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帰還!王都演説 第一話

 翌日。まだ残る青空の下で、三人と一匹は宿屋を出る。

「では、次の目的地なのですが」

 ラズロが口を開く。

「王都へ行くべきかと思います。民たちの様子も心配ですし、なにより、次の宝玉の在処が手詰まりです。何か城に文献が残っていないか調べましょう」

 胸の前で両手を握り、不安げに頷くリム。

「俺とリムは城に残ったりしないぞ」

 と、セトがなんの前触れもなく地雷を踏む。

 ラズロも唐突な話題の叩きつけに、目を丸くした。

「……私はセトには言っていませんが」

 話が食い違っているような気がして、硬い表情のまま丁寧に訂正をする。

「リムも城に残るなら俺も一緒に残ろうかなって話をしたんだよ、な、リム」

「えぇっ……!? えぇ、まあ……」

 ここでわたしに振りますかという動揺。

 ラズロは二人の会話がどういったものか憶測しようにも、セトの思考回路が全く不明なのですぐに諦め、肩を竦めた。

「私も鬼ではありませんから、問答無用で置いていくことは致しませんよ。リム様がどういった答えを出すか、それを聞くまではこの話は保留です」

 柔らかく微笑むその姿に、セトとリムの警戒が解けた。

 セトがぱっと顔を明るくさせ、リムの手をとった。

「ほらな、ラズロはリムのこと大好きだから、そんな厳しいことは言わねえって!」

「こ、これからのわたしの言動による、という話でして、そんなに喜ばしいことではーー」

「私がリム様に対してどう思っているかの直接的表現は控えていただきたくーー」

 ラズロとリムがそれぞれセトに言い合うが、セトはリムの手をぶんぶんと振って嬉しそうにしているばかりで、まるで耳に入っていない。

「こほん」

 と、そこで咳払い。

 セトがぴたりと止まり、リムとラズロが咳払いの当人を見る。

「おぬしら、全く緊張感がないのう」

 ふわふわと浮かぶ守護神に、セトはリムの手を離して体を向ける。

「ここから王都に続く街道は、本来商人が利用する道となっているが、今は魔物がいるために利用する者はいないようじゃ。危険な道となっておる。覚悟して進むのだぞ」

「へー、守護神は詳しいんだな」

「昨日ラズロの付き添いの際に小耳に挟んだのじゃ。ま、そこのメンタルよわよわ臣下は上の空で聞こえていないようじゃったが」

「昨日からやけに棘がありますね……」

 言い返せない様子のラズロに、火竜は目を細めた。

「好感を持っている、というだけのことじゃ。お主のその心の形は、胸を張って良いものと思うぞ」

「……」

 ラズロと守護神の間になにかあったことは分かったリムは、それでも首を傾げて二人を見比べた。

「よっし、じゃあこの道の魔物を倒して、また商人が使えるようにしてやろう!」

 拳を高く掲げ、ずかずかと村の外へ進むセト。

 そうですね、と優しく微笑み、リムはセトのあとを追った。二人の後ろ姿を見つめながら、自分の言ったことが未だ気がかりなラズロは、重い足で二人を追いかけた。


「村から少し離れただけで、随分過ごしやすい気温ですね」

 ラズロは驚いたように言った。

 ニノヒ村から離れてしばらくしたところ。王都へ続く街道は穏やかな風に吹かれている。見晴らしのよい道の先には、城がぼんやりと見えていた。

「ほんとうに、火の神殿から離れてもよかったのですか?」

 リムは肩で休んでいる火竜に不安げに問いかける。

 火竜は大きなあくびをしてむにゃむにゃとしながら、

「大丈夫だいじょうぶ。わしはもう役目を終えた身じゃ。どこにいようとわしの勝手じゃろう」

 とのんきに答える。

 そういうものなのですか、とリムは首を傾げた。

「村からでるとよくわかる。なるほどな……嫌な気配が世界全体を包んでいるようだ」

 火竜がぽつりと呟く。

 視線の先、空には真っ黒な雲が広がっている。王都より先から広がっているように推測された。

 セトの話によれば、北東の方角に、黒い建物があったと言っていた。おそらく、それが魔王の城だ。あの暗雲は、そこから手を伸ばしている。

「暗雲が世界すべてを呑み、草木は枯れ、やがてすべての生物が死滅する……」

 火竜は、かつて女神から受けたこの言葉を復唱する。それは、リムも父親から聞かされた言葉だった。

「あやつが守った世界だ。そう簡単に奪わせたりはせん」

 不安げに視線を送るリムを気遣ってか、火竜は優しい声色で言う。

 リムは小さく頷いた。

 と、火竜が再び険しい表情に戻り、行く先を注視した。

 リムははた、と足を止める。

「リム、下がってて」

 セトがリムを手で制しながら、剣を抜いていた。

 三人(と一匹)の前には魔物がニ体、立ちはだかっていた。

 人の形をとっているものの、頭だけは異形で、ニワトリーナの頭を搭載している。赤いトサカを揺らしながら、二匹は短剣を構えた。

「わたしも加勢します」

「いいや、お主は休んでおれ。まだ万全に戻ったわけではない」

 ふわり、とリムの肩から離れ、セトとラズロの頭上に飛んでくる火竜。

「それに、この二人まるで連携がとれておれん」

「分かっております……」

「えぇ!? そうか? うまくいってると思ってたけど」

 場を乱すセトに自覚がないのが一番問題じゃな、と火竜は心の中でだけ呟く。

 自身との戦いで見た二人の印象は、波長が全く合っていない、という点だ。視野が広く気遣いもできるラズロだが、セトがあまりにも野生児すぎて指令も届かない。かつ、セトは自分の力を過信している傾向が強い。等身大の自分を、そして技量を知らぬ者がずんずん突っ込んでいくのだから、ラズロの心労は相当のものだろう。

 先の一件があったために、これからは無茶をすることはないセトだろうが、誰かと一緒に戦う、ということが頭にない内は一生足並みは揃わないままだ。

「セトは味方の位置、敵の位置をよく把握することが重要じゃ。俯瞰でものを見る癖を付けよ」

 多く言葉をかけなくとも、セトは直感的な性格で察しも良い。これぐらい言えば大きく変わるはず、と、思ったが。

「フカン?」

 ぽかん、と宇宙を感じるセト。

「なっ……!?」

 死角からの不意打ちに、火竜は一瞬ぴたりと止まった。

「セトの難しさが分かるでしょう……」

 ラズロが最早魔物を放置し、火竜に向き直って説く。

 火竜はううむ、と唸った後に、ばっと魔物を見据えた。

「どうにかして二人で倒すのだ! 試練はまだまだこれから始まったばかりじゃぞ!」

「丸投げしやがった!」

 セトは突っ込みながら、まあやるけど、とぼやき魔物に剣を向けた。

「俺だって強くなりたいんだ! 今までの戦い方じゃだめだっていうのは分かる!」

 言って、鶏頭の魔物に向かっていく。魔物は二手に分かれ、一匹がセトを、もう一匹がラズロに向かってきた。

 セトは短剣を振りかざしてきた魔物を避け、その腕を掴み短剣をたたき落とす。からん、と地面に落ちたそれを手の届かない場所まで蹴り飛ばした。

(軽い身のこなしと反射神経……戦いには慣れているようじゃが)

 上空から眺めながらフラムは冷静に見守る。

「確かこうやってーーっ」

 セトはくるりと背中にまわり、魔物の腕を締め上げる。身動きがとれなくなった魔物はコケーッと鳴いた。

「あの固め技は……!」

 リムが既視感に前のめりになった。

 あれは火の神殿で炎の精霊にしかけられた技だ。

 悔しさの表れか、単純にやってみたかったのか、セトの真意は分からない。

 セトは魔物の背中を蹴り、前屈みに押された背後から切りつけた。

「コケェェェェッ」

 斜めに斬られた魔物は断末魔をあげて霧散していった。

「よっしゃ!」

 確かな手応えにセトは勝利のガッツポーズを決めるが、喜びも束の間、ガサガサッと周囲の草むらから何かが出現する。

「コケーッ」

「コケーッ」

「コケーッ」

「グェッグェッ」

 仲間らしき鶏頭の魔物が数匹、目を赤く血走らせて飛び出してきた。なんとなく一匹だけ白い丸頭の鳥のような気がするが、仲間のようなので言及はしないでおく。

「なんだっ!?」

 身構え怯えるセトに一直線に向かってくる。

 ラズロを敵視していた一匹さえ、セトに引き寄せられるように向かっていた。

「な、なんだーっ」

 断末魔だけを残し、セトは鶏頭たちに囲まれもみくちゃにされる。

「セト!」

 リムが駆け寄ろうとするが、ラズロに制止された。

「早く助けなければ!」

「大丈夫です、セトはここで終わるような男ではありませんよ」

「ラズロ……」

 優しく、しかし確かに断言する彼に対して、リムは一瞬ほっとした顔をするがすぐさま腕にすがりつき、

「今までそんな実績ないじゃないですか!」

 とはっきり口にしてしまう。

「こんちきしょおおお!!」

 リムの突っ込みよりさらに大きく、セトの雄叫びが響いた。

 鶏頭の塊を見ると、内部から光が放射状に漏れ出している。

「あの光は……?」

 二人がまぶしさに目を細めると、その光は更に強さを増し、鶏頭たちがコケッ!? と驚きの声をあげる。(グワッ!? も聞こえた気がする)

 まばゆい光の中で、旋風が巻き起こる。それは魔物たちをふわりと容赦なくなぶり、大きく空に渦を巻いて散らす。

「コケーッ!?」

「コケーッ!?」

「コケーッ!?」

「グェッグェッ?」

 鶏頭たちの声は旋風とともに消失し、あとに残るのは白い羽が舞い降りる幻想的な風景。その中心に、膝をついてぜえぜえ息をするセトの姿があった。

「羽毛に埋もれて意識朦朧……」

「危機的状況に陥り、飛躍的に知能指数があがっている……!?」

 セトの呟きにラズロが驚きの声をあげた。

 とりあえずは無事そうな彼の姿に、リムはほっと息をついた。 

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