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35 雨音

「少し冷えてきましたねぇ……」


「そうですね」


「暖炉に火を入れましょうか」


 そう言うと長髪の魔術師は石造りの暖炉に入っている太い薪に魔法で火をつけた。炎に包まれた薪は暖炉の中でパチパチと高い音を立てながら勢いよく黄金色の炎を上げて燃え盛る。


「さすが魔術師……。すごいですね」


「この程度、造作も無いことですよ。マリナさんも魔法を習えばすぐに使えるようになるでしょう。そこにいるロゼッタだってできる初級の火魔法です」


「ロゼッタも?」


「ご覧になったことないですか?」


「ええ、ロゼッタは私の前で魔法を使ってくれたことがないので」


「そうなのですか……」


 布張りのソファに横たわり、まぶたを閉じているプラチナブロンドの侍女について何気ない話をしていた時、客室の外から数回、ドアをノックされた。


 流し目で茶褐色の木製ドアに視線を向けた長髪の魔術師は、立ち上がってドアの方に向かおうとする私を手で制してニッコリと微笑んだ。


「マリナさんはロゼッタを看ていて下さい。来訪者は私が見ましょう」


「……じゃあ、お願いします」


 黒縁眼鏡の奥で鳶色の瞳を細めて穏やかな笑顔を貼り付けてはいるが、グラウクスさんは毒を盛られ臥せっているプラチナブロンドの侍女について第二王子から任されている状態なのだ。


 有無を言わさぬ雰囲気を察した私が、グラウクスさんの意図を察して軽く会釈すると長髪の魔術師は客間のドアノブに手をかけて、ゆっくりと開いた。すると、そこにいたのは銀髪の騎士。ロゼッタの実兄、アルベルトさんだった。


「おや、アルベルトでしたか」


「ああ」


「公爵令嬢リリアンヌの侍女は見つかったのですか?」


 黒縁眼鏡をクイと上げながら長髪の魔術師が尋ねると、銀髪の騎士は眉根を寄せて首を横に振った。


「いや、それが見つからないんだ」


「え? リリアンヌの所にいるんじゃないんですか?」


 私が聞くとアルベルトさんは困惑顔で、やや肩を落とした。


「俺とヴィットリオはこの客室を出た後、真っ先に公爵令嬢リリアンヌの所へ行ってみたんだが、公爵令嬢は『侍女フィオーレは自分の元に戻ってない』と言っている。こちらでは変わったことはなかったか?」


「ここは特に変わったことはありません」


「そうか……。もしかしたら、侍女フィオーレがやって来る可能性もある。廊下に警備兵を配置しておくが、念のため気を付けてくれ」


「分かりました」


 私やグラウクスさんが頷くと銀髪の騎士は再び、茶髪の侍女フィオーレの捜索に戻るのだろう。足早に立ち去った。


「厄介なことになりましたねぇ……。ユリ毒混入の実行犯が即座に拘束できないというのは」


「でも、この城内から逃げ切ることは難しいはずですよね?」


「そうですねぇ。逃げるのは、まず不可能でしょうが……」


 長髪の魔術師は自身の唇に手を当てて口をつぐむと、雨音が強くなる窓の外を見やった。

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