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約束!火の神殿と二人の試練 第九話

 翌日、セトは寝ぼけ眼で宿屋の玄関までやってきた。

「おはようございます」

「おはようございます」

 リムとラズロがそれぞれ挨拶をする。その声にいつもの明るさがないことに気付いて、返事をすることもなくセトは首を傾げた。

「なんかあったのか?」

 リムの表情は明らかに沈んだ様子で、ラズロはそれを気にした様子もなく、触れないようにしているかのようだ。

 セトの問いかけに、リムは苦笑した。

「本日は私は買い出しに行きます。お二人は一日休んでいてください。明日にはここを発つ予定になっております」

「お、おぉ。そうか……」

 普段よりきびきびと、有無を言わさぬ口調でラズロが言う。セトは雰囲気に気圧されて、頷くことしかできなかった。

「では、わしもお供しようかの」

 守護神がぱたぱたと飛びながら、ラズロの肩にのる。

「それは構いませんが、村人に見られても大丈夫でしょうか? 余計な騒動は起こしたくはないのですが……」

「まあ、見慣れん生き物ではあるからの……その袋の中に入れてくれればよい。わしは村の様子を見て回りたいのじゃ。なにせ、神殿から出たのははじめてだからの」

 多少わくわくした様子で、守護神がもそもそとラズロが手に持っている鞄に入ってくる。

「守護神さまがよいのなら、構いませんが……」

 鞄の中で落ち着いたらしい守護神を確認し、それを背中に背負う。

「では、行って参ります。セト」

 不意に呼びかける。

「ん?」

 振り返ると、ラズロは少し心配そうな顔で、

「リム様をよろしくお願いいたします」

 と言って出て行った。

 ふんむ……とセトはまた首を傾げる。

「なあ、ラズロのやつ、なんか今日元気ないよな?」

 とリムに尋ねるが、リムもどこか上の空で、聞こえていないようだった。

「リム〜?」

 ひらひら、と顔の前で手を振ると、リムは目を丸くして後ずさった。

「な、なんでしょうっ?」

「いや、リムもなんか元気ないな? 昨日なんかあったのか?」

「えっと……それは……」

 誤魔化そうと一瞬思ったリムだったが、彼の真剣な眼差しに刺され、そして、彼にも関係があるからこそ、と思いその口を開く。

「実は……」

 昨日のラズロとの会話をセトに伝えると、セトは表情は変えず、

「なるなる」

 と頷いた。

 その反応が要領得ず、リムは首を傾げた。

 それから、セトはまっすぐにリムを見つめる。リムはその丸い瞳でセトを見つめた。

「もしリムが城に残るんだったら、俺もリムと一緒に城に残るぞ」

「えっ……!?」

 ラズロも、そしてリム自身も想像していない未来だった。

 当たり前のように宣言するセトに、自分ですら焦りを覚える。

「で、ですが、そうしたら魔王封印はラズロ一人になってしまうのでは……!?」

「もしもの話だぞ。今はもしも、じゃないから、ラズロもリムも、俺も一緒。三人だ」

「は、はあ……」

「ラズロは覚悟が足りないっていう話をしたんだろ。それは俺だって同じだ。リムに無理をさせた、危険な目に遭わせた、泣かせた……約束と違うし、俺は覚悟が足りなかった」

 後悔と、悔しさが混じるまなざしで勇気の剣を見つめるセト。

「だから俺も城に残るべきだと思う」

「ラズロは、あなたのことは認めているようでしたが……」

「俺が俺を認められてないんだ」

 きっぱりと言い放つ彼に、リムは何か気がついたように目を見開く。

「このままじゃ嫌だって思うんだ。だからもっと強くなりたい。リムを守れるくらいに。それから、魔王が倒せるくらいに。リムの願いを叶えるために、そばにいるために、俺は強くなりたい。だから、覚悟が足りなくても、なんとしてでも、ラズロについていく。リムだってそうだろ?」

 優しく投げかけてきた彼の言葉に、リムの心は解かれていく。

 自らの内にあったもやもや、それはラズロが言った言葉だけの問題ではない。自分が弱いこと。悔しかったこと。それを、セトが教えてくれた。

 リムはしばらくセトのその瞳を見つめ、そして確かに頷いた。

「わたしも同じです。覚悟が足りなくても、わたしは前に進みたい。城に留まるなんてできません。わたしのわがままでも、わたしは、わたしの責任を自らで果たしたい」

 自分が魔法を使えること。それが特別で、絶対的に必要な役割ではない。でも、この心だけは。

 この決心だけは、自分だけの、自分だけが通したい気持ちだ。

「ラズロも厳しいこと言うんだな。リムのいうことなら全部いいよって言うやつかと思ってた」

「そんな易しい人ではありませんよ。わたしの過ちを正してくれる、小さい頃から一緒の、大切な人です」

 くすくす笑いながら、昔を少し思い返すリム。人見知りだと言い張る自分を鼓舞し、決して自ら前にでることはしなかった頑固で手厳しい臣下だった。今も、それは変わらず。いつも、いつまでも、自分を見ていてくれる優しい人。

「リムとラズロは仲良しなんだもんな」

 セトはうんうん、と一人頷く。

「喧嘩したのかと思ってひやひやしたぞ。朝から二人とも元気ないから」

「二人? ラズロも、元気がなかったですか?」

 リムがきょとんと首を傾げた。それに、セトも同じように首を傾げる。

「え、元気なかっただろ。落ち込んでる、みたいな」

「そうでしたっけ……?」

 自分からはちょっと怒っているようにも見えていたから、セトの感覚と一致せずに首を傾げたまま思案する。

「長く一緒にいると落ち込むタイミングも一緒なんだあって思ったけど」

「一心同体なつもりではないですけど……」

「イッシンドータイ」

「……」

 セトはいつもと変わらない調子のようで、絶句しながらもリムは心の奥底はちょっぴり安心するのであった。


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