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約束!火の神殿と二人の試練 第八話

 食事を小机に置いてもらい、女将さんに丁寧にお礼を言うと、女将さんはにっこりと笑って、

「いろいろと大変そうみたいだけど、ここのお客さんとなったからには、いくらでも手を貸すからね」

 と、部屋を出ていった。

 リムはその優しさや頼もしさに、またのどの奥が熱くなり視界が滲む。

(わたしは、本当にたくさんの人に支えられている)

 その実感を、リムは眉を下げて噛みしめた。

 くるりと振り返ると、目前に、とかげのような、羽の生えた生物。

「!!?」

 ガタッと音を立ててリムは背中をドアに打ち付けた。

 その驚きように、空飛ぶトカゲは不機嫌そうに顔をしかめる。

「なんじゃあ、さっきはわしのことなど見向きもせずに部屋を飛び出したというに」

「しゃ、しゃべった!」

「しゃべるもしゃべるじゃろ。先ほどおぬしらと戦った火の神殿の守護神なんじゃから」

 ふよふよとリムの顔間近まで飛んできて、リムの紫の瞳をじっと見つめる。

 ふむふむとうなずき、火竜は離れる。

「どうやら体力は戻っているようじゃの。思っていたよりも随分早い回復じゃ。精神力も手伝ってかの?」

 一人ぶつぶつと呟いている。

「あ、あの」

 リムは呆気にとられていた顔から、おずおずと怯えた顔に戻る。

「あなたはどうしてここに? まさか、まだ試練は終わっていないと言うことですか……」

 今ここに一人でいることが危険なのでは、と思ったリムはドアノブに手をかける。

 火竜は穏やかに首を振った。

「いいや。もう試練は終わっておる。わしはおぬしらに火の宝玉を明け渡すと決めた」

「では、どうしてここに?」

「わしもおぬしらの旅に同行しよう」

「えっ」

 リムは目を丸くした。

「それは、可能なんですか?」

「今実際大丈夫なのだから大丈夫じゃろう。火の宝玉をおぬしらに渡したから、あの時ほどの力は残ってはおらんがの。さて、小娘」

 火竜はずい、とリムの眼前に近寄り、険しい顔をした。

「無茶をするのも大概にせよ。一歩間違えれば命を落とすぞ」

「……」

 リムは押し黙った。自分が大きな魔法を使ったことは覚えている。そして、そこからの記憶がなく、気がついたらここにいた。つまりは気を失っていたということだ。

 危険が迫ったからといって、同じ手を何度も使うわけにはいかない。自分たちにはその先があるのだと、リムはきちんと自覚していた。

 太陽が戻った、あの頃の王国を想像する。

 色あせる前に、すぐにでも取り戻したい。

 セトのあの笑顔だって、いつまでも守りたい。

「わかっています。わたしに力がないこと…わかっているんです……」

 先ほど撫でられた、手の温かさを思い出す。

「わたしは一人では何もできません。ほんとうに一人になってしまったら、いつまでも泣いていることしかできない……セトやラズロがいるからここまで来れたのです。二人には感謝しています。ですが、わたしだって彼らを支えたい」

 胸の内からあふれる優しい気持ちに押されて、リムはじっと火竜を見据えた。

「わたしはこのロジエ王国の王女です。わたしを支えてくれる民のために、もっと強くなりたい。守護神である火竜さま、どうか、お力添えをお願いいたします」

 厳しい視線で見つめる火竜だったが、やがてけほ、と詰まっていた息を吐き出した。

「自分の行く末を自分で決める。それは生きる者のすべてにある命の輝きだ。わしはその輝きが好きだ。プリムヴェール・ロジエ、わしはそなたの旅に同行し、協力を惜しまない」

 火竜はぱたぱたと羽を動かしてベッドに静かに舞い降りた。

「セトのお姉さまから伺ったところ、魔法に大事なのは気持ちだ、と言われました。勉強不足のわたしには、そのアドバイスだけでは要領が得ないのですが」

 少しずつ魔法を扱えるようになったリムであったが、そう戸惑いの言葉をこぼした。

 火竜はふむ、と短い腕を交差させて頷く。

「わしも結論から言えばそうじゃな。魔法に重要なのは気持ちじゃ」

「具体的な……もっと、こう……技術的な面での教えはないのでしょうか。精神的なものではなく」

「小娘はまじめじゃの」

「王族に伝わる大切で、絶大な力なのです。お父様もあまり魔法について教えてはくださいませんでした。しかし、扱える者の責務として、もっと知っておくべきものだと思うのです」

「わーかった、わかった」

 前のめりになるリムを、火竜はどうどう、と窘める。

「小娘の言い分もわかるつもりじゃ。しかし、何事にも体が資本である。冷めぬうちに、食事をとったらどうかの」

 火竜は片目でテーブルに置かれた料理をみる。

 リムは話の腰を折られたが、そうだ、お腹がすいたなと気づき、大人しく指示に従うのであった。


 食事を終えたところで、ノックの音が耳に届く。

「どうぞ」

 と、応えると、失礼します、という男性の声。

 その聞き慣れた声が聞こえただけで、リムはほっと安心感が胸に広がる。扉を開き現れたのは、自分に長く付き添ってくれている従者、ラズロだ。

「お加減はいかがでしょうか」

「すっかり元気になりました。守護神さまがいらっしゃるのは、吃驚しましたけど」

 自分の膝の上で丸くなって寝ている守護神をなでる。

「報告のタイミングを逃しましたからね」

 下の階での出来事を思い出し、少し頬を赤らめるリム。

「セトにたくさん怒ってしまいました……」

 あとから考えると、非常にわがまま放題言っていたのでは、と反省していたところだった。

 そんな彼女の姿に、ラズロは一つ息を吐き、傍に寄る。

「どうぞ、かけてください」

 ベッドの横に用意された椅子を促すが、ラズロは首を振って拒否した。

「リム様、一つ私から貴方に言いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「……どうぞ、言ってください」

 改まった前置きにリムは緊張した面もちになる。

 ラズロの表情はいつも以上に堅く、感情が読み取れない。

「まず、今回のことで思ったのは、やはりこの旅は危険なものですね」

「は、はい」

 ラズロの声が普段より冷ややかであることに気付く。

「セトが生死を別つような怪我をした。そして、私は途中で気を失い、貴女を守る役目を果たせなかった。非常に不甲斐ない結果です」

「……」

「そして、目が覚めたとき、貴女とセトが倒れていたのを見たとき、ほんとうに、怖かったのです」

 リムははっとしてラズロの顔を見る。

 彼の表情は、心の底から自分を心配している者の顔だった。

「私もリム様と同じです。私が貴女を守れない間に、貴女がいなくなってしまったかもしれない。その可能性があっただけで、恐ろしくてたまりません。リム様がいなくなることで、国民がどれだけ悲しむか、理解してほしいのです。そして、何より、私がどう思うかを、知ってほしいのです」

「ラズロ……」

「自分の身を挺してまで貴女を守ったセトに、散々感情をぶつけていましたよね。王家たるもの、心をなくせとまでは言いません。心があるからこそ、国をよくしていけるものだと私は思います。セトに言ったことは最もです。しかし、それはリム様にも言えることなんですよ」

「分かっています……」

「ですから、一つ、私がリム様に言いたいこと。それは、貴女は城に戻り、私たちの魔王封印の旅には同行すべきではない、ということです」

「え……?」

 その冷酷な告白に、提案に、リムは耳を疑った。

「ですが、魔法が使える者はわたし一人で、魔王を封印するには、わたしでなければ……」

「えぇ。もちろん、そういう話でしたね。しかし、かつての勇者は王家の者ではないにも関わらず、女神から魔法の力を授かり、魔王を封印したという事実を作りました。よって、貴方はこの旅に無理に同行する必要はないのです」

 リムは冷静に、淡々と説明するラズロを止めるように、その手に縋った。体中に冷たい水が流れるているように、血の気が引く。

「待ってください。そんな、たとえセトかラズロが魔王を封印する術を手に入れられたとしても、わたしは……」

 言い掛けて、それは本当に必要だろうか、と、よぎってしまった。

 この国の姫である自分が、最前線に立つこと。それがどれほど国民を不安にさせるのか。現に、今目の前にいる自分の家臣を不安にさせ、心配させている。

 リムの心は優しかった。だから、自分を犠牲にする選択が正しいと思えなかった。

 リムはその手を離した。

「……」

 そして、俯いたまま何も言えなかった。

 ラズロはそんな少女の頭を見つめ、口を開く。

「厳しい言葉を言って申し訳ありません。私のこれはただの提案です。一方的に決めるのは、あまりにも独善的だと思いますので。ですが、覚悟なき貴女がこの旅に同行することは、また彼を危険に晒すことだろうと思いますよ」

 血だまりに倒れるセトの姿が脳裏に焼き付いている。

 リムはベッドのシーツを強くつかみ、けれども何も言い返せずにいた。

「もう夜も遅いので、私はこれで失礼させていただきます。リム様、おやすみなさい」

 ラズロは無慈悲に、冷酷に部屋を出ていく。

 取り残されたリムは、ただ、何も言えず、唇を強く結び俯くばかりだった。


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