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28 粉

「どうしたと言うのだ? ロゼッタ!?」


「なんでこんなことに……?」


 第二王子とアルベルトさん、ヴィットリオさんが控えの部屋に入ってきて、ぐったりとしているロゼッタの上半身を起こした。


「ロゼッタは水を毒味をしたと言っていました」


「毒味? まさか……」


 アルベルトさんは実の妹が毒を摂取したかも知れないと聞き、唖然としている。私は立ち上がってテーブルの上を見る。ガラス製の水差しには水がたっぷりと入っている。


 ロゼッタが毒味したのはこの水で間違いないだろう。私は水差しに顔を近づけて匂いをかいでみたが、何の異臭も感じられない。見た目はごく普通の無色透明な水だ。しかし、よくよく見ると水差しの側に黄色い粉が落ちているということに気付いた。


「この黄色い粉……。もしかして」


「黄色い粉? 確かに粉が落ちているな」


 赤髪の騎士が私の横に立って、不審そうな目で水差しの横に落ちている黄色い粉を見つめて鼻をヒクヒクさせている。その姿を横目に私は回想していた。


 第二王子と公爵令嬢リリアンヌが庭園でユリの花を見ていたときに、強風が吹いたことで「危ないから早く帰りましょう」そう言ってロゼッタは急いで客室の方へ戻った。


 そのあと客室にやって来た公爵令嬢から胸元に赤ユリを投げつけられたロゼッタは、震える手で床に落ちた花粉を布でぬぐって、紺色のドレスに黄色い花粉が付いてしまったからと言って着替えていた。


 そして今、黄色い粉が側に落ちている水差しの水を飲んでロゼッタが倒れている。さらに隣の客室には公爵令嬢リリアンヌから贈られた赤ユリが飾られている。そこから導き出される答えは一つしかない。そして獣人であるロゼッタが『あの特性』を持っているなら事態は『最悪』だ。


「アルベルトさん……。もしかして、ロゼッタは『猫の獣人』ですか?」


「ああ、ロゼッタも俺も猫獣人の家系だが」


「なんてこと!」


 恐れていた最悪の状況だと分かり、私は悲鳴を上げそうになる口を自分の両手でおさえた。そんな私を怪訝そうに見た金髪碧眼の第二王子は状況が把握できていない様子で当惑した表情を浮かべている。


「どういうことだ? 説明してくれ?」


「この粉は……。ユリの花粉だな」


 テーブルに顔を近づけた赤髪の騎士が、黄色い粉の匂いをかぎながら呟いた。


「ヴィットリオさん、分かるんですか!?」


「俺は犬の獣人だからな……。鼻がきくんだ。水差しの水からは、わずかだが植物の匂いがする。恐らく一度、ユリの茎を水差しに浸けたな。その時にユリの花粉がテーブルに落ちたんだろう」


「つまり、ロゼッタはユリの成分が入った水を飲んでしまったのか……」


 銀髪の騎士は正確に事態が把握できたと同時に状況の深刻さも理解し、顔色が蒼白になった。そして、私も『猫のユリ中毒』について思い出す。


「猫にとってユリの花は猛毒。直接、ユリの花や茎、葉をかじったり食べたりすればユリ中毒になります。そして、ユリの花を生けていた水を摂取しても同様にユリ中毒の症状が出る」


「猛毒だと? 解毒剤はないのか!?」


「私が知る限り、ユリの毒に関しては解毒剤はありません」


「そんな……」


 私の返答を聞いた第二王子は絶句した。

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