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帰還!王都演説 第三話

 王都に着いたセトは、どうも元気がなかった。

 人が一人も見あたらないレンガ道。戴冠式の時から時間がとまったかのような、異様に華やかに飾り付けられた町並みが、さらに哀愁を漂わせている。

「王都ってはじめてきたんだけど、こんな寂しいことになってるなんてな……」

 セトはぼんやりと呟いた。

「本来はいつも賑やかな都なんです。戴冠式の時だって、民の笑顔があふれていて……」

 リムの声は少しずつ小さくなり、やがて暗い顔だけが残る。

 その表情を見て、隣にいる従者は静かに目を伏せた。

「民は屋内に避難しているだけでしょう。そこまで被害は大きくないはず。警戒している民を動揺させるようなことはやめましょう。今は、静かに城へ向かうべきです」

 そっとリムの背中を押すラズロ。

「そうですね。わたしたちには、やるべきことがあるのです」

 前を向いたリムは、自らの旅立ちの場所を見上げて一歩進んだ。


 城に戻ると、城に仕える従者が迎え入れてくれた。

 リムは甲冑をまとう青年に駆け寄る。

「無事だったのですね!」

「姫様……! よく、よくご無事で……」

 リムを目前にした青年は涙ぐんでリムとの再会を喜んだ。それだけでも、リムがどれほど慕われている人物かが分かる。

 セトはその光景を優しい眼差しで見守っていた。

「申し訳ありません、私たちの力が及ばないばかりに……!」

 青年は悔しそうに言い、頭を下げた。

 リムは必死に首を振る。

「いいえ。よく耐えてくださいましたね。今はとにかく、王都の現状を教えていただきたいです」

 厳しくも優しい口調でリムが言うと、青年はすぐに城の中へ案内してくれた。

「マグノリア様も、お勤めご苦労様でした」

 前を歩く青年は、丁寧にラズロにも労いの言葉をかける。

「暫く不在にして申し訳なさがあります。まだ警戒を緩められない状況ですが、帰還できて少しは安心できました」

「ラズロ夫人もマグノリア様のことを大変ご心配されておりました」

 青年がそういうと、ぴたりとラズロの足が止まった。

「ラズロ?」

 セトが振り返りラズロの表情を伺うと、ラズロは非常に気まずそうな顔をしていた。

「母上には会わずにいたいのですが……」

「何を言っているんですか、おばさまにはきちんと無事を報告するべきです」

 リムも立ち止まってラズロを諭す。ちょっと呆れ気味なところを見ると、今に始まったことではないらしい。

 うぐ、と何か言い返そうとするラズロだったが、廊下のその先を見て固まっていた。

「?」

 一同、不思議に思いラズロの視線の先を辿ると。

「な、な、あ、あなたは……!」

 わなわなとふるえる絶世の美女。

 目に涙を浮かべ、きらきらと瞳を煌めかせ、赤く塗られた唇を噛みしめている。胸の開いたドレスを着たその女性は、ラズロと同じ髪色をしていた。

 ラズロのかーちゃんか、とセトが呟いたが、それは美女の声にかき消される。

「グリアちゃん、おかえりいぃいい!!」

 瞬足で三人の間を駆け抜けた美女は、ラズロに飛びつき、ラズロはその衝撃に耐えられずそのまま倒れ込んだ。

 ゴンッと鈍い音がし、顔のよく似た二人はその体勢で制止する。

「……グリアちゃん?」

 美女が起きあがりラズロを不思議そうに見つめると、あら、と目を丸くした。

「気絶しているわ」

「おばさま、なんてことを!」

 さすがのリムもあわてて彼に駆け寄り、はわわとラズロを揺する。

 ラズロに反応はない。

 無念。


「んもう! そんなんじゃリムちゃんを守るなんてできないわよ!」

 豊満な胸の前で腕を組みながらぷんすかと怒るラズロ夫人。

 ラズロも無事目を覚まし、報告をするために城内の一室に通された。会議用らしいその部屋に、セトは物珍しげにそわそわと見回した。椅子と机しかないものの、そもそも木でできていない建物というのが彼には珍しかったのだ。全員が椅子に座り、対談を始めた。

「私は頭部に何かしら呪いがかけられているのでしょうか……」

 ラズロはフラムとの戦いの際にも強打して気絶していることを思い出しながら、ううむ、と思い悩んでいた。

「おばさまは少し年相応の落ち着きが必要かと思います」

 引っ込み思案のはずのリムだったが、ラズロ夫人には手厳しいらしい。

「生死も分からなかった息子が帰ってきたんですもの。はしゃぐに決まっているじゃない」

「はしゃがないでください」

 ぷい、と反省の色を見せずそっぽを向き、手に持った扇子で口元を隠す夫人に、リムはきっぱりと叱りつける。そのやりとりだけで、二人の仲の良さが伺える。

「とにかく、今は王都の現状です。おばさま、知っている範囲でお教え頂きたいです」

 リムが本題に入ると、ラズロは反射的に椅子から立ち上がろうとする。

 しかしそれをリムが止める。

「今は安静にしていてください」

 こういうまじめな話の時は立つ、とかルールがあんだな、とセトは思いながら、自分は椅子の背もたれにしがみつく形で座ったままだ。随分と座り心地の良い椅子である。

「城は見ての通り。魔物との戦いでちょっと荒れてるわね。けが人が数十名、医務室に並んで寝てたりはする。幸いなことに死者はいないけれど、王様と王妃様が……」

 夫人はそこまで言って、言葉を切った。リムを気遣ってのことだろう。

「ラズロから話は聞いております。魔王に連れ去られたと」

 夫人はリムのその言葉にはた、と目を開き、目の前に座る少女を映した。

 そこには、覚悟を決めた強い瞳の少女がいる。

「……リムちゃん、強くなったのね」

 ラズロ夫人は思わず微笑んだ。鮮やかな花が咲くような微笑に、リムは見とれて頬を染めた。

「い、いいえ、わたしはまだまだです……!」

 必死に取り繕うリム。

 ラズロ夫人はその姿にまたにこっと笑い、手を伸ばして流れるようなリムの長髪を撫でた。

「立派なレディになるまでもう少し、ってところかしら」

「え……!?」

「そこにいる少年は、リムちゃんの運命の人かしら?」

「俺?」

 突然話に加えられたセトは目を丸くした。

 ラズロ夫人は怪しくほほえみ、セトをじっと見つめる。

「坊や、お名前は?」

 可愛らしく首を傾げ、夫人は問いかける。

「俺はセトだ。リムを守るために一緒にいる」

 セトの返事はいつもぶれない。そして敬語も使わない。

 ふーん、と夫人は冷たく相づちを打ち、テーブルに肘を突いて身を乗り出す。

「リムちゃんのことすっごく好きなのね。真っ直ぐな目、かっこいいと思うわ」

 にっこりと笑っているが、どことなく冷たさも感じる印象が感じられた。

「なあラズロ、おまえのかーちゃんって一体いくつなんだ?」

 隣に座るラズロにひっそり耳打ちをする。

 するとラズロの顔面に扇子がクリティカルヒットする。

「ったぁ……」

 顔を抑えて痛みに耐えるラズロ。

 セトは目前に扇子が飛び出してきたので、あまりの恐怖に固まっていた。

「女性の年齢を探るものじゃないわよ」

 夫人は口をとがらせて訴えた。

「あれは姉ちゃんだ……姉ちゃんと同じにおいがする……」

 セトは震えた。

「あら、お姉さんがいるのね」

「えぇ、セトのお姉さまは女神様なのです」

「へえー……複雑な家庭環境なのね」

 一瞬固まった夫人は、頭上にハテナを浮かばせて心配そうにセトを見つめる。

 しかしぱっと切り替えて、ラズロに扇子を拾うように顎で使う夫人。ラズロはものすごく何か言いたそうな表情だが、黙って扇子を渡した。

「セトはあの勇者様のご子息なんです」

 最早ラズロ親子のやりとりを完全無視したリムは話を進める。

「へえ、あの勇者の」

 再び値踏みをするようにセトを見つめる。

 セトはちょっと警戒しながら夫人を見た。隣のラズロはセトから自分の椅子をちょっと離す。

 夫人はまた冷たい笑みを浮かべた。

「勇者の息子だからって、こんな大事に首を突っ込む必要はないのよ。無事王都までリムちゃんを送り届けてくれたわけだし、その剣を置いて村に帰りなさい」

「おばさま!?」

 リムは音を立てて立ち上がった。

 セトは覚悟していたように動揺もしなかった。夫人の友好的な表情の中に、確かな冷酷さをセトは感じ取っていた。この人は、自分のことをよく思っていない。

 動揺するリムを、夫人は静かに横目でみる。

「一般人から力を借りるわけにはいかないわ。貴方だって知っているでしょう。勇者が魔王との戦いの末にどうなったのか」

「それは……!」

「俺は帰らない」

 反論しかけたリムより早く、セトはきっぱりと断言した。

 夫人の冷酷な笑みは崩れない。

「親がそうだったから、という理由で貴方が危険な目に遭う必要はないと言っているのよ。取り返しが着かなくなる前に帰りなさい、と言っているの。誰が考えても、これが貴方にとって一番良い選択だと思うわ」

「それはラズロにも言われた。でも俺は帰らない。リムと約束したから」

「約束?」

 夫人はつまらなさそうな顔で聞き返す。

「リムの傍にいる、って。最初はリムを守る、って約束だったけど、まあそれはなんか、無しになっちゃったのかも知れないけど……俺はリムを守りたいと思ってる。リムは俺に傍にいてほしい、と言った。だから俺はリムから離れるなんてできない」

 セトは夫人を真っ直ぐに見つめた。

「リムが旅をやめないなら、俺だってやめない」

 夫人はその瞳をしばらくじっと見つめ、やがてぱっと花が開くように笑った。

「結構、結構。グリアちゃんほどじゃないけど、その信念は買うべきね。見たとおり、今王都はボロボロだし。坊やみたいな、なーんにも分かってない奴がいたら少しは気が楽になるわ」

 肩を竦めて夫人は言った。

 リムはほっと息をついて席に着く。

 セトが自分の心と共にあることをはっきりと言ってくれたことが、とてもうれしかった。胸の中に温かさが広がるのを感じながら、リムは少しだけラズロを横目で見た。

 ラズロは何も言わず、ただセトの言葉に耳を傾けていただけのようだった。

(あの話の証明は、言葉だけでは足りない……何か、わたしの覚悟を示す行動をしなければ……)

 そう思いながら、具体的な案は出てこない。今はこの話はここで終わりにしようと、リムは話を進める。

「それで、これからのことなんですが……」

 夫人はそうね、と背もたれに体を預け、

「坊やは城の中でも探索してきたら? ここからの話は絶対つまんないだろうから」

 気を使ってなのか、ただ単に目障りなのか、セトに退室を促した。

「えーまじか! じゃあ、ちょっと探検してくる!」

 セトはそれに素直に従う。わくわくしながら椅子から飛び上がり、颯爽と部屋を出ていった。

「では、私が案内を……」

 一刻も早く母親と離れたいラズロはチャンスを見逃さなかった。立ち上がり、セトを追おうとする。

「グリアちゃんはここにいて頂戴」

 そこを母親は一言で阻止する。ラズロは固まったまま返事をしない。

「ラズロにも聞いていて欲しいのですが……」

 ラズロの心中を察しながら、非常に言いにくそうにリムが小さくお願いした。

 ラズロは大きくため息をついて、恐怖の空間にとどまることとなった。

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