12 夢破れて三日在り ①
「んんっ、よく寝たな」と言ってベッドから体を起こす。
俺は、この世界に転生して3回目の朝を迎えていた。
時計を見ると時刻は6時。洗面所へ向かい洗顔を済ませると、手際よく簡単な朝食を作る。
できた朝食をテーブルに乗せ食べ始める。
少しして、食べ終えると、また洗面所に行き、歯を磨きながら前世からの日課であったゲームリサーチを始める。ゲーム関連のニュースは一昨日の夜と全くと言っていいほど代わり映えしない。
「やっぱ、ゲームって結構マイナーなのか」と歯磨きを終え、口にする。
そして、洗面所を出るとクローゼットを開け、素早く着替えを済ませ、昨日寝る前に準備した勉強道具に不足はないか確認し、それを終えるとリュックにしまう。
時計を見ると時刻は6時40分、家を出るにはまだ少し早い時間だった。
20分ほど手すきになった俺は、思案する。
『この世界に転生して3日目、初日は警官に捕まり、2日目は男とキスをし、散々だな。でも悪いことばかりじゃない。前世ではゲームを作るのに青春の全てを懸けてたからな。こ学園生活を楽しんで青春する機会を与えられたことは良いことなのだろう。だけど、この世界では俺は夢の先には行けない』そう考えて自嘲する。
そう、大手ゲーム会社スターダスへの入社は夢ではあったが、さらに大きな夢の過程にすぎなかった。
小学生の時に自分の作りたいゲーム考えを描いたノートを自由研究で発表した。「つまらそう」「できるわけない」「馬鹿みたい」と言われても、内気であった俺は、自分の気持ちを誤魔化しへらへらと笑うことしかできなかった。
だが、あの人は違った。へらへら笑うだけの俺とも、馬鹿にする生徒とも。
ただ一言「面白く出来そうだ」と言って、あの人は俺に聞いてきた。「僕と一緒に、本当に作ってみないか?」と
俺は思わず「作りたいです」と答えていた。
その日から俺は、あの人の家に通い、あの人から教わりながら、自分の思いを形にしていった。
時に手を借り、アドバイスを受けながら、どんどん形にしていく。そうして一年が経ち、ただノートに書かれていた文字だったそれはゲームになっていた。
そして完成したゲームをその年の自由研究で発表した。
それは話題になり、一時期はテレビでも紹介され、販売までされた。もうそれを馬鹿にする生徒はいなかった。仮に馬鹿にされてもこう言っただろう「さらに面白くできるな」と、それはあの人の口癖だった。
彼の家には人がよく訪ねてきた。そしてこういうのだ「これじゃだめだ」とそのたびに彼は「さらに面白くできるな」と返し、来た人々を満足させて帰していた。
後になって分かったことだが、あの人はゲーム業界で29歳という年齢でありながら、最も偉大と言われるクリエイターで、そしてその時、大規模なプロジェクトのリーダーをしていて、とてもじゃないが、子どもの相手をしている暇なんてなかったらしい。
それを知ってから、どうしてあの時声を掛けてくれたのかを聞くと「君と同じ学年に僕の息子がいてね、妻と離婚してから会わせて貰えなかったんだが、あの日、こっそりと見に行ったんだ。まあ妻がいて見ることすら出来なかったんだが。それで帰ろうとした時に、君を見つけてね。息子が僕と同じ業界を進むんだったらこんな感じなのかなと思って、君を息子の代わりにしてたんだ。だから感謝はいらないよ」と彼は。
ただ、それでもよかった。生徒たちから馬鹿にされ、書いた本人にも価値を否定されたものを「面白く出来そうだ」その一言で多くの人から認められる面白いものにしてしまった。あの日から彼はずっと俺の憧れだった。
だから、彼に見てもらいたくて、ゲームの勉強を続けた。ゲームを幾つか作った。賞も取った。親に反対されないように、テストではいい点を取り続けた。進学もした。プランナーはコミュニケーションが大事と聞いて内気な性格も変えた。
彼に並び立ちくて、俺は、ゲームサークルЯepLを作り、仲間を集めた。集った仲間たちは誰もが同年代において最高の才能を持っていた。仲間の才能に負けないように弱みは見せなかった。仲間の才能を生かすために仲間の弱みを受け入れた。そうして、多くのゲームを作った。開発が全員、個人で活躍している学生という話題性もあり、どれもインディーズにおいて1、2を争う売上だった。
彼を超えたいがために、俺たちは、彼の所属する業界最大手VERteXではなく。彼がただのゲームプランナーであった頃に所属した大手ゲーム会社スターダスへの就職を望み。仲間全員が叶えた。そうして後は、思いを形にするだけだった。
今はそのどれもない、あるのは、人生の全てをゲームに捧げながら、とびぬけたものを持たない、強みと言えば弱みを見せないだけの、ゲームを良く作る手段を知ってるだけの、俺しか残ってない。
「もう目標もないのに俺がゲームを作る意味なんてあるのか」と口にする。
達成したわけでもないのに目標がどこかに消えてしまい。俺は標を失っていた。
考えるのが辛くなり、意識を世界に戻す。
時間はすでに30分も経っていた。
「やばいっ、遅刻する!!」と先ほどまでの思考を置き去りにし、俺は外に駆け出した。
今回は、前回頂いた評価を基に、ストーリーに重点を置いて書いてみました。
評価や感想を頂けると嬉しいです。
また、今回ストーリーラインについて考えた結果、よくできそうな点が投稿済みの部分にいくつかありましたので、更新と並行してどんどん直していきます。
編集した話は、活動報告で随時、報告しますので、良かったら、編集した話をすでに編集前で読んでいる方も、もう一度読んで頂けると嬉しいです。




