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株破滅日記  作者: ロン・イーラン
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第14話 2020年4月26日 サンデーダウ①

投資家にとって土日は心を休める為の必要な時間だ。

投資家にもいろいろな種類があるが、特にデイトレードに足を突っ込んでいる俺のような人間にとって土日の休息は特に重要だ。

なぜなら日本時間の月曜朝8:30から土曜の朝7:00まで何らかの金融商品が取引されている。

1時間単位、1分単位、1秒単位の取引で利益が大きく変わるデイトレードで()()った精神を元に戻してやる時間が必要で、それが無ければ投資家はみんな胃や脳をやられて早死にするしかない。


ただし、この精神を元に戻せる資格があるのは金曜日のうちにポジションを解消した者だけに与えられる特権だ。

ポジションを持つとは株や先物、CFDなどの金融商品を売り(たて)または買い(たて)の状態にすることで、ポジションを解消するとは、これを一旦精算して現金に戻しておくことだ。


機関投資家などは金曜日にポジションを解消することが多い。

それはなぜか?

平日であればどこかの市場が開いているので、何か大きな事件があったときにその市場で金融商品を売り買いすることでリスクに対応することができる。

しかし、土日に大きな事件が起きると一般の投資家と同じタイミング、つまり月曜日の朝一からしか取引を開始することができず機関投資家である優位性が発揮できないからだ。


そして、このポジションを解消しないものはどうなるか?

ある者は自分のポジションに自信を持ち、月曜日に手にする莫大(ばくだい)な利益を夢見るだろう。

そして、俺のような含み損が(ふく)らみポジションを解消することができなくなった者は、月曜日の相場が自分の願望通り動くことを祈るしかなかった。


どうせ祈ることしかできないのであれば(あきら)めて休めばいい。

だが、現代は恐ろしいことに土日でも取引が可能な取引所があり値が動き続けていた。

それがサンデーダウだ。

海外の証券会社が運営している私設市場でダウのCFDを売り買いすることができる。

ダウだし海外の証券会社だからと無視するというのも一つの考えだったが、昨今のダウの日経平均への相関や月曜日の値動きの方向性を考えると、全く無視するということが俺にはできなかった。



「ねえ、ハル。

 せっかく久しぶりに出かけたんだからさ、ちょっとは茂の相手をしてよ。

 テレワークで(ほとん)ど家にいるのに全然相手してないでしょ!」


「あ、ああ、すまん。」

俺はサンデーダウをチェックしていたスマホをジャケットのポケットにしまった。

(あわ)ててショッピングセンターのフードコートのテーブルをアルコールティッシュで()き始める。

息子の茂の方に目をやると、子供用の補助いすに座った状態で俺の動きをまねるようにテーブルの上で腕を左右に振っている。


それを見て妻の美奈が更に不機嫌な口調で言う。

「茂、まだテーブル触っちゃダメ!

 消毒してないんだから。

 ハルもまず茂の前から拭いてよ。

 いちいち言われないとわからないの?」


なんだかいつにも増して機嫌が悪いようだ。

それも仕方ないことだろう。

ちょっと出かける度に手洗いや消毒を求められ、外ではマスクをずっと外せない。

マスクをちゃんとできない子供に対してもああだこうだとケチをつけてくるような(やから)がいるような状況だ。


「私、適当に食べるもの買ってくるから。

 茂のことよろしくね!」


かなり強めの語尾をつけたお願いをして、美奈は俺たちの前から去っていった。

俺は仕方なく茂の相手を始めた。


「なあ、茂。

 父さんのこと好きか?」

定番の質問をしてみる。


「すき、よ。」


そうかそうかと頭を()でつつ、少し気になっていた質問をしてみる。

「茂、今通ってるインターの幼稚園って楽しいか?

 普通の幼稚園とどっちがいい?」


茂は美奈の強い意向でインターナショナルスクール併設(へいせつ)の幼稚園に通っているのだ。

といってもこの3月以降はまともに通えておらず、俺は高い学費も相まって不満に思うようになっていた。

そもそも茂自身が行きたいと言ったわけでもないのに英語学習がどうたらこうたらでインターに幼稚園から入れるなど親のエゴでしかないと思っていた。

いや、美奈が自分で稼いだ金で通わせているのだから本来は文句をいう筋合いではない。

ただ、もし俺の含み損がこのままの状態で確定してしまったら、そんなことは言っていられなくなるのは明白だった。


「ようちえん、たのしいよ。

 でも、えいごはにがて。」


「そうかー。

 じゃあ、今度普通の幼稚園も見てみるか?」

そう茂に言うと、茂はうんと(うなず)きつつ視線を俺の頭上に向けた。


俺は人の気配を感じ座ったまま振り返ると、そこには美奈が食事の載ったトレイを持ちながら鬼の形相(ぎょうそう)で立っていた。

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