9 ヒロイン先生
教室に着くと、どうやら俺と翔が最後だったらしく、生徒はみな席に着いていて、窓側の席に座る主人公藤咲 百花の前後の席だけが空いている。
『確か、ゲームだと翔は主人公の前の席に座ってた筈だから俺は主人公の後ろか』
俺が転生した、伊月 凛桜はモブであるがゆえに作中での描写が少なく、知らなかったが、主人公の後ろという随分とモブらしいくない席だった。
『まあ、前世の最推しヒロイン桃井 秋桜の近くってたけで、俺にとっては最高だけど』
そう、主人公の左隣りには桃井 秋桜が窓から吹き込む風に髪を揺らしながら、美しい姿勢で座っていた。
『それにしても、作中では主人公たちとの会話なんてほとんどなかったんだけどな、案外描写されてなかったけで意外とストーリーにかかわったりしてたのか?』と自分の転生したキャラについて考えていると
「おい、早く座ろうぜ」と翔が主人公の前の席に座りながら声を掛けてくる。
黒板に張られた座席案内に一応目を向け、自分の席に間違いないか確認してから「そうだな」と返事をして主人公の後ろの席に歩いて行き、席に着くと、それを見計らっていたかのようにヒロインであり、担任でもある美貌の教師が教室に入り教卓の前に立ち、話始める。
「これから、3年間あなたたちの担任を務める竜胆 美波といいます。教師になったばかりの新米ですが、皆さんと一緒に学んでいきたいと思っています。これからよろしくお願いします」と言い終えると、彼女は紫の髪を揺らし、穏やかで優美な笑みを生徒たちに向ける。
すると、生徒たちは一斉に彼女へ質問を投げかける。
「先生って今、何歳ですか?」
「付き合ってる人っていますか?」
「何の科目を担当してるんですか?」
とよくある質問に彼女が答えていると
「先生って、胸でかいですよね。何カップですか?ていうか、3サイズ全部教えてください。俺この学園の女子全員の3サイズ知るのが目標なんですよ」と、とんでもない質問をする奴が現る。彼女は顔を赤くし、固まってしまう。生徒たちはその発言の主、鈴音 翔に一斉に視線を向ける。その視線には、男子からは『こいつ、すげぇ』とある種の尊敬が、女子からは『なに、このとんでもない奴は!!』と侮蔑が込められていた。
俺はというと『ゲームで同じ発言は聞いていたが、現実で聞くと凄まじいな』と男子よりの視線を向けていた。
すると彼女竜胆 美波は、石像のような状態から復帰し
「そ、そんなこと、答えられません!」と言ってから
「で、では、これから明日からの学園生活について説明します。し、質問はもうお終いです」と彼女は早口で、明日からの学園生活について説明を始めた。