14 夢破れて三日在り ③
「ふうぅ、間に合ったか」と教室に着き一息吐く。
「おい、どこ行ってたんだよ。捜したんだぜ。リオ」
「悪かったな、翔。トイレに行って戻ってきたら、俺の席に着けそうになかったから、少し学園を散歩してた。そう言えば、どうして俺のこと捜してたんだ?」
「いや、リオはどの科目取るのかと思ってな」
「俺は、音楽と美術かな」
「意外だな。男子は結構体育選んでるのに取らないのか?」
「まあ、誰がいるから決めるってもんでもないだろ」『本当は俺の前世の最推しヒロイン桃井 秋桜がその二つを取るからだけど』と言っていることと真逆のことを考えていると、授業開始のチャイムが鳴る。
そのまま会話を切り上げ席に着くと30手前ほどの男性の国語科の教師が教室に入り、挨拶をして授業を始める。
国語の授業に続いて数学、歴史と授業を終え、俺は食堂に行こうと立ち上がる。
「一緒に食おうぜ」と翔が誘ってくる。
「俺、食堂だけど、それでいいなら」
「俺も食堂だから、大丈夫」
「そっか、じゃあ行こう」と翔と一緒に行こうとすると「僕もいいかな?」と主人公藤咲 百花が尋ねてくる。
「ああ、俺は大丈夫だけど、翔は?」
「俺も大丈夫だ」
「よかったぁ、ありがとう」
「じゃあ行くか」そう言って食堂に向けて、俺たちは再度歩きだす。
食堂に着くと、そこは多くの人でごった返していた。
「うげぇー、かなり人いるな」
「ほんとだね。席取れるかな?」
「それは、大丈夫なんじゃないか。所々空いてるし、三人なら座れないこともないだろ」そう言って、注文のため列に並ぶ。
暫くして注文した食べ物を受け取り。隅の空いた席に座る。
「「「いただきます」」」
そうして俺たちが黙々と食べ進めていると、「ここ、座ってもいい?」と声を掛けられる。振り返ると、美しい桃色の髪を持ったヒロイン桃井 秋桜が俺の隣を指差していた。その美貌に見とれていると「いいかしら?」ともう一度、彼女に尋ねられて、慌てて「こ、こんなところでよかったら」と答えると彼女が隣に座る。彼女からはゲームでは感じられなかった、瑞々しい柑橘系の香りがする。
「昨日は、私を庇ってくれてありがとう。昨日は時間がなくて、簡単に済ませてしまったからちゃんとお礼を言いたかったの」と彼女が切り出す。
「いや、そんなこと気にしないでください。あなたとこうして話せるだけで嬉しいですから」と思わず本音が出てしまい『まずい、前世での最推しヒロインだっただけに彼女が関わると自分をコントロールできない』そう思っていると「おい、リオ、俺と態度が全然違うじゃねぇか」と口をはさむ。
「いや、翔だって自分にとって最高の美女が目の前にいたら態度変わるだろ」と軽口を返すが
「いや、変えねぇよ。嘘の俺を好きになられても嬉しくねえし」と思ったよりも真面目に返され、彼の恋愛感に少し考えさせられていると「最高の美人…。えっ、それって私のこと」と少し照れた様子で彼女がこちらを上目遣いに見つめていて、考え事などすべて吹き飛んでしまう。
『本当に可愛いなぁ、それにその上目遣いあざとすぎだろ』と思っていると、
主人公藤咲 百花が「あの、桃井さん。昨日は何で僕に怒ってたの?」と口を開く。
すると、先ほどまで照れた様子を見せていた彼女は「私もリオって呼ばせてもらってもいいかしら」と彼に気づいていない様子で、いや、彼を無視してこちらに聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。あと藤咲君が君に聞きたいことがあるみたいだけど」と返すが
「君なんてよそよそしい、秋桜って呼んでください」と返してくる。どうやら彼女は彼の質問に答える気はないらしい。『まあ、それもそのはずか』と一人納得する。
ゲームでは、彼女が入学式に主人公藤咲 百花に怒っていた理由が秋桜ルートに入ると明らかになるが、その理由は、『10年前に主人公と彼女は近所に住んでいて仲が良かったが、父親の仕事の都合で主人公は遠くに引っ越すことになり、その際に、高校生になるときにまた戻ってこれると父親から聞いていた主人公は彼女に「高校生になったら、君に最高のプロポーズをしに戻ってくる。だからそれまで待っててくれ」と、とても5歳児とは思えないような告白をしておきながら、主人公と彼女が再会した時、主人公はそれを忘れていて、自分だけが思い続けてたことを彼女は許せなかった』というものだった。彼女が怒るのも無理はないだろう。
そうして些か気まずくなりながらも食事を済ませると、食堂を出る。
その後教室に戻りホームルームを終えて、今日は下校となる。授業は来週まで全学年短縮であるため、学園を出て携帯で時間を見るが2時ちょうどだ。
そうして時間を確認していると「あのぉ、相談させてもらえますかぁ」と1時間目と2時間目の間の休み時間に出会った女子生徒がこちらに声を掛けてきた。




