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15 夢破れて三日在り ④

「あっ、そのぉ、話聞いてくれるってぇ言ってたからぁ」その言葉を聞いて『そういえば、泣いてたのが気になってそんなこと言ったな』と思い出す。

「ええ、俺でよかったら。俺は伊月 凛桜です。お名前をお聞きしても」

「ありがとうぅ。私はぁ、七嶋ななしま ナズナですぅ」

「それで話って」

「そのぉ、私ぃ、」彼女はそう切り出すと話を始める。


話を聞いたところ、彼女は2年生で、入学してからずっとあるものを作っていて、そのあるものが昨日の入学式になくなってしまったらしい。だが、それを探そうにも手掛かりはなく、彼女はその特徴的な喋り方と風貌から学園では浮いていて頼れる人も居ないそうだ。

「それでぇ、そのぉ図々しいかもだけどぉ捜すのを手伝ってぇもらえないかなぁって。私がぁ聞いてもぉ誰も答えてくれないしぃ」

「それなら大丈夫ですよ」と言ってから、捜し物について詳しく聞こうとしたその時後ろから声を掛けられる。

「おい、リオ帰んの早ぇよ。ん、その子誰だ?俺が知らないってことは上級生か」と言ってくる。

いつも思うが、彼のようなエロゲの友人キャラはいつ女性たちの情報を集めているのだろうか。昨日も今日も、彼とはそれなりの時間一緒にいたがそんな素振りは見られなかった。ただその口ぶりから彼はすでに同級生の女子は網羅しているようだ。

「今日はゲームセンターに寄る予定もなかったし、一人で帰ろうと思ってな」

「おいおい、冷てぇな。別にゲームセンターに寄らなくても一緒に帰ろうぜ」

「そうか、学園の女の子をストーキングするのに忙しいのかと思ったんだが」

「いや、ストーキングなんてしねぇよ。普通にSNSで調べてんだよ」

「いや、それってネットストーカーじゃねぇか」と話していると「あっあのぉ、お二人はぁゲームがお好きなんですかぁ?」と彼女が尋ねてくる。すると翔が「俺は昨日初めてゲームセンターに行ったんすけど結構楽しかったです。リオは結構ゲーム詳しいんで好きだと思いますよ」と答え、

「まあ、俺は結構好きです。自分で作ったりもしましたし」と俺も答える。

「伊月君たちほんとうですかぁ!」と彼女がはしゃぐ。彼女もゲームが好きなのだろう。

「どんなゲームが好きなんですかぁ」と尋ねられ、翔が「ゾンビの奴かなぁ」と即答するが、俺は前世のゲームを答える訳にもいかず悩んでしまう。ただ、この世界であってもゲーマーは他のゲーマーのプレイするゲームが気になるようで、それに少し安心する。

「それで探し物って」と翔が来る前に聞こうとしていたことで話を逸らす。

「そっ、それはぁ、お二人ならぁからかわないと思うんですけどぇ」と不安げな様子で言おうか迷っている。

「大丈夫です。からかいませんよ」

「ああ、俺もだ」

「それならぁ、言いますぅ。私がぁ捜してるのはぁ自分で作ったぁゲームのデータが入ったぁディスクですぅ」

「まじか、すげぇな。ゲーム作れるんですか」

「いやぁ、そんなすごいものじゃないからぁ」

「いや、すげぇっすよ」

「ありがとうぅ」

「どうしたんだよ、リオ急に黙って」

「あっ、いやなんでもない、じゃあそのディスクを捜そう」と返すが、この世界で初めて、俺と同じゲームを作る人間を見て感動して何故か泣きそうになっていた。

「よし、じゃあ捜すか」そう言って探し始める。


暫く捜していると、ディスクを持った三人組の男性がいるという話が耳に入った。

「今のところ、それしか手掛かりもないし、その三人を捜そう」

「そうだな」

「私もぉそれでいいですぅ。たぶん、今いる人はぁみんなぁ上級生だからぁ部室棟じゃないかなぁ」

彼女の助言を受け部室棟に向かう。

部室棟に入ると、奥の部屋から笑い声が響いている。その部屋に近づくと話の内容が鮮明に聞こえてくる。

「あいつ、見たか」

「ああ、見た見たあいつこんなディスク失くしたくらいで大泣きしてたぜ」

「あいつに模擬戦で負けてからずっとムカついてたんだよな」

「つっ……」そのくだらない動機に、思わず声を出しそうになるが冷静になって隣に立つ彼女に目を向ける。彼女は涙を堪えているが、それは今にも溢れ出しそうだ。

彼女は黙って部室棟を出ていくのを見て、俺と翔は不安になってついていく。

「二人ともぉ、ごめんねぇ」部室棟を出て彼女がそう口を開く。

「なんで先輩が謝んだよ」

「いやぁ、私がぁ模擬戦であの人にぃ勝ったのが悪かったみたいだしぃ」

「それは、先輩が悪いわけじゃないだろ」

「それにぃ、私が作るゲームになんてぇ、あんな風に言われてもぉ怒るようなぁ価値ないですしぃ」彼女があきらめたようにそう言って、翔は黙ってしまう。だが俺は違った。そんな理由で我慢なんてできない。

「ふざけるな!自分が作ったものの価値を自分で落とすな!」今の彼女は昔の俺に似ていた、あの人に助けられる前の俺に。

「だったら、俺が証明する。あなたの作るゲームに価値があるっていうことを」

こうして、俺の新たな目標が定まった。

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