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帰還!王都演説 第二話

「暗くなってきたな」

 セトは空を仰いで言った。

「今日はここまでにして、休みましょうか」

 ラズロが荷物をおろし、夕食の支度をし始める。

「商人の荷馬車に乗せてもらえれば、日が暮れる前に王都についたんですけどね」

 リムが残念そうに呟く。

 ラズロはそうですね、と相づちを打ちながらてきぱきと作業を進めていく。リム護衛、かつ世話役としても従事しているラズロはこういった家事も心得があるらしい。

「女将さんが持たせてくれた食糧があって助かりますね」

 女将の計らいにより、今夜は現地調達をしなくて済んだ。現地調達の知識はセトが特出しているが、今回はそれを披露しなくてもよさそうだ。

(セトは割と手段を選ばない傾向にあるので、何を調達してくるか未知数なんですよね……)

 火の準備をしているセトを横目に、ラズロはほっと胸をなで下ろす。

「よし、これでオッケー! んじゃ、守護神、ここに火をつけてくれ!」

 得意げに薪の前にたち、セトは火竜に指示する。

 火竜は、あー……と気まずそうに言葉を濁した。

「どした? あの時みたいな派手なやつじゃなくていいから」

「いや、期待されているところ悪いが、わしは火の宝玉をおぬしらに渡した時点で、ただの竜になっているのじゃ」

「えっ」

「なんだと!?」

 リムとセトは目を丸くする。

「じゃあおまえ、守護神って呼ばれる度に気まずくなってたんじゃないか!?」

 セトがちょっとずれているが、心の底から労るような台詞を吐く。

 そういう返しをするんじゃな、と守護神はううむと唸る。

「そこまでの気はまわらんかったが……とにかく、わしはただおぬしらの旅のアドバイスをする程度じゃ。物理的な支援はできん」

「はあ、やいやいだなあ……じゃあ火の宝玉を返せば元に戻れるのか?」

「いやいや、もうそれはおぬしのものじゃて。返す返さないの話ではない」

「だってそれじゃあ、おまえのアイデンティティがなくなっちゃうじゃん!」

「わ、わしにだって他にすてきなところはあるわい! 見ろ、このプリチーな姿を!!」

 むん、と胸を張って自らの体型を自慢する守護神。小さいながらもこの世に二つとない神秘的で可愛らしい佇まいに、確かに、とリムはじっと魅入った。

「しかし、まあ、わしにもきちんと名前はあるのじゃ」

 冷静を取り戻した口調で、守護神は少し恥ずかしそうに切り出す。

「そうなのですか? それは是非教えていただきたいです」

「うーん、まあ、そう呼ばれることもなかったのでな……」

 守護神はどうも歯切れが悪い。

 ずっとあの神殿を守ってきたのだろう。呼ぶ者もなく。たった一人で。

 そんな守護神を思って、リムは押し黙る。

「これから一緒に旅するんだし、もったいぶるなよ」

 無神経にもセトはそうせかす。

「空気のよめん奴じゃ。まあ、そうだな。わしの名前はフラムじゃ」

「……生命力に満ちたかっこいい名前ですね」

 リムはにっこりと微笑む。

「フラム! そっか、じゃあこれからいっぱい呼んでやるからな!」

 セトが力強くフラムの背中を叩く。

 小さな体躯のフラムはぐえっとむせた。

「セト、失礼ですよ!」

 リムがセトをぴしゃりと嗜める。

「フラムだって俺たちに遠慮することはないってことだよ! な!」

 セトがフラムににっこりと笑いかける。

 その笑顔に面食らい、やがて諦めたようにため息をつくかつての守護神。

「本当に……おぬしはあやつの息子なのだな」

「なんて?」

 彼の独り言に、胸に留まる知らぬ思い出に、首を傾げるセトだった。


「では、まずその薪に火をつけてみるとするか」

「は、はい」

 緊張気味のリムを見かねて、フラムはふわりとリムの肩に舞い降りる。

「魔法というのは気持ちが大切じゃ。そのような固まった心では、うまく魔法は制御できん」

 フラムは短いその手でリムの頬を撫でた。

 リムはくすぐったそうに柔らかくほほえみ、わかりました、と一つ大きく深呼吸。静かに薪を見つめる。

「そう。その集中力も大事じゃ。大きくもなく、必要な大きさの火を想像するのだ」

 リムは静かに目を閉じ、ぎゅっと胸の前で手を握る。

 フラムも同じく集中したように、ふっと目を細めた。

「そして、ぱっと現れる灯火を想像する」

 すると、その声を合図に、薪に火がついた。

 それを見守っていたセトとラズロは大きく目を開いた。

 セトはすぐにぱっと笑顔になる。

「すげえ! リム、できたじゃんか!」

「少しずつ、確実に扱えるようになってきました。セトのお姉さまほどうまくできてるかは分かりませんが……」

 リムはセトの姉が放ったあの落雷のことを言う。

 しかし、セトに刻まれた落雷の記憶と言えば、説教の時に放たれるものだ。さっと血の気がひくセトはうーん、と反応が悪い。

「お見事ですね」

 ラズロも優しく微笑んでリムを賞賛する。

 少女は少し照れたようにはにかんだ。

「リムのその火をこの剣と一緒にするってできるか!?」

 セトは爛々と輝く瞳でリムに詰め寄る。

「一緒にする、とは……?」

 面食らったように少し身をひくリム。強引に連れて行かれるリムから離れ、フラムは大きくため息をついた。

「あーるぴーじーで見たことあるんだけどさ! こう、剣と火を一緒にして、燃える剣みたいにするんだ! あっちでやってみようぜ!」

 セトはリムの手をひいて少し離れた場所まで移動する。

 リムは困惑しながらえっと、と手を剣にかざす。

「可能なのですか?」

 ラズロはフラムに問う。

 フラムはいやいや、ときっぱり首を振った。

「ああいうのは二人の息が合っていないとうまくいかんぞ。そうそうできることではーー」

「かっけー! できたぞ、リム!」

「わたし、なんとなくコツがつかめてきました!」

 燃える剣を嬉しそうにかざし見上げる二人。

 あの二人は仲良しなのであった。


 その後、街道をしばらく歩いていると、やがて大きな橋が見えてきた。その先には薄く王都が見える。

「あと少しですね」

 ラズロは安堵したようにこぼした。

 しかし、セトははた、と足を止める。

 先頭を歩いていた彼が止まったため、他の二人も歩みを止める。リムの肩で休んでいるフラムはセトの視線の先を見つめた。

 王都より北、気高い山から流れている川を渡るための橋がかかっている。しかし、その道を塞ぐように、大きな赤い甲殻の塊がいる。

 がちゃんがちゃんと機械の駆動音。しゅこーと、時折節々から煙が吹き出ている。

 大きなハサミを両腕にこさえたそれは、セトたちを認識した途端、怒ったように刃をがちゃんがちゃんと音を立てる。

「何かの絡繰りのような物体ですね……」

 不審がりながらも緩やかな動作で剣を携えるラズロ。

 セトも剣を抜き、その物体を見据えた。

『我ガ、知力ヲ、全力デ注イダ、傑作、説クト、ゴ覧、セヨ!』

 その物体がしゃべりだし、再びシュコーッと煙を噴き上げる。

「しゃ、シャベッタアアアア」

 セトが絶叫する。

「落ち着きなさい!」

 ラズロが鋭く言い放つ。

「魔物とは違うような感じです……作り物のような……?」

 リムが首を傾げると、目前の物体はがしょんがしょんとハサミを打ち鳴らす。

『我ガ、魔王サマ、ノタメ、成敗、成敗、セヨ!』

「魔王の手先ではあるようじゃな」

 フラムが呟く。

「んじゃ、倒せばいいってことだな!」

 気を取り直したセトは剣を握りしめ、ハサミ機械をじっと注視した。

 いつもなら突進していくセトのはずだが、今日は非常に落ち着いた様子で相手の出方を伺っている。

 日々の稽古の成果が出てきたようだ。

「あれの大部分は堅い甲羅のように見えます。おそらく、そこを狙っても攻撃は通りません」

「関節んとこが柔らかそうだな。でもなんか、変な糸がうじゃうじゃある……?」

 赤や緑の配線が露わになっているのに気付くセト。

「体を動かす為の伝達部分に見えます。試しに叩いてみましょう」

 言い終えた瞬間、ラズロは素早く身を翻しその場から離れた。

 ラズロが立っていた場所に、巨大なハサミ。ハサミ機械が片手を振り下ろし叩きつけた後が現れた。地面は抉られ、土埃が舞っている。

「こいつ速ぇな!」

 セトも反射的に後退していた。

「なら、わたしが!」

 リムが合図を送ると、機械の足下が一瞬にして凍り付いた。

『動カン、セヨ、セヨ〜!?』

 機械は動かなくなった足に混乱し、両腕をわちゃわちゃ振り回して膝から崩れ落ちた。

 がっしゃーん、と大きな音を立て、機械が倒れ伏す。そのチャンスを見逃さず、ラズロが後ろにまわり、その露わになっている膝裏を流れるような動作で切り刻んでいく。

 ビリビリと電気のような閃光が走り、ウィィン……と駆動音が静かに収まっていく。

「これで停止したようですね」

 と、ラズロが言った瞬間。

 ポンッ、と首部分だけがはじき飛び、高く舞い上がる。やがて重力に従って落ちてくるが、その降下先にはそれを見上げるラズロがいた。

「避けろ!」

 と、セトがいいながらラズロに体当たりをした。

 首部分だけといっても、人の大きさほどはある。それが地面を大きく抉り、土煙が舞っていた。

 セトとラズロが倒れ込み、リムが二人に駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

「まだ終わってない!」

 セトはすぐさま立ち上がり、ハサミ機械(頭部)と対峙する。

『マダマダ、マダマダマダ、戦ウ、セヨ!』

 頭部はその丸い球体ににょき、にょき、と腕と足を出して、不格好ではあるが戦える様子だった。

「うっし、あれをやるぞ、リム!」

 剣を構え、背後にいるリムに促す。

「あれですか……!?」

 あれをやるらしく、リムはちょっと不安げな顔をした。

「ですが、あれはフラムが難しいのだとーー」

「大丈夫、できるって! だって昨日だってできただろ!」

「……」

 疑いのないその声に。その背中に。

 リムは、前に進むしかないのだと、思い知るのだった。

「えぇ、やりましょう」

 頷くと、リムはセトの方へ手をかざし、目をつむった。

 燃える炎を想像して。

 勇気の剣が赤く光ると、その刀身からゆらゆらと炎が燃え上がった。

「これで、」

 セトは鮮烈な火の粉を散らしながら、球体に向かっていく。

「止めだあああぁ!!」

 くるりと回転しながら、大きく横に一閃する。炎に煌めき、輝きに満ちた剣は球体を一刀両断し、やがて球体は二つに割れてばらばらと中身をまき散らしながら完全停止した。

 ふっと炎が消え失せ、セトは一息吐いて剣を鞘に仕舞った。

「そんな大したことはなかったな」

「魔物は倒されると消えていきますが……これは本当に誰かの手によって作られたもののようですね」

 ラズロが興味深げにがらくたを眺める。

「セト、先ほどはありがとうございました」

「ラズロが油断するなんて珍しいな」

 セトがきょとんとした顔で言った。

 困った顔で首を振り、

「私もまだまだ未熟ということですよ」

 と、取り繕った。真意を隠しているようなその様子に、セトはふーんと相づちを打つだけで、それ以上は詮索はしなかった。

「これで周辺の魔王の手先はいなくなったのでしょうか?」

「注意は必要ですが、おそらく街道も使用が可能でしょう」

「では、城に戻ったら手続きもしなくては」

 ラズロとリムは二人でまじめな話を進める。

 そんな話を全く聞かず、セトはどんどん先に進んでいく。

「おーい、追いてっちゃうぞー」

 セトが大きく手を振る。

 二人は顔を見合わせ、やれやれといった風にラズロが肩を竦めると、リムはセトを追いかけた。

 ラズロも一歩踏み出しかけると、

「迷っているのはおぬしのほうじゃの」

 と、頭上から声をかけられる。

「迷い……ですか」

 自分の心内を言い当てられ、多少気まずさを残す。頭上にいるフラムを見上げ、困ったようにほほえんだ。

「リムとセトはもう大丈夫のように思えるがの。わしが気がかりなのはお主の心の方じゃ」

「……大人には、迷っていても進まなければならない時しかないということですよ」

 ラズロがそう説くと、しかしフラムはそれを鼻で笑った。

「数十年生きているだけのおぬしが、わしに説教を垂れるとは。甚だ浅はかじゃの。本当に頭がまわっていないと見える」

「フラムは私に対して随分と厳しすぎではありませんか……?」

 不満げに呟く彼に、ふふふ、と渋い笑い声を落とす。

「光を追いかける資格がないと思っているのは寂しいことじゃ。迷い、傷つき、それでも光を望んで前に進む。後ろ暗い気持ちなど不要じゃ。それを、お主にも知ってもらいたい」

「……後ろ暗い気持ちなど、私にはありません」

「……そうか」

 これ以上は何も進展はないだろう、と、ラズロの表情を見て察したフラムは王都へと向かった。

 取り残されたラズロは、先をいく二人と一匹を眺め、その先の暗雲を見た。

(彼女に捧げたこの誓いが光でなくとも、私は、それでも……)

 着々と広がりつつある闇を含んだ黒雲。それを晴らすのは自分ではないと、彼は知っていた。

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