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4 赤髪の騎士、ヴィットリオ

 ロゼッタにうながされ廊下に出ようとして、はたと気づいた。私がここに来た時、持っていたダンボール箱を魔方陣の上に置きっぱなしだということに。


「あ、ちょっと待って下さい」


「どうかなさいましたか? 聖女様」


「荷物があるので……。よいしょっと」


「それは?」


「亡くなった祖父の遺品です。ちょうど整理して箱につめてたので……」


 中身は主に業務用のマスクや手袋が大量に入った箱や古本などだ。豪華なシャンデリアが輝く中世ヨーロッパの城といった雰囲気の場所で、お得な業務用アイテムが入った茶色いダンボール箱を抱えてるなんて場違いな事この上ない。しかし、私個人の持ち物はこのダンボール箱だけなのだから、これを置いていくわけにもいかない。


 ひとまず『祖父の遺品』という無難な返答をしながら重量感のあるダンボール箱を「よっ」と持ち直した時、不意に両腕にかかっていた重みが消えた。


「この箱は俺が運ぼう」


「あっ、ありがとうございます」


 私が持っていたダンボール箱を代わりに持ってくれたのは、ディルク王子の横にひかえていた銀髪の騎士だった。美しい銀髪に碧玉色の瞳。いかにも貴族といった雰囲気の美形だ。間近で見ると銀髪と同じ色の獣耳も微妙に動いていて作り物とは思えない。


 やはり異世界というのは本当なのかと半信半疑ながら落ち込んでいると、無表情な銀髪の騎士を見てニヤニヤと笑っている赤髪の長身男性が視界に入った。同じく第一王子の側にいた赤髪の騎士だ。


「アルベルトが女に優しくするなんて珍しいじゃないか? さては聖女様に惚れたな?」


「何を言ってるんだヴィットリオ! 細腕で重そうな荷物を抱えていたんだから、手助けするのは当然のことだろうが!」


「じゃあアルベルトは聖女様に惚れたり、下心がある訳じゃ無いのか?」


「ある訳ないだろう! バカか貴様は!」


 銀髪の騎士が本気で反論すれば、赤髪の騎士はニヤリと口角を上げて実に良い笑顔になった。


「そうか! じゃあ、ライバルが一人減ったな!」


「は?」


「聖女様、俺の名前はヴィットリオだ! 見ての通り、騎士だから聖女様のことは俺が守ってみせる! 安心してくれ!」


「はぁ……。私は(ひじり)真理奈と申します」


 赤髪の騎士ヴィットリオのテンションについて行けず生返事な自己紹介なってしまったが、赤髪の騎士は全く気にする様子もなく私の右手を両手でガッシリと握り、ブンブンと握手ししてきた。


「マリナ! なんて素敵な名前なんだ! さすが聖女に相応しい! 実に美しい名前だ!」


「そうですか?」


「ああ、心からそう思うよ!」


 私のファーストネームを無駄に絶賛しながら、満面の笑みを浮かべている赤髪の騎士ヴィットリオは、唖然としながら両手でダンボール箱を抱えている銀髪の騎士に視線を向けた。


「ちなみに、そこで間抜けヅラを晒してる銀髪の騎士はアルベルト。童貞だ」


「だっ、だ、だ、だ、誰が童貞だ!?」


「ぷーっ! 顔が真っ赤だぜ! これだから童貞は!」


 童貞と言われた銀髪の騎士は顔どころか一気に首まで赤くなった。ヴィットリオはそれを見て自身の手で口をおさえながら肩を揺らして爆笑している。


 二人の騎士を後ろから見ていた黒縁眼鏡の魔術師、グラウクスは呆れ顔で鳶色の長髪をかき上げた後、大きなため息をついた。


「ロゼッタ……。ヴィットリオの相手をしていると切りがありません……。聖女様をご案内して下さい」


「あ、はい。では聖女様。客室へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

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