約束!火の神殿と二人の試練 第一話
三人は次の村へ向かっていた。
次の目的地は火の神殿。火山にあると姉が言っていたが、その山の麓の村からでしか火山には立ち入れないらしい。
気温が少しずつあがっていく道中を、セトはきらきらした目で進んでいく。
「火山と言ったらやっぱ火竜がいるよな!? 絶対いるよな!!」
「神殿には守護者がいるとは聞いていますが、人間なのかそういった伝説上の獣なのかは分かりません」
「そういう試練的ダンジョンの中ボスなら、火竜だって!」
「だんじょん、とは何ですか?」
ラズロが怪訝そうな顔で尋ねる。
「姉ちゃんが時々やってる、あーるぴーじーゲームっていうのに出てくるんだ。四角い箱に絵が動くんだ」
セトの要領得ない一生懸命な説明に、ラズロとリムは首を傾げながら想像力を働かせる。
「ゲームというのですから、ラズロがよく同僚と行っている陣取り盤みたいなものでしょうか」
「確かに四角い盤上で行いますね。絵が動く、とは……」
一つ一つかみ砕く二人を気にせず、セトはずんずん進んでいく。
「不思議な少年ですね、彼は」
ラズロは先をゆく背中を見つめて呟いた。
「えぇ。ほんとうに、不思議で……彼がそばにいると、わたしは強くなれる気がするのです」
「……」
リムが優しく呟くと、ラズロは思わずリムを振り返った。彼女の眼差しは彼に向けられている。その横顔があまりに穏やかに、慈しみにあふれ、そして、瞳には今までにない輝きを見せていた。
ラズロは胸の中が不思議に揺れるのを感じた。
同年代と交流の少ないリムにとって、彼は友人のような感覚なのだろう、と解釈していたラズロだったが、それもまた違うのだと、気付いた。リムが彼に向ける眼差しは、友人というにはあまりにも軽く、しかし恋心というには、あまりに真っ直ぐに思える。
「おーい、何立ち止まってんだよー」
セトが遠くから声をかける。
それにはっとして、ラズロは思案を止めた。
リムが小走りでセトのもとへ向かう。
ラズロはその二人の姿を、穏やかな気持ちで追いかけた。
「こ、これは……!」
目の前に出された器を、眉を寄せて見つめるリム。
「香辛料のにおいだけでむせかえりそうなのですが……」
手元に置かれた器の中身は燃えるように真っ赤なスープが入っている。ラズロは再度においをかぎ、ついには反射的に咳をした。
「俺の村じゃ絶対に食べられないやつだな! いっただきまーす!」
セトは元気よく言い放ち、ためらいもなく料理を口に放っていく。
その姿を二人は怯えたように見つめる。
視線に気付いたセトは目を丸くした。
「なんだよ、二人とも早く食べなよ。冷めちゃうぞ」
もぐもぐがつがつしながら、大まじめに忠告する。
セトの平気そうな様子に、ラズロは匙に手をかける。
「以前、視察に訪問した際はこのようなものは出されなかったのですが……」
神妙な面もちで呟くリムに、ラズロは申し訳なさそうな顔をする。
「実は、事前に食文化については周知していたので……その、王宮の料理人も同行させたのです……」
しかしラズロは目の前の真っ赤な湖に釘付けである。
「そうだったのですか……わたしは、ずっと前から周りの人たちに守られていたわけですね……」
自分が情けないというように自責の表情を浮かべて、リムは意を決した。
「見た目やにおいが特殊なだけで、味は常識的なのかも知れません」
むん、と胸を張って、リムは料理に向き直る。
「そ、そうですね、出されたものに文句を言うのは失礼にあたりますから……」
ラズロも意を決して、震える手でスープをちょっと掬う。
「民の生活を知るのもまた我々の仕事。よりよい国営のために!」
がぶ、と、ラズロはスープを口に運ぶ。
リムははらはらした様子でラズロを見つめた。
ラズロは動かない。
匙を口に含んだまま、動かない。
「よそから来たのかい? それじゃあ、ちょっとここの食べ物は辛すぎるかもねえ」
「いや、うまい! 俺は辛いもの平気だけど……リムは?」
セトがそう振り返ると、リムはラズロの肩を揺さぶって泣いていた。
「ラ、ラズロ! 気をしっかり!」
揺さぶられているラズロに反応はない。
「あらら、お姉さん、言ってくれりゃあ観光客用のメニューもあるんだけどねえ」
と、配膳のおばさんはメニューをセトに渡した。
「だって、リム」
セトは二人のやりとりをまったく気にせずリムにメニューを差し出す。
それをみたリムは、わなわなと震えてラズロに抱きついた。
「こ、こんな不甲斐ない主人で申し訳が立ちません……! ラズロ、どうか目を覚ましてください……!」
哀れにも嘆くリム。
しかし、ラズロに反応はないのであった。
「危うくここで旅が終わるのかと思いました……」
数時間後、意識を取り戻したラズロは冷えた水を抱えて呟いた。




