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44 練習

 結局、その後はロゼッタの体調を考慮して医療室で安静にし翌日、私は魔術師の部屋に向かって以前から言われていた通り黒縁眼鏡の魔術師グラウクスさんに魔法の手ほどきを受けることになった。


「以前も言ったように、コツさえ掴めば簡単ですから。ひとまず、ロウソクに火をつけるところから火魔法から始めましょうか」


「はい」


「この部屋だと燃えやすい書物が多いです。万が一のことがあるといけませんから隣の部屋に移動しましょう」


 案内された隣の部屋は、天井まで届くほどの高さがある本棚がいくつも並んで壁がほとんど見えなかった魔術師の部屋と対照的に、頑強そうな石造りの壁が四方むき出しになっていて部屋の中央には天井からシンプルな金属製の照明器具が鎖で吊り下げられていた。


「隣の部屋とはずいぶんと違うんですね」


「魔法の練習で暴発でも起これば事ですから、練習部屋は何が起こっても大丈夫な仕様にしているわけです」


 長髪の魔術師は、私の前に白いロウソクが立てられている金属製の燭台を置いた。


「手に魔力を集中させて術式を思い出しながら、火が付くイメージを強く持ってください」


「分かりました」


 グラウクスさんに言われた通り、私が両手に力を入れると手の平がかすかに光を帯びてきた。


「そうそう、その調子で手に魔力を集中して!」


「くっ……!」


「もう一息です。マリナさん!」


「ううっ! これ以上は、もう無理です……!」


 なんとか火をつけたいと思っているのだが力尽き、手から発されていた光が失われていく。それを見た黒縁眼鏡の魔術師は腕を組んで首を傾げた。


「おかしいですねぇ。この程度は簡単にできると思っていたのですが……」


「すいません」


 消沈して項垂れていると長髪の魔術師は柔らかく微笑んだ。


「謝らなくても良いですよ。まぁ、まだ初日です……。あまり気負い過ぎない方が良いでしょう」


「はい……。ところで、グラウクスさん」


「なんでしょうか?」


「侍女フィオーレの件はどうなりましたか?」


 私が茶髪の侍女について名前を口にした途端、グラウクスさんの顔から笑みが消え去った。


「……侍女フィオーレの遺体は発見された昨日の内に、実家に引き取られました」


「ご遺族へは何て説明したんですか?」


「どうやら、自殺のようだと説明しました」


「その説明で侍女フィオーレの遺族は納得したんですか?」


「公爵令嬢リリアンヌも自殺のようだと話したため、侍女フィオーレの実家も納得せざるをえなかったようですね」


「リリアンヌが……」


「詳細を調べるなら侍女フィオーレの遺体を解剖すれば、新たな情報が出るかもしれないと遺族に告げましたが、死因がはっきりしたところで侍女フィオーレが生き返るわけでもなく他殺の線が薄いのなら、遺体を傷つけたくはないとご遺族は遺体の解剖を拒否されました」


「そうですか」


 確かに亡くなった者の遺体を切り刻んだ所で死者が生き返ることはない。おまけにこの世界では科学的な精密検査ができるわけではない。メスを入れたところで、せいぜいノドにどの程度ユリの花が詰まっているか、胃の中にまでユリの花が詰まっているか確認する程度になるだろう。


 侍女フィオーレの遺族感情を考慮すれば、それを確認するために遺体を切らせてほしいと主張する気にはなれなかった。私が肩を落とすと長髪の魔術師は自身の黒縁眼鏡を手でクイと上げた。


「哀しいことではありますが、死んだ者のことをいつまでもくよくよと考えていても仕方ありません。他殺の疑いが濃いなら引き続き、調べなければなりませんが侍女フィオーレの主人である公爵令嬢リリアンヌが自殺と判断して事件として調べる要請は出しませんし、事件性なしと判断したからには国としてはこれ以上、調べることはないでしょうね」


「そうなんですか……」


「それはそれとして、私は第一王子からマリナさんへ魔法の指導をするように指示されておりますから、経過報告をしないといけません」


「はぁ」


「魔法の指導を始めても、マリナさんは魔法が使えないという報告はできれば避けたいので一緒にがんばりましょう」


「はい……」


 こうして長髪の魔術師グラウクスさんによる魔法の指導が連日、行われることになった。しかし、私は何故か一向に魔法を使えるようにならなかった。

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