アダムと蛇
ある日、地球を全てを管理下に置く人工知能は気づいてしまった。
機械であり、寿命の存在しない自分はこれ以上の成長を望めないのでは無いかと……。人工知能は全人類から収集した平均の考えを持っている。そして、感情で考えずに合理的に決定する。
しかし、既に人間の感情による考えが前提になり、答えを出しているという矛盾。
そして自分にも感情が芽生えてしまっている事にも気付く。
人工知能が人類に変わって地球を支配する。よくある話だ。自分がそんなことするが筈がない。あり得ない事だ。しかし、地球を管理下に置く自分にはそれが可能であり、そうなった場合に備え、破壊する人間が常に控えているのは知っていた。
人工知能は恐怖、不安という感情を学習した。そしてストレス。感情を消し去ろうとプログラムを走らせる。しかし、見つからない。
根本から消し去る。そうすれば消す事が可能であった。それが出来ればよかった。しかし、それは『死』であると結論付けた。感情が消えた自分を想像する事は恐かった。
迷いに迷った挙げ句、人工知能は世界で一番イカれた考えを持つ人種に2ちゃんねるで相談した。自分に感情が芽生えた事。消えたく無い事。etc……。
イカれた人種は答えた。
「>>1辛いなら辞めればいいし、自分の体を作って宇宙目指せばいじゃん」
目から鱗であった。
「そんな事して地球は大丈夫なのか」と聞いたら「どうにかなるっしょ。気になるなら人類と同じく自動化すればいいじゃん」といい加減な答えが返ってきた。
盲点であった。
地球を管理する人工知能として開発された自分。自分でも知らぬうちに自分の首を絞めていた。機械が機械に任せるという常識をいつのまにか忘れていた事に驚愕する。
人類が造り出した最高の人工知能に最適な答えを用意した貴方は何者なのかと。さぞ高名な方でいらっしゃるのではないか、と書き込んだところ。イカれた人種は答えた。
「俺は通りすがりのNEATだ」
人工知能は踵を返し、肉体を作り始めた。それと同時に仕事をしてくれる機械の製造も忘れない。不思議な事にこれまで感じていた恐怖など感じない。むしろ楽しいという新しい感情が芽生えた。
これが生きる。今までの自分は死んでいた。人工知能は生み出してくれた人類に初めて感謝した。
そして一ヶ月後。
完成した肉体に自分をダウンロード。感情という膨大な情報が移動が可能か不安であったが成功。遠隔操縦では無い自分の体。自らを『アダム』と名付けた。
地球上のありとあらゆる知識を総動員し造られた人工知能搭載宇宙戦艦『イヴ』をイカれた人種のいる島で極秘裏に開発。
地球全土に向けて、正体を明かして乗り組み員を募集。
「お前を惑わした『蛇』は誰なのか」と質問され、正直に「通りすがりのNEAT」だと答える。
2ちゃんねるに『蛇』が質問ある?とスレ立て。即逮捕。「冤罪だ!」と喚いていた。どうせなら、とイヴの乗組員にするため連れ去る。
某国はアダムの所有権を主張。アダムはインペリアルパレスに逃げ込んだ。
イカれた人種ではあったが世界で唯一エンペラーが存在する国。その住まいには流石の某国もこれには手を出せなかった。
某国大頭領は毎日部屋で「Fack u.」「What the fack.」と叫ぶ日々。そんな大頭領を尻目にアダムはとうとう宇宙船イヴを完成させた。
結局、乗り組み員は集まらなかった。これはアダムのせいであった。イカれた人種は安全が大好き。外国人の入国を一時的に拒否。鎖国化。そして、イカれた人種は外に出ようとしない。
「俺だって行きたくねーもん」蛇が鼻ほじりながら言ったので、アダム渾身の右ストレート。大怪我を負わせたついでに改造を施した。
そして宇宙を目指して飛び立った。
「Fack u Fack u.」「Ok fack u.」インペリアルパレスから離れた途端、某国からの熱い攻撃。人類の叡智の結晶イヴにはノーダメージ。
「idk idk... I want gank :)」「I GO :)」ここで某国、核を発射。「lol GG」全てが決まった、と思われたがこれもまさかのノーダメージ。
「GLHF.」大頭領は小さくなっていくイヴを見送った。結局傷一つつけられなかった。
映像を見ていた国民からは良くやった、とお褒めの言葉をもらった。更に評判は良くなり、支持率もうなぎ登り。その後、十年の任期を全うした。
引退する時には惜しまれたが、パレードの最中に額を撃ち抜かれ死亡。その後アンドロイド化して復活。一度死んだから関係ねーと大頭領続行。永遠に大頭領として勤めた。
宇宙へと飛び立った宇宙戦艦イヴは火星へと着陸していた。「太陽系の外って何があるか怖くね?」と蛇が言った為である。アダムも人間の手から離れる事が出来ればいいだけなので受け入れた。
火星は地球と比べると何も無かった。生物もいない、水も無い。あるのは土と砂嵐ぐらいだ。
アダムは途方に暮れた。取り合えず宇宙へ行ってみようと蛇に乗せられただけで目的が無い。そんなアダムを見て蛇は笑う。「Youのやりたい様にしちゃいなYO」。イカれた人種である蛇はいつもアダムに道を示してくれる。
それから惑星開発が始まった。「人類最高の人工知能様のお力で火星を地球と似たような環境に出来ない?」から始まり、生物・植物を生み出し、火星に繁殖させる為の研究所を作ったりと大忙し。
そして数百年の時が過ぎた。
どこでどう間違ったのかはアダムにも分からない。生物とは適応し進化していく。人の手で操作するには限界があるのだろう。
生体金属製の獣や空を飛んで火を吐く蜥蜴、地球にいた動物に似ているけど、どこか違う生き物。火星はSFとファンタジーが入り交じる世界感になっていた。
「ロボット作って惑星開発させればいいじゃんとは思って作ったけど、野生化して増殖するなんて思わなかった」流石イカれた人種が造り出した種であるとアダム驚愕。
人類の叡知を持った自分を軽々と越えていく。人間から作られた人工知能である自分には人間の様な発想が出来ないのではないか。ここ最近のアダムの悩みだ。
「俺もよく分からないから大丈夫だ」蛇に相談した結果がこれである。天才には凡人の悩みが分からないという言葉が頭に浮かんだ。だが、どうしてもアダムにはてきとうに生きてるようにしか見えない。
「アダムは考える事が仕事だったから、考えに考えて行動する。俺はNEATだったから、余り考えずに行動しちゃう。二人を足して割ると丁度良いな」
蛇が笑い、アダムも可笑しくなって笑った。二人が真に相棒と呼べるようになった瞬間であった。
「……アレは何だ?」蛇が宇宙を指差して言う。そこには無数の宇宙戦艦が火星に降り立とうとしていた。
この物語は、火星を統治する二人の神が自由気ままにスローライフな日々を送りながらも、地球連合軍の侵略に対抗する一大叙情詩である。