3 百瀬 太郎と伊月 凛桜
俺は今、警官からの取り調べを終え朝に目覚めた家に向かっていた。どうやら遠巻きに見ていた人が俺の奇行を見て通報したらしい、警官が駆けつけた時に丁度エルフの女性が蹲っているところを見たらしく、その場で取り押さえられてしまった。
その後、所々誤魔化しつつ説明をして、誤解を解き、俺が持っていた携帯を調べられてから解放された。
人生で初めて受けた取り調べは、本来なら余り良くないのだが、今の俺にとっては、自分の置かれた状況を他者が調べてくれるという有益なものであった。
どうやら、俺が持っていた携帯には魔力認証という本人しか開けないロックがかかっており、それを開けた俺はこの携帯の持ち主本人で間違いないらしい。詰まるところ、俺はこの携帯の持ち主伊月 凛桜という名前の人物に転生してしまったらしい。この世界では携帯が身分証の役割を持っているらしい。警官が携帯を調べたところ、年齢は15歳で、俺が朝目を覚ました場所は俺の家で間違いないらしく、また天涯孤独らしで家族はもういないらしい。警官もそれを告げる時ばかりはバツの悪い顔をしてこちらを見ていた。そうして、取り調べの際に知った情報を頭に浮かべていると家に着いた。
「はあー、ここが俺の家か。ていうか今の俺ってどういう見た目なんだ?」ふと、気になり鏡を探し、見つけると鏡の前に立つ。
そこには茶髪のどことなく軽薄そうな170㎝程の細身の男性が映っていた。
「背は少し小さくなって、顔は前より整ってるな。髪はそんなに変わらないし、全体で見ればプラスってところか」外見が少なからず良くなってる点は喜ばしいことのはずだが、その顔にはどうも見覚えがある。
「男子生徒Aじゃねか」そう俺の姿は「桃色コスモス」におけるモブ男子生徒Aの姿そのままだった。
その姿がより一層この世界に俺が転生したことを意識させる。
「今日は俺の夢がやっと叶う、その筈だったのに!ふざけんな!」思わず鏡に向かって怒鳴ってしまう。
「それに、なんだよ!俺はこんな脇役か…」自分は「桃色コスモス」における主人公 藤咲 百花ではない。同じクラスなだけのただのモブ。主人公がいい思いをする中でいつも割を食う可哀想なモブである。
「桃色コスモス」は発売から数日しかたっておらず、ヒロイン7人のルートのうち5人のルートを一通りプレイした程度だが、このモブには自分も何度も可哀想と思ったものだ。そんなモブに自分がなってしまっているのだ。
この世界に飛ばされた俺を、この姿は、神に「お前はモブがお似合いだ」と言われてるように感じさせ、今はただ無性に腹が立っていた。