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ガルデ村!少年少女の淡い夢 第一話 ☆

「それじゃあ、気を付けてね」

 夫人は城の門の前で言った。その瞳には涙を浮かべている。

「おばさま……必ず戻ってきます」

 その夫人を勇気づけるように、リムは手を取り握りしめた。胸にあふれる寂しさに、夫人はリムを抱きしめる。

 セトは晴れ渡る空を眺めて、よし、と強く頷く。

「次は迷いの森に行くんだよな」

「その手前の村よ。話聞いてた?」

 夫人はリムから離れてすかさず突っ込む。相変わらずトゲがある。

 むっとした表情の夫人すら気にせず、セトはむんむんと腕を振って歩き出す。

「グリアちゃん、ほんとに、リムちゃんのこと頼むわよ」

 セトの方を横目で見ながらラズロに懇願する。

「不安な面は多々認めますけど、まあ、彼も頼りになりますので」

「むー。グリアちゃん、とにかく反抗期なんだから」

「親としての振る舞いを見たことがありませんので」

「こら、マグノリア」

 別れ間際にさえ容赦ないラズロに対して怒るリム。

 ラズロはじっと夫人を見つめ、やがて大きくため息をついた。

「行って参ります」

 素直に挨拶はしたが返事は待たず、ラズロはセトのあとを追う。

「もう、すみません、夫人」

 リムは困った顔で夫人に謝った。夫人はけれど気を悪くした様子もなく首を振った。

「あれでも前より素直になったものね」

「ふふ。そうですね。セトに感化されたのでしょうか」

「リムちゃんだって、前より素直になったわよ」

 はた、と目を丸くするリム。夫人はとびっきりの笑顔で返し、リムの背中を押す。

 リムは夫人の笑顔に何もいえないまま、振り返り夫人にお辞儀をした。

 そして、前をいく二人を追いかけた。


「魔法を使える奴がいるって話だっけ?」

 道中、セトは9割聞き逃した昨日の話の確認をする。

 ラズロは、本当に聞いてないんですね、とぼやきながら頷く。

「えぇ、噂ですけどね。その話は五年前からあったみたいですけど……それに加えて最近そのガルデ村では一つの疫病が流行っているだとか」

「魔法を使えるその人が、魔法の書を盗んだ青年と同じ人で、疫病が魔王の仕業かもしれない……ということです」

 リムがわかりやすく補足をしてくれる。

「なるなる」

 セトは心得たように素直に頷いた。と、不意に顔を上げて空をみる。

 振り払われた暗雲は王都のみのようで、王都から離れると再び黒い雲が空を覆っている。王都からの太陽の光は届かず、薄暗い空が続く。しかし、セトは行く先の空を見て、違和感を感じた。

 この先の空は暗雲とは違う気配がしたのだ。

「へんなかんじがする」

 もやっとした顔で呟いた。

「へんなかんじ?」

 二人して首を傾げ、その真意を説く。

 セトはむむっと難しい表情で、えーと、と身振りでなんとか伝えようとする。

「そのガルデ村のほうから、こう……もにゃっとした感じがする。気がする。黒い雲よりも、もちゃもちゃって感じ……?」

「……?」

 正しい言葉でお願いします、と言いそうになるのをぐっと堪えるラズロ。しかしリムは、なんと、ふむふむと頷いている。

「もしかしたら、迷いの森があるからかも知れませんね」

「ちょろっと話に出てきたやつか」

 セトが今度は首を傾げると、ラズロはそれに合点がいく。

「真っ直ぐ進んでいるはずなのに何度も同じ道を歩いている、という、噂ですけど、そんな森があるようです」

「ふーん。それがガルデ村にあるんだ?」

「ガルデ村はかつて、迷いの森に人が入らないように番をする役割を持った村だったようです。今はもう、不必要に入る者もいないらしいので」

 なるなる、とセトは頷いた。

 そうこう話していると、目前に村の姿が見えた。その奥に、森があるのも確認できた。

「この村に何をしに来たのですか」

 村の入り口付近にいた女性が鋭く、けれど困ったような表情で言い放った。

 三人は立ち止まり、互いに顔を見合わせてなんと言おうか言いよどんだ。そこでまた、今度は三人が違和感を覚える。

 村が異常に静かだ。

 昼間だというのに外にでている者がニ、三人いるだけだ。しかも確認できるだけでも、全員の表情が暗い。

「病気が村全体に広がっているんです」

 怪訝そうな顔をしている三人に、女性は困った顔で言った。

「詳しく話を聞きましょう」

 リムは二人に強いまなざしを向けて言った。彼女の発言はこの国の姫としての意味も強いが、何より、リム自身が心の底から心配しているようだ。

 その姿に、止める者はいない。

「その病気のこと、詳しくお伺いしたいのですが」

「あなたたちはお医者様ですか? いえ、お医者様でも治せない病気なんです。うつる前に、この村から出て行った方が良いです」

 女性は頑なだ。

 なんと説得しようかリムは押し黙った。

「リムは村のことが心配で来たんだ。話ぐらい聞かせてもらってもいいんじゃないか?」

 セトが口を出してきた。

 一歩前に出てきた彼を見て、リムとラズロは一瞬硬直した。そして脳裏にいやな予感がよぎる。

「心配? お医者様でもないのに、この病気をなんとかできるんですか?」

「医者じゃないけど、リムはこの国のーー」

「おっと、失礼」

 ラズロはさらりと言ってセトの足を華麗に払う。

 少ない動作で仕掛けられたものの、セトは突然の暴挙に全く対応できず顔面から地面へと転倒した。そして顎を強打する。

「……」

 あまりの痛みにセトは動かない。

 はらはらとセトに近づくリムを横目に、ラズロは女性に微笑みかけた。

「困った人を見過ごせない性分でして。ご婦人のような麗しい方が憂いている姿など、私は見ていて心が痛みます。どうか、私のこの痛みを取り除くのだと思って、お話を聞かせてはいただけませんか」

 ラズロは言って女性の手を優しくとる。その所作、その甘い声色、何より最強の顔面偏差値を誇る彼に言われて、屈しない女性などいない。

「まあ……」

 甘い吐息を放って、女性は潤む瞳を静かに伏せる。

「お話くらいでしたら是非……」

 即落ちである。

 女性の肩をそっと持って民家へと入っていく姿を、顎をさすりながら眺めるセト。

「あれ、ほんとにラズロか?」

「セトのフォローをしてくれたのでしょう。ラズロには感謝です」

 リムは至って大まじめである。ラズロに続いて民家へと向かうリム。

 本心はノリノリなのでは? とセトは言い掛けたが、このまま置いてかれては自分だけ締め出しを食らいそうなので、急いで二人のあとを追いかけた。



挿絵(By みてみん)

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