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36 行方

 雨は変わらず降り続いている。薄暗かった窓の外は夜の帳が降りたことで闇に包まれている。私と長髪の魔術師グラウクスさんとでソファに横たわるロゼッタの容態を見守っていたが、当初に比べれば随分と血色が良くなり呼吸も安定している。


「ロゼッタがユリ成分を摂取してから時間が経ちましたが、嘔吐の症状は出ないし状態は落ち着いたようですね……」


「マリナさん。ユリ中毒になると嘔吐を起こすのですか?」


「はい。じわじわと時間をかけて胃から吸収されたユリ毒を身体が拒絶するのでしょうね。しかし、身体が嘔吐の症状を出す時にはすでにユリ毒が胃から吸収された後なので手遅れなんです」


 猫がユリをかじったり、ユリ成分の含まれる水を舐めた場合、ユリ毒を摂取した直後には何の症状も出ないということも多い。だが四時間ほど経過してから一度目の嘔吐が始まり、それが収束した後、丸一日か二、三日ほど経過してから再び嘔吐症状が出る。


 そして、ユリ毒が原因の激しい『けいれん発作』が頻発し、猫は耐えがたい激痛に襲われる。けいれん発作によって自分で舌を噛んで出血し、口元が血まみれになるというケースもある。


 さきほど第二王子やアルベルトさんにユリ毒で腎臓が壊死して『急性腎不全』や『尿毒症』になると言ったが、端的に言えば排尿することができなくなるのだ。


 ユリ毒で腎臓が壊死した上、排尿まで出来ない苦しみというのは想像を絶する。最先端の科学治療を受けさせて透析などの処置をしても猫の身体がひとたびユリ毒を吸収してしまっていたら、もはや手のほどこしようはなく余命数日という状況になる。


「発見と処置が早かったのはロゼッタにとって、不幸中のさいわいでしたねぇ」


「そうですね……」


 小さく息を吐いた時、客室の外から控えめにドアがノックされた。再び長髪の魔術師が立ち上がって客室のドアを開けるとそこには金髪碧眼の第二王子がいた。


「レナード殿下」


「ロゼッタの容態はどうだ?」


「落ち着いています。ユリ毒の影響は今のところ見られません」


「そうか……」


 金髪碧眼の第二王子はソファに横たわるプラチナブロンドの侍女を見つめながらホッと息を吐き、安堵した様子で自身の胸をなでおろした。


「公爵令嬢リリアンヌの侍女、フィオーレはまだ見つかりませんか? レナード王子」


「ああ、ヴィットリオやアルベルト。ほかの者たちにも探させているのだが、ようとして行方が知れぬ……。城内で居そうな部屋や場所はあらかた捜索し終えたはずなのだが……」

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