹すいちゃった。帰って何食べようかなー」

「俺も妖精の料理食べてみたい!」

「図々しい人だなあ。でも、助けにきてくれた恩人だし、おもてなしくらいはするよ」

 マルグリットは遠慮のないセトに呆れながらも、朗らかに笑った。

「では、わしはあとで追いつく」

 ふわりとセトの頭から離れ、守護神の頭に位置を変えるフラム。

 久しぶりに会う友に、喜びを隠しきれないように尻尾が心なしか揺れている。

 その様子を見たリムはラズロとセトに目配せし、頷いた。

「えぇ。ゆっくりお話ししてください。あ、でもあまり長くはいられませんからねっ」

「分かっておる。この旅が終われば、また会う機会もあるからの。惜しくはない」

 守護神は頭上に乗っかるフラムを腕をあげて優しく撫でた。

「火の友を連れタ、少年たちヨ。助けてくれて、ありがとウ」

「俺たちはあんまり役に立ってないけど……」

「マルグリットを助けに来てくれタ。感謝の気持ちが、おりの心に響イていル。ありがとう、ありがとウ」

「……おう」

 柔らかく微笑むセト。

「旅はまダ、続く。おりは此処から離れられなイけど、応援している。心を傍に置く。君たちが真実の愛に、辿リついたとき、祝福の風を送ろウ」

 無機質な体から、ウイーン、と機械音がする。しかし、彼の顔はほほえんでいるのだと、誰もが知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ