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咲き乱れ!風の神殿と真実の愛 第二話

「なんだよ! あとちょっとってところだったろ!」

「全然、全くあとちょっとでも何もなかったですよ。完全に嫌われております」

 ぷんぷんと蒸し返すセトに、ラズロは冷静に首を振った。

 長老の家から連れ出され、少し離れた家に閉じこめられた一同。もちろん外には監視らしい妖精が配置されている。何かあれば用を言いつけてください、と言ってリーダーは部屋を出ていってしまった。外出するのも許されないらしい。

「人間と妖精の間には、それだけ大きな誤解があるということです」

 リムもセトを窘めた。

「仲が悪いって言うのはイディカが言ってたけど、そんなになのか?」

「その話も知らないのですかーーいいえ、まあ、そうでしたね、それを知る機会がなかったのでしたね」

 聞いたこちらが失礼でした、というように一人言い直しをするラズロ。

 リムの膝の上にふわりとフラムが舞い降り、ちょこんと座った。

「火の神殿に籠もっておったから、わしも子細を知らんのだ。一体何があったのじゃ?」

「妖精族の里を人間が襲った、という事件が、我々の間にはあるのです。以前、魔王がこの世を支配していた十三年前ですね。里を追われた妖精族は人間との交流を絶ち、一切の情報も流さず雲隠れをしてしまった……」

「国をあげて犯人を捜しているのですが、手がかりが一切なく……その少し前に、人間が暮らしていたデルミエ村も襲われてなくなっているのです。村人は全員惨殺されていて……その事件についても、未だ犯人は捕まえられていません」

「ふむ。犯人を捕まえられん限りは、この問題は進展もしないのじゃな」

「こんな緊迫した状況で我々が里に踏み込んだので、妖精族はかなり警戒をしています。リム様の立場があるからこそ向こうも慎重に対応してくださっておりますが……ですから、軽率な発言は金輪際禁止ですよ、セト」

「ケーソツ、コンリンザイ」

「……」

「どうやら難しい話のようだ。やいやい」

「セトは今から妖精との会話をやめてください」

「なぬっ!?」

 これが一番安全策だろう、とラズロは考えることをやめた頭で納得した。

「まあ、それはちょっと行き過ぎた制約ですね……セトは妖精族の方とお話しするときは、もう少し柔らかくお話ししてください」

「わかった!」

 返事はいいものの、不安が残る。リムは苦笑した。

「でもどうすんだ? このまま朝を待って大人しく帰るのか?」

「どうにかしてもう一度長老様とお話がしたいですね。駄々をこねるようですが、一番の交渉相手はあの方だと思います」

「わしが加勢しても、妖精族の価値観を覆すことは難しいと思うぞ」

「それな! あるがままに、って、そんなんじゃあ悲しいことが起こったらそのままなのかよ! って思うよな!」

「セト、声が大きいですよ」

 しかし、注意したリムもその考え方には寂しさを覚えていた。己の心の中に、『良い方向にしたい』という気持ちは芽生えないのだろうか、と思ってしまう。

「妖精族の考え方に同意する部分もあるな。わしらは動物というよりは、植物の考え方に近いものがあるのだ」

「そういうものなのですか……」

「そうそう他人の生き方に口出しをするべきではないと思うぞ」

「……」

 リムがうつむき、黙ってしまう。

 と、そこでこんこん、とノックの音が響いた。

 ラズロがどうぞ、と柔らかく言うが、その表情は警戒心に満ちていた。

 扉がゆっくりと開き、そこから出てきたのは緑髪の少女だった。どことなく緊張したような面持ちで、ぺこりと頭を下げながら入ってきた。

「こ、こんばんは。ごめんなさい、夜分遅くに」

 丁寧に挨拶をしながら、少女はぱたりと扉を閉める。

「いいえ、こんばんは。えっと、どうされましたか?」

 相手が少女ということもあり、多少ほっとした様子でリムが柔らかく彼女に問う。

 少女は物珍しげに、感動したように一同を見まわし、やがてフラムを視界に入れた瞬間、げえっ、と大きな声を出した。

「不快生物!!」

「なぬっ!? 貴様、このプリチーなフォルムのわしを、不快と言ったか!?」

 指さし叫ぶ少女にくってかかるフラム。

「あ、あのあの、この子はわたしたちの仲間でっ! 火の神殿の守護神さまですよ〜」

 何か武器はないかと探している少女の間を縫い、リムがフラムを抱き抱えて説明する。

「え、守護神さま……?」

 丸めた小冊子を握りしめて、少女はきょとんとした。

「すみません、風の守護神さまと大きくお姿が違ったものですから……!」

「あの風のやつとは違って、わしは丸みもあって柔らかくてかわいいからの。びっくりしたことは許そう」

「フラムは風の守護神さまと面識があるのですね」

「まあの。やつが一番後輩分じゃな。しゃべりもしないし、土の者ほどではないが、何を考えているか分からんやつじゃ」

「風の守護神さまはとてもお優しくて、いつも私たちを慈愛をもって守ってくださる方ですよ。たくさんおしゃべりしてくれて、とっても良い守護神さまです」

「しゃべる……?」

 フラムがその言葉がひっかかったのか、首を傾げた。

「フラムが嫌われてただけじゃねえの?」

「失礼なことをいうやつじゃな」

「いって!」

 がぶりとセトの頭に噛みつくフラム。

 その姿に、少女はくすくすと肩を揺らして笑った。

「おもしろい方々ですね。やっぱり、人間族ってあのときと変わらない、優しい人もいるのですね」

「あなたは、人間と過去に会ったことがあるのですか?」

 リムは少女に問いかけた。

「はい。私はブルーベル。小さい頃、ある病気にかかり、お姉ちゃんがその病気を治せる人間がいるって聞いて、妖精の里を抜け出して、森に出たことがあるんです。私はそのときのことをよく覚えていないんですけど……とても優しくしてくれた親子がいて。お姉ちゃんは、その子供のイディカとすごく仲が良かったんです」

「イディカ!」

 セトが飛びつく勢いで身を乗り出した。

「俺たち、そのイディカが教えてくれたおかげでここに来れたんだ!」

「確かにイディカさんも、妖精に会ったことがあると教えてくださいましたね」

 ラズロが頷くと、ブルーベルはその瞳に熱い思いを宿し、何かに耐えるように唇を強く結んだ。

「あぁ、そうなのですね……イディカは元気に過ごしているのですね……!」

「はい。今もお母さまの意志を継いで、医療の研究をなさっていますよ」

 リムが優しく教えると、ブルーベルはほっと胸をなで下ろした。

「あの二人と別れるとき、その……あまりよくない別れ方をしたと思って……今も姉の気がかりのようで」

「よくない別れ方?」

 セトとリムは首を傾げる。詳細を知らない二人には分からない言葉だったが、事情を知るラズロは黙って聞いていた。

「このことをお姉ちゃんにも知らせたいのですが、姉は今風の神殿にいて……」

「俺たちもその風の神殿に行きたいんだ。でも、長老が場所を教えてくれなくて」

 その言葉を聞くと、ブルーベルは困ったような悲しそうな顔をして押し黙り、自分の握りしめた手を見つめていた。やがて、意を決したように顔を上げ、

「あの、風の神殿へ、私が案内をしてもよいでしょうか!?」

 と、緊張した様子で声を張り上げた。

 彼女のその決心に目を丸くした一同だったが、喜びの表情を浮かべたセトが口を開く前に、リムが首を振った。

「お気持ちはたいへん嬉しいです。けれど、長老様が許可しないうちは、勝手に神殿に立ち入ることは、また妖精族を裏切ることとなってしまいます」

 柔らかく、けれどはっきりと言葉を選ぶ彼女に、ブルーベルはまたしゅんとうなだれた。

「そ、そうですよね……ごめんなさい、どうしてもあのとき人間に助けてもらったお礼をしたくて……立場を悪くしたくて言ったんじゃないんです」

「分かります。とても優しい気持ちから、わたしたちを助けようとしてくださっていることは、伝わっていますよ」

 しょんぼりする彼女の手をとり、リムは微笑んだ。

「おじいちゃん、妖精の中でもすっごく頑固で。妖精の考え方って、自分たちで行動する気持ちが弱くって……お姉ちゃんだったら、おじいちゃんに食ってかかってでも抗議するんですけど……」

「パワフルな姉ちゃんなんだな」

「あはは……お母さん譲りみたいで。自分の道は自分で切り開くタイプの人なんです」

 ブルーベルは困ったように眉根を下げてそう語る。

「イディカさんのご友人なら尚更何か協力したいです、何か、私にできることはーー」

 言い終わる前に、どこからか大きな爆発音が聞こえた。

「!?」

 ラズロはリムの傍に控え、警戒を強める。

 セトが窓際に駆け寄り、外の様子を確認した。

「煙が出てるぞ」

 その方角に目を見張るブルーベル。

「おじいちゃん……!」

 その呟きに、セトとリムは決心したように頷いた。

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