13 夢破れて三日在り ②
教室に駆け込むと、ヒロインの一人で担任の竜胆 美波が点呼を始めている。
俺は「すいません。遅れました」と彼女に報告する。
「授業初日から遅刻ですか、気を付けないと駄目ですよ?」と彼女は優しく、俺を注意する。
「はい、気を付けます」と返し席に着こうと、歩くと
「おい、リオ、授業初日から遅刻とかでマジすげぇな」と、昨日の入学式で遅刻ギリギリに来て、魔法まで使って走っていた男が、声を掛けてくる。
「翔も、昨日の入学式は遅刻みたいなもんだろ」
「入学式は多少遅れてもいいんだよ。それに、結果として間に合ってるからセーフだ」
「なら、俺も授業前に来たから。セーフだな」と、下らない話をしていると担任の竜胆 美波に「二人とも、ちゃんと余裕を持った行動を心がけてください」と二人して注意されてしまう。
そうして、席に着くと、1時間目の開始を告げるチャイムが、教室を木霊する。
「では、皆さん、これから一時間目のホームルームを始めます」
1時間目のホームルームでは、生徒が一人一人簡単に自己紹介を済ませると、担任の竜胆 美波が実技科目について説明を始める。
「実技科目は情報技術、体育、美術、音楽、魔法です。一年生は魔法が必修で、それ以外は選択式になり、皆さんには2科目選んでもらいます。実技科目の授業は来週の水曜日からです。今週末までに、今から配るプリントに希望する科目を書いて私に提出してください。各科目の授業内容については今言ったプリントに書かれています」そう説明を終えると、彼女はプリントを配り始める。
プリントが前から渡ってきたので、1枚取って後ろに渡す。
クラスの全員に行き渡ったのを確認して彼女は「では、今日のホームルームはこれでお終いです。次からの授業も頑張ってください」と少し早くホームルームを終える。
すると生徒達は、一斉に近くの席の人や気になる人に声を掛け始める。そして数人が、主人公とヒロイン、藤咲 百花と桃井 秋桜の方に集まり、どの科目にするのかと聞いている。
そんな中、俺は『ゲームだとこの後、更に生徒が集まって来ていた。このままだと教室を出るのも難しくなりそうだ。一応チャイムはまだ鳴っていないから教室から出れないし、トイレまで持つか?』と徐々に増えていく人垣を意識しながら、膨らんだ膀胱が決壊しないよう、チャイムがなり次第トイレに最速で行けるよう席を立つ。
数秒経ち、チャイムが鳴るのと同時に教室の喧騒を置き去りにトイレに駆け込む。
「ふぅっ」と一息吐き、トイレに無事間に合った俺は教室に戻ると先ほどの人垣は規模を何倍にも膨らませていた。『さっき、速攻で出て良かった』と、意外なところで前世の「桃色コスモス」の知識に助けられ安堵するも『あの様子じゃ暫く席に着けないな。次の授業までまだあるし、外で暇を潰すか』と思い教室を出る。
ふらふらと学園を散歩していると、人気のない場所へ行き着く。『そろそろ教室に戻ろう』と思い、引き返そうとすると、突如として背中に何かがぶつかる。バランスを崩しながらも振り返ると、そこにはぼさぼさの白い髪に分厚い丸眼鏡をかけたお世辞にも綺麗とは言えない女子生徒が涙を湛えて立っていた。
その表情に思わずギョッとして、謝ろうとするが「あのぉ、ごめんなさいぃ」と彼女が先に謝る。
「いえ、大丈夫です。こちらこそすみません。泣いてるみたいですけど怪我とかはないですか?」
「あぁ、それはぁ、大丈夫ですぅ。あなたにぶつかる前からこうですからぁ」
「そうですか。何かあったんですか?」
「そっそれはぁ」と彼女が言い淀んででいると予鈴が鳴る。
「あっ、すみません。もう教室に戻らないと。良かったら今度、話聞きますから!」と言って立ち去る。
こうして、俺と彼女の初の邂逅は慌ただしく終わりを迎えた。